67、モモ、王様達と面会する~まるく終われば全てが良しになります!~後編
「遅れてすまん。なにやらおかしな話をしているようだな。母上、その子を下ろしてあげてはどうだ? まだ挨拶もしていないだろう?」
「おぉ、そうであった。この愛らしさに我を忘れたぞ。私は王妃、ナイル・ティナク・エストワージと言う。これは私のもう一人の息子、ジュノラスだ。そなたはモモであろう? どうだ、私の娘になる気はないか?」
「えぇ!?」
「母上、またそのようなことを……」
床に足がついたのはいいけど、いきなり思わぬことを持ち掛けられて、桃子は素っ頓狂な声を上げた。恥ずかしいけど、誰も気にしてないみたいだ。むしろそれどころではない。お兄さんが額を手で押さえる。
「私は本気だぞ。いくら軍神より加護を得ているとはいえ、後ろ盾はある方がよかろう。王妃の養い子ともなれば誰もうるさく言わぬ。なに心配することはない。最後までしっかり面倒はみてやる。ゆくゆくは、私の目に適う強き男に嫁がせてやろう」
両頬を意外と硬い手の平に挟まれて、王妃様が優しく笑う。好意からの申し出なのはわかるけど、いきなり結婚先まで話が飛んだよ!? ダッシュで突き進む王妃様に、桃子は呼吸困難寸前である。このままじゃ、見ず知らずの誰かのお嫁さんにされちゃう!
「駄目だ」
低い声で拒否したのはバル様だった。助けが入ったことにほっとしていたら、王妃様がなにやらとても驚いた顔をした。
「バルクライ……そなた、もしやモモに惚れておるのか!? 女を寄せ付けない男であったのは、このような趣味が……」
「そう言えば、その子と同衾しているようなことを言っていたな! そうか、あれほど助けを急いだのは、お前が心を寄せた相手だったからか。まさか、このように幼い子とは思わなかったぞ」
「父上にも説明したが、モモの本来の年齢は十六歳だ。今は召喚の影響で幼女の姿をしているにすぎん」
「不思議なこともあるものだな。元には戻れないのか?」
「一年ほどかかるそうだ。数日前に、軍神の計らいで一度だけ元の姿に戻ったのを見ている」
頬から手を離されて、周囲からマジマジと見下ろされる。あの、こんな美形さん達に囲まれるのは、さすがにちょっと……。すすすっとバル様の後ろに隠れる。ここが安全地帯だよ。心臓のためにも休憩させてね。
「はははっ、隠れてしまったぞ! 面白い子だ。正しく軍神ガデスの加護を受けているのだなぁ。その姿では大変なことも多かっただろう?」
「バル様やお屋敷の皆が助けてくれたので、不自由はしてません。バル様に保護してもらえて、今は良かったと思っています」
最初は驚いたし、短い手足に苦労することもあったけど、今の日常生活はほとんど自由に行動出来ている。これも周囲の人達のおかげである。ありがたいねぇ。心の中で手を合わせておく。
「中身が十六歳というのは本当だな。好ましい子のようでオレも安心したよ。お前が惹かれたのはこの性格と元の姿を見たせいか?」
「……わからん。しかし、他の者とモモが添うのは不愉快だ」
一緒に探すって約束したもんね。バル様は飾らない言葉で答えながら桃子を凪いだ目で見下ろした。五歳児に戻っているから視線の距離が遠いね。私も見上げるのが大変だけど、バル様もそれは同じだろう。そのせいもあるから抱っこの機会が多いんだよね。
「なんとまぁ、それほどに執着しているのか!? これは祝いの席を設けねばならんな。ラルンダ、モモも入れて家族で食事をしないか?」
「構わんが、本人の意見を聞いてやれ」
「いらん。モモの対面は果たしたのだから帰らせてもらう」
両脇に手が伸びて、抱き上げられる。あ、帰りはこれでもいいんだね? バル様はさっさと踵を返してしまう。嫌っているわけではないようだけど、本当に長居はしたくはなさそうだ。いいのかなぁ、このまま帰っちゃって。
「待て、バルクライ。側室の件、頭の隅に入れておくがいい。モモはこの国の愚かな者達の被害者だ。だからこそ、不自由のないようにと考えているのだ。彼女の意思を優先することは約束しよう。だが、国王として国の益を考えるのも王の仕事だ」
「……たとえ陛下のお言葉と言えども、お断りする。愛する者は一人でいい」
どきりとする言葉だった。王族なのに側室は取らないと宣言したのだ。バル様の顔を見上げると、いつもの無表情の中に本気の色が見えた。
バル様は背中越しにそれだけを返して、桃子を抱っこしたまま部屋を出ていく。腕の横から顔を出すと、遠くなる三人の驚いた顔が扉が閉められるまで見えていた。一応、険悪な空気は消えたし、顔合わせも終えたんだから、まるく収まったってことにしておこう! うん。




