66、モモ、王様達と面会する~まるく終われば全てが良しになります!~中編その二
緊迫した空気を打ち破ったのは、バル様がなにかに反応した瞬間だった。
桃子を一瞬で抱えて、横に飛び離れる。ひゅんっと空気を切る音がして、目の前を何かが素早く回転しながら飛んでいく。それをパシッと手の平で受け止めた王様は、呆れたようにため息をついた。その姿がバル様とそっくりで、ちょっと笑いを誘われる。やっぱり親子だね。
「幼い子の前でいい加減にせよ! そなた等男はそれだから駄目なのだ!」
勝気な声に扉を見れば、橙色の豊かな髪を背中に流した騎士の恰好をした女の人が腕を振りかぶった格好で止まっていた。えっ!? と思って王様を見れば、手の中に万年筆らしきものがある。状況から見て、この女性が王様に向かって投げたようだ。ひえぇ!
「義母上……いくらなんでも危ないぞ」
「フンッ、そこな男など知ったことか! 黙って聞いておれば王妃の私を無視して次期王を決めようとは何事だ! 貴様、私と婚姻を結んだ時に約束したことを忘れたとは言わせぬぞ!」
「……忘れてはいない。国の大事を決める時には、必ず誰よりも先にお前に話をすることだろう? 今回はバルクライを試しただけだ」
「身内に対して策略を巡らそうとは、呆れて物も言えん! その腹黒さをどうにかせよ!」
「十分言っているではないか……」
迫力美人さんが、ものすごい勢いで王様を罵っている。けど、あの、たぶん、この人が王妃様なんだよね? 王様タジタジになってるよ。
私こういうのなんて言うか知ってる! 恐妻家だよね? 担任の江藤先生がそう言ってた。草臥れた四十六歳の男性教師を思い出す。ため息が多い先生だったっけ。それで、千奈っちゃんと一緒に、体調が悪いんですか? って聞いたら、薄笑いを浮かべて泣きそうな顔で答えたんだよね。妻がね、帰りが遅いと怒るんだよ……って。二人して頑張れーっ! って、慰めちゃったよ。ちょっと前のことなのに、なんか懐かしいなぁ。
「バルクライ! そなたもそなただ。腹を痛めて産んだのはリリィだが、私はそなたも我が子と思い育てて来たのだぞ。なればこそ、そなたに正当性を理由に引いてほしくはない。男なら野心くらい持って見せよ!」
「王冠には興味がないだけだ。現状に不満はないが」
「何を言う! 我が子ならば高みを目指してみよ」
「バルクライはルーガ騎士団でもう高みに昇りきっているだろう」
「現状で満足するなと言っているのだ。まったく、私の周りの男共と来たら、情けない言い訳ばかりを並べおって。そなたのような可愛い娘こそ私は欲しかったぞ」
「うひゃう!?」
突如、王妃様にむぎゅっと抱きしめられてそのままだっこされた。あ、いい匂いする。香水かなぁ? ふんわりと花の香りが抱きしめられた腕からしていた。男装の麗人的な恰好をしているけど、やっぱり迫力のある美人さんだ。まつげがすごい長いし、綺麗な緑の瞳が悪戯に笑っている。
「やはり女だ。女の子がいい。バルクライ、そなた女になる気はないか?」
「……ない」
「そなたなら女装でも可だぞ?」
「しない。兄上にでも頼んでくれ」
バル様がため息交じりに断った。バル様の女装姿……すんごい長身の美女になりそうだねぇ。ちょっと頭の中で想像してたら、無言の視線が向けられた。はい、もうしない、ヨ? 動揺が頭の中にも表れた。
「止めてくれ。オレが女装なんぞした日には、見るからにゲテモノになってしまうぞ」
あらら? 扉から入って来たのは、顔に苦笑を張り付けた男の人だった。年はバル様より三、四歳ほど上に見える。男らしい上がり眉に快活な性格が垣間見える大きな口。体格はバル様と同等だろう。猫っ毛の髪は橙で目は青だ。男らしさが全面に出ているこれまたタイプの違う格好いい人だ。たぶんこの人がバル様の母違いのお兄さんなのだろう。




