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62、モモ、病人の振りをする~尊敬する人の役に立てるのは誇らしいもの~前編

 扉をノックする音が三回した。一拍の間を置いて、扉が開かれる。陽射しの差し込む明るい室内で、天蓋付きのベッドにバルクライが近づいていく。その後ろにはディーカルと眼鏡をかけた青年が続く。


「モモ、起きているか? 治癒魔法を使える者が来てくれたぞ」


 天蓋付きのベッドはカーテンのような長いベールに閉ざされており、横たわる子供の影がうっすらと見えるだけで、動く気配はない。 


 バルクライは無言で青年に頷いて促す。青年は痛ましそうに顔を歪めると、足早にベッドに近づいていく。


「傷を見せてくれ。僕なら治せるかもしれない」


 そう言いながらゆっくりと距離をつめて、ベールを手で避ける。顔を見ようとのぞき込んだ瞬間、青年は何かに飛びつかれて尻もちをついた。


「確保―っ!」


楽し気な幼い声が部屋に響いた。



 というわけで、お兄さんを確保した桃子です! 眼鏡がちょっとずれて、呆気に取られた顔をしているお兄さんに、桃子はまず謝る。


「騙しちゃってごめんね、お兄さん。こうするしか、お兄さんを見つけ出す方法がなかったの」


 バル様が考えた方法とは、相手の良心を試し、自ら出てくるようにすることだった。打算なく桃子を助けてくれた者ならば、必ず助けを申し出るはずだと読んだのだ。


 いつまでも抱き着いたままじゃ話がしにくいので、桃子はお兄さんから離れてベッドによじ登る。振り返れば、良い感じにバル様達と視線の距離が近くなった。よし!


「え……っ? それじゃあ、高熱を出したというのは……」


「お前を見つけるためについた嘘だ。モモを助けた行為に裏があったのか否かを試させてもらった」


「なんでさっさと自分が助けたと名乗り出なかったんだ? お前がそうしてりゃあ、こっちもここまで回りくどい真似はしなくてすんだんだぜ?」


「それは……」


「それとも本当は裏があったのかぁ?」


 お兄さんが勢いよく立ち上がる。眼鏡を正しい位置に戻しながら、強い口調で反論した。


「そんなものはありません! 僕は子供の頃からルーガ騎士団に憧れていました。けれど、御覧の通りに僕は体格的にも恵まれておらず、どんなに運動しても平均的な力しか付かなかったんです。そんな僕が騎士団に入団するのは夢のまた夢でした。だから、得意な治癒魔法を生かす道を選んだんです。これならいつか人々を癒す中で、あなた方のお役にも立てる日が来るはずだと」


「それとチビッコを助けることがどう繋がる?」


「バルクライ様が、この子の保護者を務めていると知り、その、いても立っても居られず……」


 ディーの挑発に語気を強めていたお兄さんは、そこで顔を赤くしてもごついた。あぁ、あれだね? 憧れの人の助けになりたいっていう気持ち。髪と目が茶色のせいもあるかもしれないけど、純朴な感じが主人に従う素直な忠犬みたいで、うん、なんか和んじゃうね。

 

「……そうか。お前はお前の信念に従い、モモを助けてくれたのだな。試すような真似をしてすまなかった。礼を言いたい。感謝する」


「いえ、いえ、そんな……過分なお言葉をこちらこそありがとうございます……っ!」


 お兄さん感動して泣きそうになってる。そうだよね、憧れの人にお礼を言われたらすごく嬉しいよね! 桃子はうんうんと頷きながら、三人のやり取りを聞いていたが、鼻をすするお兄さんにベッドの上に立ち上がってお礼を言おうと口を開く。


「お兄さん、本当にありがとう! おかげで生きてバル様の元に帰れたよ」


「ずっと心配していたんだ。僕は中途半端にしか協力できなかったから」


「十分だったよ。おかげでバル様にすぐ見つけてもらえたもん」


 痛い思いはしたけど十分報われた。お兄さんがくしゃっと笑う。純朴な笑顔にほのぼのした空気が漂う。そう言えば、これを聞いておかなきゃね。


「お兄さん、名前はなんて言うの? 私はモモだよ。子供らしい振りをしてたけど、本当はこんな感じなんだ。もし良ければ、これからも仲良くしてほしいなぁ」


「こちらこそ。よろしく、僕はタオ・ザルオス。理由はどうであれ、ここに呼ばれたのだからモモの怪我を治癒するよ」


「待て」


 桃子に手の平を向けようとするタオをバル様が止めた。そうなんだよね。高熱が出たなんて嘘をついちゃったけど、本当に治癒魔法を受けるつもりは最初からなかった。どんな感じなのか、ちょっと興味はあるけどね。ちょっとだけ、ちょっとだけ見たいなぁ……こらっ、わくわくしないの! 顔を出した五歳児を叱っておく。




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