59、モモ、タイムリミットを迎える~さらば十六歳、また会う日まで~
お使いを無事に終わらせた桃子達はお屋敷で昼食を美味しく頂いて、食後のまったりした時間を楽しんでいた。お腹はぽんぽこりんで、とっても幸せである。桃子はにこにこしながら、お屋敷の庭を散歩中である。
後ろを振り返ればいつもの髪型と私服に戻したバル様がそんな桃子を眺めていた。テラスの手すりに寄りかかって庭を眺める美形……絵になるね。桃子には絵心が皆無なので、ぜひ上手な人に描き残してほしい。そうしたら、給料として貰ったお金をはたいて買うよ! それで部屋の壁に飾りたい。毎朝、おはようと共にその絵を見たら、心が浄化されるんじゃないかなぁ?
桃子の心の声が聞こえたわけではないだろうに、バル様が目を細めた。あの、そんな熱心に見てても、面白いことないと思うよ? それとも変顔した方がいい? おふざけに走りたくなるのは、泣きついてしまったことを思い出すからだ。あんな風に泣いたのは祖母が亡くなった時以来だ。……恥ずかしいや。
バル様の目を見てられずについ逸らした時、身体に違和感を覚えた。自分の身体を見下ろせば、うわぉ!? まるで風船が縮んでいくようにシュルシュル身体が小さくなっていくではありませんか! 桃子は悟った。ひっじょーに残念なことに、軍神様がかけてくれた魔法は解けてしまったようだ。再び登場、五歳児桃子である。
スカートと一緒に、大事な装備であるパンツもストンと落ちた。桃子は悲しみに落ちた。ダボダボのシャツだけが今や唯一の装備品である。またこれだよぅ! 桃子は五歳児らしからぬため息をふはぁっと吐いて、近づく足音に顔を上げた。
「バル様、戻っちゃったよ」
「あぁ、だが、どちらもモモには違いない。オレが十六歳のお前と会えたのは運が良かったのだろう。キルマージ達には知らせていないから、後で文句を言われるだろうが」
「なんで?」
「王との面会が一週間後になったからな。準備をする時間を作るためにも、仕事に支障が出るのは困る」
出ちゃうの? ただ元の姿に戻っただけで大した私じゃないよ? ……お胸もないしね。五歳児に逆戻りしてから、皆無になったのでさらに寂しい。お胸なんて、なくても生きていけるもん……っ。気にしちゃ、気にしちゃ駄目だよね!
「モモ、おいで」
バル様の腕に抱きあげられる。だっこされると、五歳児精神に引っ張られて安心してしまう。なんかもう、本気でお胸はいいやって気になる。バル様の顔を見上げてにこーっと笑うと、美形さんのお顔が近づいてきて、目元にちゅってされた! なんでここでまたちゅうなの!?
「十六歳のお前にこうしたらマズイが、五歳児なら許容範囲だろう」
「許容範囲違うよ!?」
「そうか? 可愛いものを愛でているだけだが?」
バル様、首を傾げないで! 純粋に子供を可愛がっているつもりなんだろうけど、傍から見たら同系統の黒だし、良くて我が子を溺愛する親。悪いとロリコンさんになっちゃうんだよ! それは団長としてまずい。キルマ達も困っちゃうよ。
「モモの中身は十六歳だ。問題ない」
「うん、あると思うな! 人前では特にしちゃだめ!」
「……お前がそう言うなら、人前では控えよう」
無表情で淡々と頷かれたけど、ニュアンス的に人前じゃなきゃいいみたいなのを感じるのは気のせい? うん、気のせいだね! 桃子は気付かなかったことにした。ごめん、キルマ。バル様を止め切れなかったかも。
「中に入ろう。着がえなければ風邪をひく。それと、一週間後に王との面会を予定している。」
「あ……」
バル様がさりげなくスカートに下着を隠して桃子に持たせてくれた。だっこに安心して、ちょっと忘れてたけど、再び装備をしなければ。
片腕にお尻を落ち着ける形で抱っこされて室内に運ばれる。半日振りの視界がなんとなく懐かしい。逆じゃなきゃおかしいのにね。バル様の首に軽く片手を添えると、楽しくなってきた。久しぶりに、五歳児精神がしっかりと覚醒しているのだ。思いっきり精神を引きずられて、わくわくしながら、お願いしてみる。
「バル様、高い高いして」
「こう、か?」
「うわぁ、すごい! バル様より高い!」
両手を脇に添えられて、ぐんっと上に上げられた。ご覧ください。今、私の足は宙を浮いています! 無重力の世界を体感するように軽く足をパタつかせてみる。くだらない遊びが最高に楽し過ぎる! 久しぶりだからか、暴走気味だ。わかっていても止められない。
「楽しいのか?」
「うん!」
「そうか。では、このまま中に入ろう」
バル様はそんな桃子をすんなり受け入れると、桃子を両腕で抱き上げたまま屋敷に歩き出した。手のかかるお子様でごめんよ。でも、すごく楽しい。またお願いしてもいいかな?




