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52、モモ、恩返しをする~メイドさんの優雅さは一日で成らず~前編

「バルクライ様、紅茶をお持ちいたしました」


「……入れ」


 桃子はきりりとした顔を作って、バル様の入室の許可を得てカラカラと台車を引いて書斎の中に入室した。そしてテーブルにロンさんが入れてくれた紅茶の入ったティーカップを静かに置く。優雅な仕草を試みたけれど、普段しないから緊張するね!


 零さなかったことと音を立てなかったことにほっとしていたら、バル様に指先でカムカムと呼ばれた。


「なぁに? じゃなくって、なんでしょう?」


 即席メイドが剥がれかけて、慌てて補修したけど、さっそくメッキが露出しちゃったよ! ごめんよ、バル様、こんなつもりじゃなかったの。もっとこう、優雅さを出してね、ちょっと大人っぽくメイドさんをしようと思ったんだよ。


 心の中でそんなことを訴えながらソファに座るバル様の元に向かうと、ぐいっと強引だけど優しい力で腕を引かれて、お膝に乗っけられた。


「バ、バル様? 私子供じゃないよ?」


「知っているが?」


 平然と返された。えぇ!? なんかおかしくないかな!? バル様は顔色一つ変えずに桃子のお腹に片腕を回す。恋人みたいな距離に照れを誘われる。なんかこれ、五歳児と感覚違うから、変な感じするよぅ。顔を火照らせていると、大きな手で頬を撫でられた。


「幼女の時と肌のすべらかさは変わらないんだな」


「そ、うかな? あの、あんまり触っちゃ駄目……」


「なぜだ? オレは幼女の時と同じように接しているだけだが?」


「よくわかんないけど、恥ずかしいよ」


「……拒否するなと、命令してもか?」


「バル様!?」


 まさかの言葉にぱっと顔を上げると、バル様の目に面白がる色が浮かんでいた。びっくりしたのに揶揄われたのだとわかり、脱力する。


「驚いたか?」


「心臓が止まるかと思ったよ」


「すまない。その姿に戻ってから、お前によそよそしくされている気がしてな」


「……寂しかったの?」


「そうかもしれないな」


 あっさりと頷かれて胸がきゅんとした。なんだろうこれ? ますます頬が火照ってくる。桃子は堪らずバル様のお膝から立ち上がった。


「モモ?」


「レリーナさん達のお手伝いに行って来ます!」


 それだけ言い残して、桃子はひょこひょこした足取りで書庫を飛び出した。まさに言い逃げである。



 そうして逃げ出した桃子であったが、バル様は追いかけてこなかったので、次第に落ち着きを取り戻すことが出来た。今はバル様の白いシャツをメイドさん達と一緒に畳んでいるところである。


 何がしたいか聞かれたあの時、桃子はバル様にメイドさんがしたいとお願いしたのだ。紅茶を運ぶことも、そこから振られたお仕事である。捻った足を無理に動かさないように厳命されているので、出来ることは洗濯物を畳んだり紅茶を運ぶという、ちょっとしたお手伝いだ。


「本当によろしかったのですか?」


「そうですわ。せっかくのご機会ですし、ご主人様と外出しては?」


「でもバル様、私が攫われちゃったせいで仕事が大変だったと思うんだよ。だからね、お休みならゆっくり身体を休めてほしかったの。出かけることならいつでも出来るもん」


「ですけれど……」




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