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5、モモ、未知の魚を食す~料理人は偉大だなぁ~

 桃子が連れてこられたのは、窓から光がさんさんと差し込んでいる広い食堂だった。両開きの扉を入ってすぐに、長方形のテーブルがデデンと置かれている。8人くらい座れるね。


 天井にはキランキランに輝くシャンデリア。床はすべらかな白い石で、ピッカピカに磨かれて顔が映りそうだ。ぜひ後で覗き込んでみたい。


 部屋中から豪華な匂いがしている。テーブルの上に飾られた花瓶一つとっても、薔薇と小鳥の繊細な細工が施されているのだから、桃子の世界基準では何百万もするだろう。ここに誓おう。指先一つ触れないことを! うっかり割っちゃったら大変だ。人生を3回繰り返しても払いきれないよぅ。


 目を移した先の壁にも、これまた大きな風景画が飾られている。森の中の湖で馬が休息している様子が鮮明に描かれていた。だけど、一つだけ驚くべき部分が。


「……角?」


「あぁ、その絵か。ユニコーンがどうした?」


 ふあああああっ、ユニコーンですと! 心の中でわっしょいする。カルチャーショックに興奮して、自分を抱くバル様を見上げる。


「馬かと思ったから、角が生えててびっくりした。私のとこじゃ伝説上の生き物って言われるんだよ。ここじゃ森に普通に居る物なの?」


「いるが、気性が荒いから危険だ。乙女でなければ蹴り殺される」


 額から生える立派な角をまじまじと眺めて、簡潔な説明になるほどと頷いていると、ひょいっと軽く、豪奢な椅子に下ろされた。けれど、ちょっと高さが足りない。顎がテーブルの上に乗る位置だ。これは頂けない。なんてこったい! 


「やはり高さが足りませんねぇ。私が抱き上げましょうか?」


「オレでもいいよ。お姫様、オレの膝にどうぞ」


 あ、ほんと? カイが指先でカモンしてる。優しいね。これぞ本当のイケメンだ! 隣のクラスのイケメン君みたいに、好きですって告白した乙女を鼻で笑ったりしないよきっと。


 その後、彼はクラス中に言葉でボッコボコにされて、おい、ナルシー野郎とか呼ばれてるかんね! 白い眼に晒されて目が覚めたのか、反省して告白してくれた子に謝り倒してるかんね! どんな世界でも、人間優しさって大事。


 足のつかない椅子から行儀は悪いが飛び降りようとジャンプしたら、身体が宙に浮いた。……あれ?


「オレでいいだろう」


 バル様に空中で捕獲されて、そのまま主人席に運ばれた。当然のように腰掛けて硬いお膝に、桃子のお尻は着地した。……あれぇ?


「取られましたね。次回は私にさせてください」


「じゃあ、オレはその次にするぜ」


 お二人さん、順番を決めてほくほく顔をされても困るよ? 膝に乗っけるより、椅子を調整した方が楽じゃないのかなぁ。まぁ、いっか。好意は無駄にしません。何故なら、私の70%は優しさで出来てるもん。残りの30%はマル秘です。


 されるがままに流されていたら、いつの間にやらそのまま食事をすることが決定したようだ。大人しく座っていると、先ほどの美人なメイドさんや、口ひげが素晴らしい執事姿のおじ様が料理のお皿を運んでくる。


 どのメイドさんもぴんと背筋が伸びていて、動作が優雅で美しい。あれは特訓して出来ているのかもしれない。私もいつかやってみたい。


 テーブルの上には様々なパンがバスケットに詰められており、そこから好きにとれるらしい。手が届かない桃子の元にキルマがバスケットを差し出してくれた。ここにもイケメンが一人いた!


「いっただきまーす!」


 しっかり両手を合わせてご挨拶。それから丸くて真っ白なパンを取って、さっそく口に含むともふっと柔らかだ。素晴らしく、美味しい。出来たてらしくまだ温かいのが、嬉しい。


 その間にムニエルっぽいお魚が桃子の前に置かれた。サラダのつけ合わせと野菜スープも出てくる。ステーキも現れ、まるで高級料理店のフルコースが並んでいるような印象だ。


 ナイフとフォークは小さな手には大きくて使いにくいが、魚が欲しい。これ、この表面に香ばしそうな焼き目がついたお魚を何が何でも食べたい。

 フォークとナイフの使い方がよくわからないまま奮闘していると、頭の上で美声の主が笑った。


「そんなにガルガンが食べたいのか?」


「それお魚の名前?」


「そうだ。川で獲れる一般的な魚だ。臭みがなく料理しやすいと言われている」


「ほほぉー。食べる人にも作る人にも好かれる魚ってことだね。私も食べたい。でもね、このお魚活きが良すぎるみたいだよ。とりゃ、私から、このっ、逃げてくし」


 フォークとナイフが重い上に、お皿の上を魚が逃げるので食べられない。刺しても持ち上げられない。


「ふっ、活きがいいか。ならば、こうしよう」


 バル様に手からフォークとナイフを抜き取られ、手際よく一口サイズに切り取られて、口元に差し出された。桃子は迷わず食いついた。口の中で旨みが溢れる。やはりムニエルだ。魚の身がほろほろほどける。美味しい。あぁ、幸せ!


「さぁ、もっと食べろ」


 次々と差し出されるものを、口を開けて待つ。うむ、至れり尽くせりだね。どの料理も美味しくて、料理人さんを尊敬する。


 微笑ましそうに眺める周囲の視線に気付かずに、桃子はご機嫌で口を動かしていた。その姿は親鳥に餌付けされる雛そのものであった。


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