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47、モモ、保護者様と再会する~嬉しい涙もしょっぱいもの~後編

 その一声で、シュリンは団員に押さえつけられて部屋の外に連れていかれる。金切声が遠ざかって、扉の向こうに消えていった。桃子は安堵してくったりとバル様の胸に寄り掛かる。


「疲れたか?」


「うん、ちょっとだけ。バル様のお屋敷に帰りたいな」


 安心して力を抜いた時、カタリと後ろで物音がした。バル様が即座に剣を抜いて振り向いた。おじさんが起き上がっていたのだ。その両手に赤い炎が渦を巻いている。


「こうなれば全て道連れよ! 炎の精霊よぉ! 大神官が助力を乞ぉぉうぅぅ!!」


 おじさんが大きく叫ぶと、炎の精霊が部屋中で赤い光がぶつかり合う熱気が怒り、炎を生む──かに思われた。


<炎の精霊よ、制止せよ!!>


 どこからか男の声が咆哮して、声がぐわんと部屋中に大きく反響する。両耳を押さえながら周囲を見回すと、声に従うように赤い精霊達がふぅっと消えていく。天井の空間が歪み、そこから一人の男が下りて来た。


 がっちりした身体にコートのような軍服を纏い、金色の髪には黒いベレー帽のようなものを被っている。金色の前髪から見える赤く怜悧な眼差しには絶対の誇りがあった。バル様と同じくらいに背の高い、目の覚めるような美青年だ。


 おじさんが今にも倒れそうな様子でへたり込む。


「ま、まさか、貴方様は……」


 男の人はその様子を睥睨しながら口を開く。


「我は軍神ガデス。今回の仔細、全て見ていた。人に過ぎし欲に浸かる者よ。このガデスを召喚しようとは笑止! ここに神罰を下す!」


「あ……あぁ……」


 まさかの神様登場に周囲が静まり返る中、ガデス様は右手をおじさんに向けた。その瞬間、おじさんの身体からオーラのようなものが噴き出した。それは一瞬で全て消え失せてしまう。


「これでお前は生涯セージを使えぬ」


 その宣言に、恐ろしさを堪えられなかったのか、おじさんが再び気絶した。どしんと倒れた音に身体がびくついた。はぁー、びっくりした。


「さて……」


 ガデス様がゆるりと振り返る。この世界では人も神様も、美人さんや美形さんが多いから眼福だね。突然のことに誰もが硬直して動けずにいる。


「幼子よ。名をモモと言ったな? 我はそなたを見定めていた」


「お待ちください。この子は神殿の召喚に巻き込まれただけで、何の咎もないはずです」


 バル様の腕にモモを守るように力が入っている。神様からも守ろうとしてくれているのだ。しかしガデス様は無表情で瞬くだけだ。


「承知のこと。我が行うは咎故の見定めにあらず。我は我が加護を与えるに相応しいか否かを見定めていたのだ」


「え……?」


 赤い目を向けられて、桃子はきょとんとする。あれ? なんか思ってたのと違う展開になってる? それをバル様も察したようだ。ゆっくりと床に下ろされる。改めて対面すると、まさに巨人二人共大きいなぁと実感する。


「モモに加護を、ですか?」


「いかにも。当初、神殿の召喚により、我が力の欠片を奪われた故に神罰を下そうと下界を覗き見たのだ。そこに幼子の姿があり、奪われた力がその身体に混じったのを感じた。夢で一度接触して取り戻そうと試みたが叶わず、いっそ一思いに切ることも考えたが、惹かれるものがあったのでな。暫く観察することにした」


 知らないところで殺されそうになるのを回避していたようです。ひえぇぇ! 神様って怖い! こんな格好いい神様なのに、平然と切るって言っちゃうんだね。やっぱり感覚が神様だ!


「で、でも、軍神様、なんでわたしに加護を与えてくれようと思ったんですか?」


「これまでも興味を惹かれた人間は存在したが、我が条件を満たせる者ではなかった。我が加護を与えし者は、戦う者でなければならぬ。弱き者であってはならぬ。そなたはその条件を見事満たした。敵陣にありながらも諦めぬ強き心、その行動力、見事であった」


「必死だっただけです」


 知らない間に神様に見られていたとか恥ずかし過ぎる。だってさんざん軍神様の演技もさせられていたし、自分でもちょっとノリノリで真似してた時もあったし。うわーん!


「……微笑ましいものを見せてもらった」


 ボソリと呟くように言われて、はっと顔を上げると、赤い目がわずかに楕円を描いていた。やっぱりバッチリ見られていたんだね!? 


「モモ、なんのことだ?」


「にゃ、なんでもないよ!」


 動揺で噛んでしまった。隠し事がありますってバレバレだね。バル様の目が細まる。後で聞く気だ。お願い忘れて! 逸らすように違う話を振ってみる。


「加護ってどういう作用があるものなんですか?」


「加護を得ることは神の後ろ盾を得ることと同義。我はそなたが呼ぶ時に応えよう。そなたを害する者には神罰を下す。国としても加護を得し者が居るだけで、諸外国からの評価、いわば格が上がるのだ。また、周囲に知らしめれば、今回のような愚かな輩からは手出しがされにくくなろう」


「おっきな影響力があるんですねぇ」


「極めて稀なことだからだ。モモ、オレは受けるべきだと思う。国と交渉するのにカードは多い方が有利だ」


 バル様の後押しを受けて、モモは頷いた。それから、お願いをしなければいけないことを思い出す。


「軍神様、その前に一つお願いがあります。私の身体、元に戻せるのなら戻していただけませんか?」


「……すまぬな。それは今すぐには無理だ。我の力をそなたから抜き出すは容易だが、そなたの身体はもはやその形で定着されている。形を無理に変えれば壊してしまうやもしれぬ」


「そんな、それじゃあ元には戻れないのですか……?」


「否。そうだな、身体からセージが抜けないように治し、毎日セージを誰かに分けてもらえばおそらく一年ほどで元の姿に戻れるだろう」


「一年も……」


 桃子は俯いた。一年も幼児から抜け出せないと思うと、悲し過ぎる。花の十六歳よ、さよーならー。心の中で泣きながら白いハンカチを振る。バル様に頭をポンポンされて、慰めてもらう。


「モモ、一年などすぐ来る。それまでの辛抱だ」


「うん……」


「改めて問おう。加護を受けるか、否か?」


「──受けます」


 そう答えると、桃子とガデス様を青い光が円となって囲んだ。そして黒い手袋をはめた人差し指と中指が桃子の額に触れる。


「ここに契約は成った。そなたが強き心に反さぬ限り、我は力となろう。力の欠片は返してもらったが、代わりにこれからセージが満たせる。それから、一つ、そなたに贈り物を。猶予は半日だ。では、さらばだ」


 ガデス様はそれだけを告げると、一瞬で姿を消してしまった。残ったのは声を出さないように気を張っていたキルマ達と団員の方々。そしてバル様と額を手で触っている桃子だ。


「お礼を言う間もなかったや」


「今度祭壇に供物を送ればいい。加護を受けるとは予想外だったが、今回の騒動で得た成果は大きい。──四番隊、その男を拘束して騎士団に運べ!」


「はっ!」


 おじさんが二人がかりで縄に縛られていくのを見ていたら、眠くなってきた。目をこしこし擦っていると、バル様が再びだっこしてくれる。優しいなぁ。


「団長、ここからは私とカイが纏めます。モモが辛いでしょうし、早く連れ帰ってあげてください」


「すまない。頼む」


「モモ、ゆっくりお休み」


 カイかな? 頭を撫でられて、バル様の腕の中でうとうととしてしまう。これで本当に全部終わったんだね……この短期間でそんなにか! ってばかりにたくさんの困難が降りかかってきたが、桃子は周囲の人の助けを得ながら、生きて切り抜けられたのだ。



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