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40、モモ、指導を受ける~幼児演技はお手のもの、目指す先は子役じゃないよ?~

 翌朝、桃子はシーツをはぎ取られて起こされた。今日も不機嫌そうなお姉さん二人が待ち構えており、寝不足の頭をグラグラさせながら、急かされて朝の支度を整える。


 顔を洗って、歯ブラシの代わりに飴玉くらいの大きさの弾力のあるゼリーを口に放り込む。そうするとゼリーが口の中で弾けて液体になるのだ。それで口の中を濯ぐと一気に汚れが落ちる。便利だね! 元の世界で商品にしたら絶対に売れると思う。


 こんな感じかな? 『時間がない人におすすめです! 磨かず綺麗! 白さはMAX!』みたいな見出しが出てたら、とりあえず一回は試してみたくなるよね。


 しょぼつく目を擦っていると、今度は再び禊に連れていかれた。階段を抱えられて降りて、朝から水をかけられて寒い思いをしたら、神官服に再び着替えてご飯だ。


 扉を開けてくれたお兄さんにぺこりと頭を下げて、おじさんとの食事になる。朝からがっつり肉を食べるおじさんに、お腹は減ってるのに変な風にもういっぱいの気分で、もそもそと野菜だけを平らげる。羊の桃子再臨である。美味しくないよぅ。草だよぅ。お魚―お魚―欲しいー。禁断症状が出そうだ。


 野菜が嫌いになりそう。どことなくお腹がスースーしているのを気にしていたら、ようやく今日の本題をおじさんに切り出された。


「この後は講堂に行っていただきます。そこに講師役を呼んでおりますので、その者の指示に従ってください」


「うん……?」


「軍神様は素直でいらっしゃる。嬉しゅうございますよ。そうですな、講師の言うことをしっかりと覚えて頂けたら、何か差し上げましょう。食べ物でも服でも、なんでもいいですよ」


 思わず魚と言いかけたが、このおじさん好みの味付けじゃ食べられないし、物の方がいいだろうか……そうだ、あれにしておこう。


「あめがいいの」


「そんなものでよろしいのですかな?」


「うん。あめほしい」


 拍子抜けしたような顔をされたが、野菜しか食べられない桃子には重要な食料だ。素直にしていれば、変な薬は使われないようだし、たぶん大丈夫だろう。飴なら、少しは飢えを宥めてくれるはずだ。その前に出来れば飢えたくないけども。


 食事を終えたら、女の人達に再び先をあるかれて、二つ隣の部屋に押し込まれた。中には神官服を着た四十代のおばさんが待っていた。眼鏡をかけており、厳しそうな雰囲気がある。間違えたらバシッと手を打たれそうだ。


「……お座りなさい」


 桃子は指さされた前の席に着席した。学校の教室と同じように、横に繋がった机と備え付けの椅子があり、おばさんの後ろには黒板らしきものもある。


 おばさんはため息を飲み込むように呼吸すると、桃子を真っすぐに見つめてくる。


「いいですか? あなたには酷なことかもしれませんが、軍神としての振る舞い方を明後日までに覚えて頂きます。そうしなければ、あなたも私も命がありませんから、厳しくいきますよ」


 いきなり物騒な言葉が飛んできた!? いつの間にか命がけの授業になっていたみたいだけど、予告もなかったよ!? 


「幼い貴方に言って、どこまで伝わっているかわかりませんが、とにかく私が言うことを真似するのです。そうしないと大神官に怒られます。私も怒ります。いいですね? 怒られたくなければ、しっかり覚えるのですよ?」


 おばさんには焦りの色があった。この人が言ってることは本当のことなのだ。桃子はごくりと息を飲んでその一挙一動を凝視する。今こそ小さな頭をフル回転する時だ!


「まずは立って胸を張りなさい。そしてなるべく顔に表情を出さないこと。眉を下げない! 口をへの字にしない!」


 あうっ、ビシビシと指摘される。桃子は頑張って顔に力を込めた。表情を出さないようにぐぐっと目に力を籠める。ババ抜きが最弱な桃子には表情を消すのは至難の業だ。その後も表情が出そうになるたびに、バーンと机を叩かれた。


「何度言えばわかるのです!? 顔に出さない! 死にたくないなら死ぬ気で表情を消しなさい!!」


 死にたくないのはこのおばさんの方だろう。だんだんヒステリーになってきてる。桃子は心を無にして、おばさんを見た。


「そうです! その顔を維持なさい! そして、自分のことは余と言いなさい。さぁ、私に続いて! 余は軍神ガデスである。大神官ギグナックの召喚に応え、降臨した」


「よはぐんしんガデスである。だいしんかん、ギグナックのしょうかんにこたえ、こうりんした」


「絶対にこの言葉を忘れてはいけませんよ。さぁ、もう一度!」


 こうして、桃子は演技力を磨くことになった。五歳児の演技ならもうしてるんだけどなぁ。 



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