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370、レリーナ、幼女を恋しがる

レリーナ&ロン視点にて。


(*'▽')/皆様のおかげで、「お出かけ先は異世界ですか?」のコミック2巻が本日発売となりました! 

今回は表紙に16歳バージョンのモモと格好いいバルクライが登場しています。ぜひ実際にお手にとって読んでいただけたら嬉しいです。

なお、店舗特典情報については、活報に載せています。


今後とも「お出かけ先は異世界ですか?」をよろしくお願いします。

 深夜の屋敷の廊下で、ほのかな光が揺らめいている。

 レリーナはズボンに剣を下げた格好で、ランタンを片手に屋敷の中の見回りをしていた。

窓から星空が見えて、ふと足が止まる。人知れずに深いため息がもれてしまう。さっきから頭には、幼女の満面の笑顔ばかりが浮かんでいる。


「予定通りなら、モモ様は船に乗っている頃よね。慣れない旅でお疲れでなければいいけれど……お食事はしっかり三食べているかしら? 懐っこい方だから、侍女達とも上手くやっていらっしゃるはずよね。でも、侍女といえども彼女達は貴族だから、お優しいモモ様を見下して、高圧的な態度をとっているかもしれないわ。もし、モモ様が泣いていたら……っ」


「外になんかいるんですか?」


 想像の中で侍女達を締め上げていると、ジャックに声をかけられた。不思議そうに窓から外を透かし見ている。

 レリーナは頬に手を添えて、またため息をつく。


「違うわ。モモ様のことを考えていたの。あのぷにぷにほっぺがなくなるほど、げっそり痩せて帰ってこられたらと思うと、夜も眠れなくなりそうよ」


「ああ、そっちですか! ははっ、バルクライの旦那がさせませんって。モモちゃんのことをあれだけ溺愛してるんですから、ちょっとでも変化があればすぐ気づきますよ」


「それでも心配なのよ。……やっぱり、荷物に忍び込んでついて行くべきだったかしら?」


「またまた、レリーナさんってば冗談がすぎますよ。……冗談ですよね?」


「……うふふ」


「今から追いかけるのもなしですからね!?」


「わかっているわ。本音を言えば、モモ様を今すぐにでも追いかけたい気持ちをこらえるのに必死よ。だけど、そんなことをしたらきっと可愛い眉をおさげになってしまうでしょう? だから、我慢するわ」


「すげぇ冷静に見えて、胸の内にとんでもなくデカイ願望を秘めてた!? あの、レリーナさん、オレじゃあモモちゃんの代わりにはならないでしょうが、なにか気持ちを発散するお手伝いなら出来ると思います。こ、今度の休みにケーキでも食いに行きませんかっ!」


「気をつかってくれてありがとう。でもケーキより手合わせをお願いしたいわね」


 誘いを断られてしょげていたジャックの目が輝く。


「構いません! いくらでもオレを剣でぶっ叩いてください!!」


「あら、それじゃあ特殊な趣味の人みたいよ? 手を抜かないで鍛錬の相手をしてちょうだい。モモ様を守るためにもっと強くならないといけないもの」


「いや、その、も、もちろん抜きません!」


 ジャックはレリーナの要望にひるんだものの、ぎこちなく頷いみせる。同じ職場に勤める人間として、信用はしている。頷いたことは守るだろう。

 微笑みかけるだけで、真っ赤になったジャックにクスクスと笑いながら、レリーナはちらりと廊下を振り返る。


「ところで、()()()()()()()()()()()?」



 レリーナが呟いた瞬間、一階からガラスが割れる音がした。二人は顔を見合わせると、同時に廊下を走り出す。


「ジャック、あなたは食堂方面に向かいなさい! 私は応接間側を確認をするわ!」


「わかりましたっ!」


 レリーナ達は階段を駆け下りて、一階の廊下を左右に分かれた。



******



 男は施錠が外された二階のがらんどうの部屋から侵入を果たすと、廊下に出て加護者の部屋へ足早に向かう。ここまでは計画通りだ。


 ドアノブに手をかけて、音を立てずにゆっくりと回す。しかし、ドアを開く前に、背後から首に腕が回されて締められる。


「な、なぜ、オレの動きが……っ」


「メイド達を甘く見ましたな。人の忠誠心は金で買えるものではない。この屋敷で働くのはバルクライ様に助けられた者ばかりです。そのような者達が主に恩を仇で返しましょうか。まぁ、金で雇われたあなたのような方には、わかりますまい。しばし眠っていなさい」


 首を締め上げて、男の意識を落とすと、ロンは用意していた紐で男を縛り上げる。きつく結び目をつくっていれば、レリーナとジャックが戻ってきた。


「バルクライ様の予想通りでしたね」


「オレは正直言って、半信半疑でした。バルクライの旦那がめちゃくちゃ頭がいいのは知ってますけど、まさか本当に神の酒を狙う奴が来るのを当てるとは。それにしても、なんでわかったんでしょう?」


「モモ様が与えられたものは、大貴族が大金を出してでも手に入れたいと望むような希少な品。貴族同士の交渉は取引が基本です。もし、その希少な飲み物を手に入れられたら、それだけで箔が付きましょう」


「だからって盗みに入るのはどうなんです? 矜持大事な貴族がすることじゃないでしょうよ」


 呆れたように首を振るジャックに、レリーナが目を暗くする。

「ええ、その通りね。だから、モモ様に向けられた悪意は徹底的につぶしておかないといけないわ」


 ……ふむ、やはり尋問を彼女に任せるわけにはいけないか。やりすぎて、相手を虫の息にしかねんな。


 ロンは本心を何食わぬ顔に隠す。


「さて、どの貴族が雇い主か聞き出さねばなりませんな。──ジャックはこの男を地下まで運んでください」


「えっ、この屋敷って地下があるんですか!?」


「あなたはモモ様の専属護衛となりましたので、そろそろそちらも教えておく必要がございますな。知っているのはバルクライ様と、ここにる三人だけです。前の主人が作ったのか、はたまた陛下のご意向なのかは定かではございませんが、実は隠し部屋となっているのです。これまでバルクライ様はお使いになられなかったので、管理は私に任されていましたが」


「尋問専用の部屋、だったりします? オレ、幽霊とか出そうな場所はちょっと、その……」


「そのような部屋ではないので安心なさい。ですが、モモ様がご自分でお気づきになられるまでは、他の使用人にも内密に。バルクライ様がこっそり内装を整えていらっしゃいましてな。その方がモモ様が発見された時に驚かれるだろうと、お考えのようです」


「バルクライの旦那は意外とお茶目なところがあるよなぁ。──わかりました! 内緒にしときますよ」


「ああ、それとこの男は明日ルーガ騎士団に引き渡しますので、そのつもりで」


「承知いたしました。私は割れた窓の片付けをしておきますね。私達の気を引くためなのか、ずいぶんと派手に壊されたので、修理が必要になると思います」


「わかまりした。そちらは、私が専門業者を手配しましょう。レリーナはガラスで怪我をしないように気をつけなさい」


「はいっ」


「よっと! じゃあ、オレに地下への行き方を教えてください」


「ひとまず一階に下りましょう。ジャックがいてくれて助かっていますよ」


 軽々と男を持ち上げるジャックを褒めて、ロンは侵入者の男にひっそりと冷酷な目を向けた。

 


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