350、モモ、お使いをする~旅前の準備には荷造りと挨拶まわりが必要なんだって~中編 その二
次のお届け先にやってきた桃子は、レリーナさんとジャックさんに挟まれたまま意気揚揚と立派な木造建ての請負屋さんに足を踏み入れた。
請負屋の中では壁に貼られた依頼書を覗き込んで顎に手をやって考え込んでいる筋肉むきむきのおじさんの姿がまず目に入った。いかにも戦い慣れしてますよ! って感じの貫禄がある渋いおじさんだ。左側ではテーブルを仲間と囲んで話しこんでいるグループもあるし、依頼書と思われる紙を片手に足早に出ていく人が桃子達の脇をすり抜けていく。
「モモ様、どうやらあの方がなにか合図をされているようですよ」
「うん? 見たことある人だねぇ」
「街に害獣が溢れた時に協力してくれた奴じゃないか?」
レリーナさんとジャックさんに教えられて、桃子は思い出す。テーブルにもう一度目を向けると、お兄さんがよぅって感じで手を上げてくれていた。向かい側に座った美人なお姉さんもにっこりと笑いかけてくれる。桃子が加護者であることをわかった上での反応だ。桃子はすっかり嬉しくなってしまい、笑顔でブンブンと手を振り返して、さらに奥へと足を進めていく。
「覚えていてくれて嬉しいねぇ」
「モモ様を忘れるはずがありません!」
「加護者ってのを抜きにしても、小さい子があんなに勇敢な姿を見せたんだ。誰にとっても忘れられないさ」
「さすがに褒め過ぎだと思うよ!? ……うん? 今日はなにかやってる日?」
過大評価されてるみたいで桃子が慌てていると、なにやらざわめきと黄色い声が届く。首を傾げていると、受付場所は数か所あるというのに、請負人のお姉さん達が壁に見えるほど賑わっていることに気づく。どうやら受付の一つに、請負人のお姉さんがぎゅうぎゅうに詰めかけているようだ。不思議に思いながら人の壁の間を背延びするように覗こうとしていると、隣でジャックさんがすっとんきょうな声を上げた。
「はぁ!? なにやってんだあの人っ!?」
「ジャックさん、なにがわかったの? 私からはなんにも見えないよぅ」
「モモ様、私にも見えました。この騒ぎの原因はギャルタスさんが受付けに詰めていたためのようですね。私も初めて見ますし、物珍しさから女性の請負人達が集まっているのでしょう」
「ううーん、私も見たいの!」
「じゃあオレが手伝うよ。さぁ、どうだい? これでモモちゃんにも見えたかな?」
「ふおおおっ」
レリーナさんのクールな説明を聞きながら首を伸ばしてなんとか見ようと頑張っていると、ジャックさんが両手で高い高いをするように持ち上げてくれた。空中浮遊! なんて心の中で叫んでいだら、受付けの様子がよく見える高さまで来た。レリーナさんが教えてくれたように、さわやかな顔立ちのギャルタスさんが受付けのお仕事をしているようだった。
それにしてもすごい数に囲まれている。右を見てもお姉さん、左を見てもお姉さんで周囲は美人さんだらけ! ギャルタスさんのモテっぷりに一瞬右手に持ってる手紙を忘れて感心してしまった。すると、受付カウンターに片肘をついたお姉さんがお色気たっぷりな声で誘う。
「ねぇ、頭目さん、今日は私と飲みにいかない?」
「ちょっと抜け駆け禁止だよ! 行くなら私達の中から選んでくださいよー」
「たまにはこっちの誘いに乗ってくれてもいいんじゃなぁい?」
「そう言われてもな。見ての通り、慣れない受付けの仕事中なんだよ。放り出せないのはわかるよな?」
「それなら仕事が終わるまで待ってあげるわ」
「おいおい、困らせないでくれって。いい女は引き際を知ってるもんだぜ? 悪ふざけは終わり。そら、散った散った! 後ろで並んでる子も空いてる受付けに並んでくれよな」
「もうっ、悪ふざけなんかじゃないのに」
「頭目ってなんだかんだと理由をつけて絶対に遊ばないんだよねー」
「ほんっと本心を見せないからわからないわ。どこかに本命でもいるのかしら?」
にっと歯を見せて笑うギャルタスさんのスマートな断り方に、大人だなぁって桃子は憧れの視線を向ける。だって、女の人達も全然怒ったり傷ついたりしていなくて、むしろちょっぴり笑いながら離れていくんだもん。そうして、ぞろぞろとお姉さん達が離れていくと、空中浮遊中の桃子が向こうからも見えたようで目がぱっちり合う。にこにこしながら手を振れば、驚いた顔をされた後に後ろに声を投げて受付場所から出て来てくれる。
「悪い、ちょっと受付を代わってくれ! ──モモちゃん、直接会うのは久しぶりか! 請負屋に仕事を受けに来たって、わけじゃなさそうだ。オレに届け物かな?」
「うんっ、お手紙です。どーぞ!」
桃子はジャックさんに下してもらいながら、ギャルタスさんに元気よく返事をする。これで、お使いは完了だね! 心の中で五歳児もささやかな達成感に喜んでいるのか、身体を揺らして小躍りしている。じわじわ染み入るような嬉しさが伝わってきちゃうなぁ。そんな風に思っていたら、ギャルタスさんが受け取った手紙をすぐに開いてくれた。
「ありがとな。内容はっと……ふぅん、そういう話になったのか。今回はモモちゃんの外交デビューも合わせてってとこだな」
「そうなの!? 私はバル様のおまけみたいなものかなぁって思っていたよぅ」
「おまけどころか主賓だろう。ルクルク国の目的は、たぶんモモちゃん自身を見ることだぜ。あの国のことはどこまで知ってる?」
「えっと、ジュノール大国の同盟国で、ナイル王妃様のお姉さんが女王様として治めている国、女の人が複数の旦那さんを持つことがあるってこと、女の人が強い国なんだよね? 後は……あっ、女王様には旦那さんが六人と子供がたくさんいるよっておいちゃんが教えてくれた!」
「間違ってはないけど、肝心なことが抜けてるな。ルクルク国は神の加護を受けてるが、その対象が国になってるんだよ」
「国が加護の対象? それって、私となにか違うの?」
「まずルクルク国に加護を与えたのはエストスっていう名前の鍛冶神なんだが、その存在自体が確認されていないらしい。ルクルク国の最初の女王が契約の元に加護を受けたって伝承があるだけなんだよ。普通は加護者が呼びかければ、神が時折応えてくれるものなんだろ? けど、ルクルク国の場合は加護を受けているのはあくまでも国が対象だから、たとえ女王が呼びかけても応えることはないそうだ。それに……今のルクルク国は加護が薄れているんじゃないかって噂もある」




