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349、モモ、お使いをする~旅前の準備には荷造りと挨拶まわりが必要なんだって~中編

「大神官室から抜け出してどこに行くおつもりですか、ルクティス様! 休憩は先ほどなさったばかりですよね? 陳情書はまだまだあるんですから──」


「待てって! サボリだと疑っているようだが、そいつはタオの勘違いだ。ほら、モモちゃんが来たんだよ。なんでもオレに用があるらしくてなぁ」


「……そうなのっ」


 おいちゃんからチラチラと目配せをされたので、桃子はコクコクと素早く頷いておく。本当はお手紙を配達するのがお使いだったから、もう終わってるんだけどね! けれどそこはポーカーフェイスと無縁の桃子である。咄嗟に嘘をつくのは難しかったようだ。タオの目が色をなくし、眼鏡が逆光を背負って光る。


「……お二人とも、今正直に言うのであれば僕は怒りませんよ?」


「すまん!」


「ごめんなさいっ!」


 二人は即座に謝った。カンカンカンッ、タオの勝ち! 心の中で審判の恰好をした五歳児桃子が判定を下す。瞬殺されてしょぼくれた桃子達に、タオの表情から険しさが抜ける。


「はい、許しましょう」


「タオはすっかりおいちゃんの補佐が板についてるねぇ」


「そうかな? ルクティス様が自由過ぎるから僕も厳しくならざるをえないというか……この間も休日に神殿を抜け出して請負屋の仕事をしていらしたんだ。その間、僕達はいなくなったルクティス様を探し回ることになってね」


「おいちゃん、そっちの仕事もまだしてるの!?」


「ずっと机に張り付いてるのはどうにも性に合わなくてなぁ。身体を動かしたくなったから、請負屋で簡単な依頼を一つこなしてたんだ。バレてタオに怒られちまったが、置手紙は残したんだぞ」


「事後承諾じゃないですか。そういうことは、行動を起こす前に相談なさってください。僕達はむやみに反対したりしません。あなたがベテランの請負人でもあることをちゃんと理解していますから。ただ、心配はするんです」


「反省してるよ。今度からは必ず事前に相談させてもらうさ」


 無精ひげが生えた口元に苦い笑みを浮かべて、おいちゃんがそう言った。それにしても息抜きもお仕事って、これが世に聞くワーカーホリック? それを運動がわりだって言うんだからすごいなぁ。

 

「ところで、モモちゃんが来たのはルクティス様が持ってる手紙に関係しているのかな?」


「うん、お使いで来たの。バル様からおいちゃんにお手紙です!」


「じゃあ、中身を拝見させてもらうぞ。…………そうか、こりゃ団長さんも大変だな。大討伐を終えたと思えば今度はルクルク国とは。モモちゃんも一緒に行くと書かれていたが?」


「ルクルク国の女王様がね、招待してくれたんだよ」


「ジュノール大国とルクルク国は長きに渡る同盟国だからな。向こうの国の女王は夫が六人に子供も多いと聞く。モモちゃんが仲良くなれる姫もいるかもしれないぞ」


「そうなの? ルクルク国でもお友達が出来たら嬉しいなぁ」


 桃子がまだ見ぬルクルク国を想像して、期待にわくわくしていると、おいちゃんが何気ない一言を放った。それがある人の闇を直撃する。


「モモちゃんが留守の間は寂しくなりそうだ。──お前さん達も護衛としてついていくのかい?」


「だああっ! ルイスさんっ、それは聞いちゃダメなやつ!」


「…………そう、私達は、今回外されてしまったのです。……ですが、出発直前に侍女と入れ替わってしまえば私が代わりに行けるのでは……?」


 レリーナさんの目から光が消えて、どろりとした闇が生まれた。ほの暗い声で計画的犯行を予告しちゃってる!? タオもそこに本気の熱量を感じ取ったのか、途中で笑みをひっこめた。美人なメイドさんが大暴走! 手綱を握られたままの馬が小さくブルルッと鼻を震わせた。お馬さんまで怖がってる!? 


「面白い冗談、ですよね?」


「ふふ……ふふふふ……」


「レ、レリーナさん、なにも永遠の別れってわけじゃないんですよ! モモちゃんがいないのは一月半程度ですし、留守にするだけなんで、すぐに帰って来てくれます。──なっ? そうだよな、モモちゃん?」


「うん、ジュノール大国のレリーナさん達がいるお屋敷に帰るよー」


「モモちゃんもこう言ってますし、その危険な計画は白紙にしましょうか!」


「ですがっ、一月半も……もういっそ自力でモモ様の元まで向かいます! 留守番はジャックに任せますので!」


【レリーナさん!?】


 桃子とジャックさんの声が重なった。綺麗なハモリだけれども、面白がっている場合じゃない。レリーナさんの暴走を止めないと本当に単騎で追いかけてきちゃいそう。かと言って中止するわけにはいかない。でも、こんなに私のことを惜しんでくれて嬉しいなぁって気持ちもあるし、レリーナさんが悲しいままなのはやだもんね。


 慰めたいけど、こういう時ってどうしたらいいんだろう? 慰め経験があんまりない桃子はちょっぴり考えてから、うむっと思いついたことを実行してみることにした。おいちゃんの腕から身を乗り出して、レリーナさんの頭を小さい手でなでなでしてみる。


「すぐに帰ってくるから、待っててね?」


「ああっ、モモ様……っ」


「ぬおおおっ、レリーナさんの魅力にもうダメだ、オレ! 」


 いきなり叫んだジャックさんがザザザッと後ずさりしながら、レリーナさんと距離を取る。引っ張られた馬がどことなく迷惑そうな顔をした。ジャックさんは真っ赤な顔を手で隠してしまう。純真な熊さんにとってレリーナさんの色気たっぷりな吐息は、恋心が刺激されちゃうものだったみたい。私もあてられて顔がぽやんと熱いです! 


「ははっ、モモちゃんまで赤くなってるぞ。──にしても、若いなぁ、ジャック。お前、そんな純情な奴じゃなかっただろう?」


「オオオオレのことはそっとしておいてくれさい!」


「重症だな、こりゃ。──本来ならゆっくりしていけと言いたいところだが、もう一つお使い先があるんだろう?」


「そうなの。だから、そろそろお暇させてもらうよ。ルクルク国から帰ってきたら、また二人に会いに来るね!」


「ああ、待ってるぞ」


「元気に戻っておいで」


 桃子はおいちゃんに馬の背に乗せてもらうと、二人に笑顔で手を振った。それから、レリーナさんとジャックさんが恰好よく騎乗して、馬の手綱を引く。一つ目のお仕事は完了だね。次の目的地は──請負屋さん! 





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― 新着の感想 ―
レリーナさん、完全に重度のモモ中毒だなぁ…
[良い点] > 瞬殺されてしょぼくれた桃子達 ニヤニヤが止まりません(笑) [気になる点] > 運動かわり 運動がわり、か 運動のかわり のどちらかでしょうか? > そっとしておいてくれさい!…
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