336、モモ、声を跳ね上げる~大人の条件には上手なとぼけた振りが出来ることも入るの?~
……バル様とキルマの空気が重くなってたよね? 表情はいつもと同じだったんだけど仲良くしてもらってるから、この桃子さんにはわかるのです! 原因はパーカーさん? あの人が来てから空気が変わったもん。でも、あの人はいい人な感じがするんだけどなぁ。五歳児センサーが間違えちゃったの? 桃子はぼんやりした心配を抱えて、もう見えない大きな背中を思い出していた。
五歳児が心の中でしょんぼりする。バル様達がいなくなっちゃったから寂しんぼうが顔を出す。ここは我慢っ! 心の中の小さな自分に言い聞かせていると、ディーに頭をわしっと掴まれて、ぐらぐら揺らされた。おおおおぅ!?
「置いてかれたわけじゃねぇだろ? そんなしけた面するなっての。オレ達との鍛錬ですげぇ魔法を上達させてよぉ、団長達の度肝を抜いてやろうぜ?」
「ううううんっ。バババババル様みたいな格好いい必殺技も欲しいねぇ」
「ちょっと隊長さん、止めてやってくれよ。モモちゃんが酔っちゃうから!」
「グルグルするのー」
「あ、わりぃ」
ジャックさんに止められてディーの手が頭からぱっと放された。桃子は揺れる視界を押さえようと頭を押さえる。でも、ちょっと楽しかったから口が笑っちゃう。けれど、レリーナさんは過保護を発動させたようだ。
「モモ様、私の膝でよろしければ横になられますか?」
「ううん、そこまでしなくても平気だよ」
「ご遠慮なさらずとも、さあ、どうぞ!」
「あの、うん、大丈夫」
モモ人形を大事そうに豊かなお胸に抱きしめたまま熱視線を送られた桃子は、ぎくしゃくとお断りする。その人形をもらってテンションが上がっちゃってるのかなぁ? いつもより熱量がすんごい気がする! 桃子はじりっとジャックさんの方に身を寄せた。ちょっぴり残念そうな顔をされたけど、私はジェットコースターも楽しんで乗れる子だから!
そんな桃子達の隣では、リキットが呆れたように人差し指をディーに突きつけていた。
「隊長はモモ様にもっと丁寧に優しく接して下さいよ! 子供と接したことなんてないから加減がわからないんでしょうけど!」
「そんくらいわかるわ。弟がいたからな」
「えっ、隊長には家族がいたんですか? 家の話なんて初めて聞きましたよ。ですが、いたってことはつまり……」
いまにも慰めを口にしそうなリキットに、ディーが苦笑いで否定する。
「死んでねぇよ、たぶんな。オレはガキの頃に家を飛び出したきりなんでね。だから、今どうしてるかまでは知らねぇ。……つい、口が滑っちまった。今の話はみんな聞かなかったことにしてくれや」
本当は弟がいたってことも言うつもりがなかったみたい。なにか事情があるのかも。私も違う世界から来ましたってことは、限られた人にしか教えられないから一緒だねぇ。桃子はディーの意志に合わせることにした。
「私はなーんにも聞いてないよ! ──レリーナさんとジャックさんも聞いていなかったよね?」
「はい。私はモモ様のお声しか聞いていませんでしたので」
「オレはレリーナさんを見るのに忙しくて、ちっとも話を聞いてませんでした」
「自分達も大暴発の影響がまだ耳に残ってたようだ」
「ええ、そうですわね。まったく聞こえませんでしたわ」
誰もがとぼけた風に答えるので、桃子は笑ってしまった。マーリさんの部隊の人達もおかしそうに口元を押さえて笑い声を漏らしている。そんな中、最後の一人に皆の注目が集まった。リキットはその視線に押されたように僅かに身を引くと、そんな自分を恥ずかしく思ったのか少しだけ頬を赤くして仕切り直すように表情を真面目なものにした。
「僕も同じということにします。ですが、全て忘れるのでその前に一つ聞かせてください。身内がいるということは、隊長にも家名があるのではないですか?」
「オレはただのディーカルだ」
ディーがにやっと余裕の笑みを見せる。うん、これぞ四番隊隊長ディーカルだよね! リキットも同じように思ったのか、それ以上は聞かずにほっとしたように表情をゆるめていた。桃子はにこにこしながら手をパチンッと打ち合わせる。
「それじゃあ格好いい必殺技を考えよう! どういうものがいいかな?」
「攻めと守り、どっちに持っていくかでだいぶ違うぜ。──リキット、お前はどうするよ?」
「これは悩みますね。あなたのフォローに回るのを前提として考えるのなら守りを選びますけど……」
三人で考えていると、レリーナさんがそっとモモ人形を差し出された。いいの? 実は私もその感触に興味があったんだよねぇ。心の中の五歳児の好奇心がむくむくとわき起こる。その頬をつついてみる。気持ちいい。だけど、まだ私の頬っぺたの方が柔らかい? この勝負、私の勝ち! 五歳児が心の中で審判を下す。
「待って下さい。モモ様もディーカル君達も気が早いですわ。まだ先程の大暴発がなぜ起こったのか、その理由を話していませんよ」
「禁じ手とやらのことか? 二つの精霊を同時に喚んだのがまずかったんだろ」
「原因はそうなのですけど、理由を掘り下げるとそう単純なものではないのですよ。ディーカル君、大暴発が起こる前にセージが勝手に抜けていったのではありませんか?」
「魔法の発現まではオレの意志でやってたぜ。ところが、発現した途端に勝手にセージを吸い出された感じはしたな」
桃子はディー達の話を聞きながら、モモ人形との二回戦に突入していた。そっとお腹もつつかせてもらう。ついでに自分のお腹も触ってみる。はぅっ。心の中の五歳児がスリムさで負けてるかも? と判定を出した。密かなショックに慄いてしまう。
「隊長の言葉を聞く限りでは、魔法の発現に対してセージが足りていなかったということとになりますよね?」
「リキット君は鋭いですわね。魔法の理論上は同じ量のセージを両方の魔法に注ぐことが出来れば発現は可能らしいのです。ですが、ほんの狂いも許されないぴったり同じ量ですよ? そんな神技を行える人間なんてまずいませんわ。そういう理由から、大暴発を起こさないために禁じ手と言われているのです」
「なるほどな。──さっきから誇らしげだったり落ち込んだりと忙しそうだけどよぉ、チビスケもちゃんと聞いてたか?」
「うん!? し、しっかり聞いてたよ! えっと、二つの魔法を使うにはセージの量を同じだけ満たさなきゃいけない。だけどそれを出来る人がいないから、大暴発にならないように禁じられたってことだよね?」
「完璧なご返答です、加護者様」
「えへっ、褒められちゃったの!」
桃子はモモ人形を抱えてはにかんだ。そんな風に喜んでいると、顔を上向けた拍子に広い空に三匹のドラゴンの姿を見つけた。その背中に乗ってる女性が旗みたいなのを持っていて、どこかに向かって飛んでいく。なんだろう、あれ? 桃子の視線に気づいたようで、みんなも空を見上げる。
「おそらく、ルクルク国からの伝令部隊かと」
「正式な使者が馬で城に来るという知らせを持って来たのでしょう」
「ルクルク国からのお客さん!?」
他国からの訪問者と聞いて、桃子の声は跳ね上がった。




