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332、バルクライ、部下を鍛える 前編

*バルクライ視点にて。

 バルクライは殺傷能力がなくともほぼ同じつくりとなっている剣を握り直すと、ディーカルとリキットに第二段階へ向けての鍛錬内容を告げる。


「それぞれ魔法の適性については把握しただろう。よって、これよりオレとダナン対ディーカルとリキットで模擬戦を行う。命の危機に陥った際ほど、咄嗟のセージのコントロールは重要だ。それを身体で覚えろ」


「だからマーリは先に武器を配ったわけな?」


「最終的にはやはりこちらですものね。頭で理屈を理解したら、今度は身体に理解させるのです。ディーカル君は火の魔法、リキット君は水と土の魔法に強く適性がでていましたよね? それからモモ様は一番強いのは風の魔法でした。どの魔法を伸ばすかは皆様次第ですわ」


 バルクライは誰よりも目を輝かせているモモの頭に手を乗せた。まるい頭を撫でているだけで、感情が不思議なほど穏やかに凪ぐ。


「モモは見て学ぶ時間だ。オレ達の魔法を見て今後の参考にするといい。……これはオレの願いとなるが、モモには戦うために魔法を使うのではなく、自分の身を守るためやなにかを成すために魔法を使ってほしいと思っている」


「守るためと、成すため」


 大きな黒い瞳に理解を見つけ、バルクライは自分の考えを惜しむことなく言葉に変える。これはモモと出会って変わったと自覚のある部分だ。……オレは一度、言葉が足りずにモモを傷つけた。バルクライの頭はあの時の彼女の悲しそうな表情をはっきりと記憶している。だから、モモが相手の時には意識して言葉を増やすようにしているのだ。誤解なく自分の気持ちが伝わるように。


「オレが傍にいる限りモモの身も心も守ろう。だが、仮にオレが傍にいられない状況になった時を考えれば、専属護衛としてレリーナやジャックがいるとはいえ、身を守る手段は多いに越したことはない。モモは風の魔法の適性が強く出ている。そちらを中心的に伸ばすことをすすめるが、水と土についても弱い魔法ならば使用することは可能だろう。なにより、モモには三人の中で一番秀でている部分がある。セージのコントロールだ」


「一個でもいい部分があるのは嬉しいけど、コントロールがいいと魔法が暴発しないんだよね? それ以外にもメリットがあるの?」


「魔法を発現する速度にも差が出てくる。攻撃するにも守りに入るにも速さは勝負の決め手とも成りうるものだ。それに、モモは想像力が豊かだろう? そういう人間は複雑な魔法を発現することに向いているんだ」


「そうなの? それなら、私は風の魔法とコントロールを中心にもっと練習するね!」


 モモはバルクライの言葉を素直に受け止めたようだった。実際は、モモはバルクライと同じで四属性共にそれぞれの差はあるが適性が出ている。ただし、火の魔法だけは小指の先に灯る程度の火力しか発現しなかった。ディーカルの魔法を見て、モモが無意識に火を一番危険なものとして認識したためだろう。


 適性を確認していた時に、モモは自分の魔法を「おせんこうのひ」と表現していたが……あれはモモの世界のものだろうか? それにディーカルが発現した水の魔法には「みずでっぽう」みたいだと言っていたな。モモの世界についてもっと知っておきたい。この鍛錬を終えたら聞いてみるとしよう。


「モモはレリーナ達の傍で見ていてくれ。──さて、二人とも構えろ」


 バルクライはモモを専属護衛の二人の傍に立たせると、距離を取ってディーカルとリキットに向き直る。ダナンは弓を携えて隣に立つ。


「うははっ、団長とダナンが相手か。こうしてあんたと戦り合うのはいつぶりだ?」


「おおよそ三か月ほど間が空いたか。団長も隊長も忙しい身だからな」


「そうなんだよなぁ。あんたと好きなだけ剣を交えられた時が懐かしいぜ。けど、ここでオレが勝てば団長交代かぁ?」


「そんなことはありえません! 絶対に団長が勝ちますよ!」


「リキット、お前はなにを味方面してんの?」


「それは団長と共闘させていただく自分が言うべきセリフだと思う」


「…………はっ!?」


「今気づきましたと言わんばかりの反応をするんじゃねぇよ。お前は団長大好きっ子か!」


「いえっ、そんなっ、尊敬していますし、否定はしませんが!?」


「しませんのね?」


「はいっ、はいっ、私もリキットの仲間なのー」


 モモがあげた手を小さく振っている。その姿に周囲が笑みを零す。あまり関わりがなかったはずのダナンやマーリにもすっかり心を許している様子だ。


 明るい笑顔がモモから向けられる。黒く丸い目から伝わる好意は、バルクライが未だに掴みかね、時折取りこぼしそうになる胸の中のなにかをいつも温めてくれる。 自分の中に生まれる柔らかで慣れない感情は、未だに理解が及ばないことが多い。しかし、そのどれもが目や心を引かれるものだった。不思議な温かさに身体が軽くなる。今日はいつもより動けそうだ。


 バルクライはモモに目だけで応えて、意識して剣を二人に向ける。


「魔法を使った模擬戦をいつもと同じように考えないことだ。油断すれば死ぬぞ」


「舐めんなよ? 執務仕事に追われてる団長様こそ腕が落ちてんじゃねぇのか? あんたの首を取る気でやるぜ!」


「僕もダナン隊長の胸をお借りいたします」


「自分も全力で相手をしよう」


 殺気が混じり合う模擬戦の空気に緊張感が高まっていく。バルクライは呼吸を静めてじっとディーカルとリキットを見据える。


「へぷしゅっ」


 モモのくしゃみが模擬戦開始の合図となった。剣を武器とする三人が駆け出す。バルクライはディーカルと剣を交えた瞬間に、後ろ手に隠した左手でダナンに指示を出した。


「風の精霊よ、助力を乞う!」


「隊長!」


 ダナンが弓を引いて、風の魔法を付加させた弓を放つ。バルクライはその軌道をぎりぎりまで隠すと、ディーカルの剣を跳ね除けて距離を取る。空いた軌道に風が付加された矢が飛んでいく。


「さっそく来たな!」


 リキットの声にディーカルは矢の存在に気づいて咄嗟に剣の腹で受け流そうとするが、風の魔法を付加された弓矢の威力は大きい。弓矢は受け流せても風圧で土を靴で抉りながら勢いよく押されている。さらに追い打ちをかけるようにダナンが三度弓を引く。バルクライはその隙に、自隊の隊長に気を取られているリキットに鋭く切り込んだ。


「ディーカルを気にかける余裕があるのか?」


「く……っ、そんなものはありませんっ。それでも僕は四番隊副隊長です! 副隊長を任せて頂いたからには、その役職に相応しい力を示してみせます。はああっ!」


 一度、二度、と剣で横に切りつけると、身を反らしてかわしたリキットが回転しながら同時に反撃してきた。剣先の突きがバルクライの心臓を狙っている。躊躇いのない攻撃だ。バルクライは胸元に迫る剣をよけようとはせずに距離を測る。






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― 新着の感想 ―
[良い点] > まるい頭を撫でているだけで、感情が不思議なほど穏やかに凪ぐ。 そうなんですよね! ウチのお嬢はおっきくなっちゃって久しく撫でておりませんけど、もうこれは何か癒しの波動でも出ていると…
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