331、モモ、仲間に入れてもらう~魔法って響きだけでどきどきわくわくしちゃうよねぇ~後編
「お二人とも勘違いしているようですね。精霊を喚ぶための言葉は必ずしも同じものである必要はありませんわ。重要なのは、私達の声が精霊に届くことですもの」
「『精霊よ、助力を乞う』これは魔法を使う者にとって基本の言葉だ。ほとんどの者がこの言葉と自らのイメージで魔法の形を決めて発現する。自分も、単純な魔法はそれを使う口だ。しかし、雑な言い方をすると、届きさえすればどんな形でもいいんだ。だから、モモ様はそれをアレンジしてお使いになられていただけで、君達が練習するのに使う必要はない」
そう言えば、私もパーカーさんに基本を崩してもいいって教えてもらったね。そのことを思い出していると、心の中の五歳児がピコーンと反応した。電球を頭の上に点滅させている。ダナンさんの説明だと、単純な魔法以外にも魔法があるように聞こえるよね?
「はいっ、質問いいですか?」
「どうぞご自由におっしゃってください、モモ様」
「うんっ、それじゃ遠慮なく! ダナンさんの説明を聞いて思ったんだけど、魔法には単純じゃないのもあるの?」
「あくまでも個々の使い方によりますが、魔法の威力や形を調整するために、言葉を変えたり技名をつける者もいます。そうすることで、魔法の発現の仕方を定着しやすくなるのです」
魔法を発現させるために、自分なりのルールみたいなものを決めるのがおすすめってことだね。ということは、バル様も必殺技があるのかな!? ファンタジーな世界に興奮が止まらない!
ダナンさんに否定されたことですっかり気が抜けたのか、ディーが剣先を杖代わりにして両腕で十字部分に寄りかかる。バランス感覚がすごいよねぇ。
「あー久しぶりに焦ったぜ。あやうく、死ぬ寸前まで魔法は使わねぇと誓うとこだったわ」
「勿体ないことを考えますね。そこは隊長の思い切りのよさを出さないと」
「なんと言われようとも、オレはチビスケ用の呪文は使わねぇぞ。けど、ってことは、オレ達も魔法に関する言葉は勝手に作ってもいいってことだよな?」
「ええ、そうですよ。けれど、なぜそれほどまでにディーカル君は基本の言葉を使いたくないのですか?」
「望んでもねぇ力を押しつけられたのはもういい。だがな、魔法を使う度に助力を乞うなんて口にするのは、オレはまっぴらごめんだぜ」
「ディーカルらしい理由だな。しかし、魔法を使うより先にセージを感じ取れねば次の段階には進めないぞ。自分も、手伝ってやりたいが……」
「わかってるよ。だから必死こいてイメージしてるわけなんだが、どーにもしっくりこないんだよなぁ。──チビスケはどうやったんだ?」
「あのね、わかりやすく説明したいんだけど、すんごく難しいの。こう、なんていうのかな? 湖を想像していたらね、どこかから泡がぽこっと出てきたんだよ。そうしたら、それが自分のセージを感じ取れた瞬間だったの」
「わっかんねぇ。条件らしきものがあんのかも曖昧だろ。これでどう掴めってんだかなぁ」
ディーが唸る。今にもプスプスと頭から煙が出そうな顔だよぅ。考えて考えて頭がボーンッって爆発しそうになってるみたい。どうしたら上手くいくんだろう? 桃子もディーと一緒に頭をプスプスさせる。
バル様が考え込む桃子達を見て、リキットに視線を向ける。
「リキットも自分の中のセージがまったく感じ取れないか?」
「いえ、僕はなんとなく掴みかけているんですけど……団長はセージを感じ取るのに、どのようなイメージをお使いになられたのですか?」
「木だ。風にざわつく木々、葉で水を集め、炎で燃え盛り、土に強く根を張る、という感じにそれぞれの属性にわけて使いわけをした」
バル様の言葉を聞いて、桃子はぽんと手を打つ。
「それならディーは火をイメージしたらどうかなぁ? 適性がはっきりしているのは火の魔法なんだし、もしかしたらそっちの方がなにかを掴めるかも?」
「イメージを元から変えるのか。いいなそれ、いっちょやってみるぜぇ! 火のイメージな、火……火……火……」
ディーが立ち上がるとブツブツ呟きながら真剣な顔で目を閉じる。やがて、なにか気配のようなものが動いた気がして、桃子は期待に心をときめかせる。ディーは静かに目を開くと、剣を前に突き出す。
「──火の精霊よ、来やがれ!」
ディーがそう言った瞬間、赤い光が喜ぶように集まり出した。そして、お互いにぶつかり合うと剣先で炎の渦となって飛び出した。
「ディー、すごいよ。ちゃんと魔法が使えてる!」
「よっしゃ、こいつは成功──……じゃねぇっ!?」
「モモ様っ」
「オレが行きます!」
「問題ない。──水の精霊よ、助力を」
格好よく飛び出した魔法が膨れ上がった瞬間にレリーナさんが悲鳴のような声を上げて、ジャックさんが桃子を庇ってくれようとする。しかしそれより早く、バル様が左手を向けて魔法を放った。大量の水がうねりながらドォンッと炎の渦に体当たりして、あっという間に消火していく。しゅうしゅうと白い煙が空に上がる。あ、危なかった。もうちょっとで火事になっちゃうとこだったよ。
「くっそっ、最後の最後でやっちまった」
「ああもう心臓に悪い! 物事には順序ってものがあるでしょうが! いきなり魔法を発現なんて無茶苦茶なことをやりますかね、普通!?」
「いけると思ったんだよ。おっと、さすがにまだ扱いきれねぇか」
ディーの周りにまだ集まっている火の精霊がところところでぼっぼっと小さな爆発を起こして消える。やっぱりコントロールが難しそうだ。
「団長、ありがとうございます。すぐに反応してくださったおかげで隊長の丸焦げを見なくてすみました」
自分の左胸を押さえてリキットが冷や汗を拭うように額を腕で擦る。ちょっぴり顔色が悪くなってるから、本当に心臓が止まりそうな心地だったんだろうね。私は咄嗟のことになんの反応も出来なかったから、今更心臓が激しくなってるよ。落ち着くためにバル様のズボンの端をちょこっと握らせてもらう。そんな桃子の動揺をバル様もわかってくれているようだ。
「モモも驚いたか」
「うん、心臓が走っちゃってる。でも皆に怪我がなくてよかったねぇ」
「助かったぜ、団長」
「ああ、無事ならばいい。初めての魔法であれほどしっかり形が発現していたのだから上等だ。お前はやはり火の魔法の適性が強く出ている。セージの加減と集中力を身につけることだ」
「おう。次からはもっと気を配るわ」
「でも、いいこともありましたよ。今の隊長の失敗で僕もとっさに動こうとしたからか、セージのコツを掴めたみたいです」
リキットがぐっと身体の前で拳を握る。自信に満ちた表情は晴れやかだ。桃子は鍛錬仲間の二人の顔を交互に見つめて、にぱっと笑顔になる。
「それじゃあ、三人とも……?」
「基本となる第一段階はクリアした、ということだな」
「やったぁ! これで皆揃って魔法の適性を確認出来るね!」
嬉しさのあまりにバンザイしちゃう。子供心に憧れた魔法の世界がぐぐんと近づいてくる。桃子の好奇心は風船のように膨らんでいた。




