328、モモ、仲間に入れてもらう~魔法って響きだけでどきどきわくわくしちゃうよねぇ~中編
そんな四番隊の賑やかさに、周囲で鍛錬していた団員さん達も手を止めて、バル様の傍に走り寄ってくる。わわっ、囲まれちゃったねぇ。
「おはようございます!」
「今日はモモ様も一緒なんですね」
「お元気でしたか、加護者様?」
「どうです? ルーガ騎士団で正式に働きません? めちゃくちゃ歓迎しますよ!」
「もう馬鹿ねぇ、いくら加護者様がお優しくても失礼よ。──申し訳ございません。この人の妄言ですから、どうぞお気になさらないでください」
「はいっ、元気いっぱいです。それに誘ってくれた気持ちはとっても嬉しいです。ずっとは無理かもしれないけど、またお手伝いに来させてもらうことがあったらよろしくして下さい!」
桃子は頬の緩みを止められないまま、ハキハキと返事を返す。声の調子も跳ねぎみになってしまって、恥ずかしい。でも、バル様が留守の間、ルーガ騎士団で頑張ったことがこうして認めてもらえているのを見ると、やっぱり嬉しいよねぇ。
そんな中で、鋭い声が割って入った。
「団長! 突然で申し訳ないのですが、モモ様と直接話をさせてもらってもいいですか?」
「ラセンか。モモに聞くがいい」
「はっ! ──こうしてお会いするのは初めてですね。モモ様のお時間を少しだけいただけませんか?」
「いいですよー?」
バル様がダメって言わないのなら危険な人ではないってことだね。桃子は即答した。青くて猫っ毛ぽい髪が特徴的な、頭のよさそうなお兄さんだ。赤みのかかった茶色の瞳は物静かだけど強い。
たぶんこのお兄さんは会ったことがないと思うんだけど、人の名前とか覚えるのが苦手だから忘れちゃってる可能性もあるよね……それだと申し訳なさ過ぎる。桃子はほんのちょっぴり緊張しながらも、バル様に地面に下ろしてもらった。
「モモ様、オレは六番隊のクロウ・ラセンといいます。その節はオレの馬鹿な弟、ファングル・カーギリを助けていただきまして、ありがとうございました。ディーカル隊長にもお伝えしたんですが、モモ様にも直接お礼が言いたかったんです」
「ファングルの?」
「はい。正しくは幼馴染というものですね。オレは早くに親を亡くしたので、ファングルのご両親に育ててもらったんです。ですから、あいつは血は繋がっていないですが、オレの弟です」
「そういう事情があったんですね。説明してくれてありがとうございます。ファングルは元気にしていますか?」
「オレなんかに敬語は不要です。気軽にお話しください。ファングルは昨日も隊長と団員の方々と一緒に鍛錬していました。あいつ、初めて自分からもっと強くなりたいって言ったんです。それまではオレにケツを蹴り飛ばされて鍛錬に出ていたのが、あれから本気で努力するようになりました。周囲に助けられたことで変化があったんでしょう。これもモモ様のおかげです」
「えっと、私の力はそんなにすごいものじゃないよ? きっと、そう決断したファングル自身の心が強くなったんだと思うの」
「だとしても、モモ様の行動があいつを助けてくれたのは事実です。本当にありがとうございました。今はまだ力不足ですが、弟を助けていただいた御恩は必ずお返しいたします」
「……うん。その日を楽しみにしているね!」
固い決意の籠った瞳に、桃子は返すべき言葉を決める。迷ったけど、クロウの目を見ていたらそれ以外を選べなかったのだ。桃子達の会話が一区切りつくと、バル様が集まっている団員さん達をゆっくりと見回す。
「オレ達のことは気にせず鍛錬を続けてくれ。ただし、職務のある者は遅れず向かえ」
【はっ!】
バル様の言葉に鍛錬中だった人達はびしっと返事を返して、それぞれ戻っていく。クロウさんも胸元に手を当てて軽く頭を下げるという、ルーガ騎士団の敬礼をしてから、周囲の団員さん達と一緒に戻っていった。慕われているのがわかって、桃子は嬉しくなる。にこにこして見ていると、バル様がなにかに気づいたように振り返った。すると、一人の女性が清らかな頬笑みと一緒に女性の団員さんを二人連れて立っていた。
「ふふっ、朝から賑やかですわね」
私、知ってる! シスターみたいな清純な雰囲気のこの美人さんも、どこかの隊の隊長さんだったよね。この人も鍛錬に来てるのかな? 桃子と同じ疑問をダナンさんも覚えたようだ。
「マーリ、君達も鍛錬か?」
「いいえ、私もあなたと一緒ですわ。副団長に頼まれてお二人の指導役として参加いたします。なんでも、ディーカル君とリキット君は三日でコントロールを身につけたいのだとか? それでしたら、ダナンさんと交代制で指導いたしましょう」
「よっしゃあ! これで三日ぶっ続けで鍛錬出来るぜ」
「まさか徹夜でやる気じゃないでしょうね!? 僕は付き合い──」
「まぁ! そんなに早く身につけたいのですか? ……わかりましたわ! では、私も全ての力を使って協力します。寝る間も惜しんで頑張りましょう」
慈愛の眼差しで微笑んでいるのに意気込みが本気だよ! 優しい雰囲気を裏切る予感に、桃子はきょろりと周囲の反応を窺う。リキットがギッと抗議するようにディーを睨んで、おどろおどろしさを全身から溢れさせた。善意100パーセントの笑顔に違うんですとは言えないみたい。桃子はバル様がなにも言わないので様子を見守ってみることにした。
「…………隊長」
「いいじゃねぇか。死ぬ気でやるんだろ?」
「本当に覚えてろよ、あんた。──ありがとうございます。隊長のご厚意には感謝しかありません。僕とディーカル隊長は死ぬ気で努力しますから!」
どこ吹く風とばかりのディーに、リキットは恨みをまぶした言葉を投げつけてから、輝くような笑顔をマーリさんに向ける。その変わり身の早さに、桃子の心の中で五歳児がパチパチと拍手した。でも、そんなに厳しい鍛錬をしたら二人が倒れない? 桃子は心配になって右手を上げてみる。どなたか、発言の許可を下さい!




