326、モモ、共感する~神様と人との認識の違いは大きいよ~後編
「ディーも周りをよく見て? 火の精霊が集まって来ちゃってるよ。心を落ち着かせるためにも、ゆっくり呼吸するといいの。はいっ、吸ってー、吐いてー」
「うははっ、自分がやってどうするよ、チビスケ。けど、おかげで頭が冷えたぜ。苛立っても解決するわけじゃねぇし、魔法をどうするかを考えた方が賢いか」
「ぜひ、そうしてください。この部屋まで壊されては困りますからね」
ディーの気持ちが落ち着いたためだろう、火の精霊達がまたねーというように小さな円を描いて消えていく。これには皆もほっとしたようだった。ただ一人、賭けの女神様を除いて。
「ガキと言ったことは半分だけ訂正してやろう。ディーカルも成長しているみたいだからな!」
「あんたなぁ……って言ってたら切りがねぇか。好意でくれたもんに文句をつけたのは悪かったよ。だけど、説明は絶対に必要だったぜ? そこは人間と神の感覚の違いってことで知っておいてくれや」
「そうか。なら、覚えておこう」
「あの酒を分けて飲んでよかったですね。僕もこんなくだらないことで四番隊隊長の座を手に入れるなんてつまらないですから」
「言ってくれんじゃねぇか。だが、残念だったな。オレが魔法まで使えるようになっちまえば、お前の野望を果たす日はさらに遠のくぜ」
「なにも変わりませんよ。僕も魔法を使えるようになってみせますので」
そっぽを向いて鼻を鳴らすリキットに、ディーが好戦的に目をぎらつかせる。コミュニケーションの取り方が荒いね!? 二人の間でパチパチと火花が散ってるの。そんな二人を見て賭けの女神様が上機嫌に笑う。
「ふふん、やる気になっているのなら少し手を貸してやろう。ディーカルからだだ漏れになっている今のセージはアタシが貰ってやるよ。だけど、こんなのは一時的な措置にしかならないからな! お前達の身体は以前より多くのセージを受け入れられるように変化した。この先もセージの上限はそのままだ」
賭けの女神様がディーの胸元に人差し指でトンッとつついた。すると、白い煙がしゅるしゅると女神様の身体に吸い込まれていった。たぶんあれがセージなんだろうね。煙が消えるとディーが軽く腕を回す。
「へぇ、すげぇな。身体が楽になったぜ」
「用はすんだし、アタシは戻るぞ。後は自分たちでどうにかしろ。それとディーカル、加護者になりたくなったらいつでも呼べ!」
「ならねぇっての」
最後にディーに加護者の誘いをかけるだけかけて、賭けの女神様は来た時と同じようにシュバッと白い閃光を放って一瞬で消えてしまった。原因もわかったみたいだし、爆発は未然に防げたね! 達成感に笑顔になっていると、バル様が空中浮遊中だった桃子をそのまま左腕に乗せてくれる。足がぶらぶらしていたからこの形がやっぱり落ち着くよねぇ。
「これでディーカルとリキットがやるべきことは定まった」
「セージのコントロールだろ」
「ああ。お前達には猶予として五日間与えよう。酒については貴族に目を付けられる前に飲めと言ったオレにも責任がある。そこで、その間の四番隊の執務はオレが負うこととする」
「おっ、マジかよ!? さすが団長様だぜ」
「素直に喜ぶなよ」
喜色満面のディーを、カイがめって口調で窘める。ディーは執務が苦手だからねぇ。お手伝いをしていた頃はいつも唸りながら書類を仕上げてたもん。でも、バル様のお仕事が増えちゃうなら、私もまたお手伝い出来ないかなぁ? 書類を運んだり計算することならやらせてもらってたし、後で聞いてみよう。
「そんな、バルクライ団長がそこまで責任を負わずとも……」
「気にしなくていい。お前達に五日しか与えてやれずにすまないが、その間にある程度はコントロール出来るように努力してくれ」
「団長がそう決められたのでしたら、副団長である私と補佐のカイがサポートいたしましょう。昨日の内に魔法開発部にセージのコントロールを補助する道具の申請を出しました。大人用に改良をと一言添えましたが、一から作るものではありませんし、その内届くでしょう。五日以降はその道具を使いながら自分達で徐々に馴らしていってください」
「キルマ、カイ、すまない。オレも本来の執務に影響が出ないように予定を組み直そう」
「ところでよ、団長。あんたはどのくらいでセージのコントロールが出来るようになったんだ?」
「オレは幼い頃からセージが多かったから、自然とコントロールしていた部類だ。だから、あまり参考にはならないと思うが……一度暴発させてからのコントロールということなら、三日ほどだな」
「たった三日で!? すごいですっ、さすがバルクライ団長ですね!」
「この方は例外中の例外だ。コントロールについては個人差が大きい。自分は一月かかったぞ」
「……ふぅん。じゃ、五日もいらねぇ。オレ達も三日でコントロールしてやるよ」
「はぁぁぁぁっ!? あんた、ダナン隊長の今の言葉を聞いてましたか!? こんなに魔法のコントロールが抜群な方が一月かかったんですよ? 五日でも厳しいのに、三日なんてそんな出来るわけないじゃないですか!」
「団長っていう前例があるんだぜ? なら死ぬ気でやりゃあ、オレにもお前にも出来るだろ」
「無茶苦茶な理論を振りかざさないでくださいよ! 無茶でしょうが、それこそ死にますよ!?」
「へぇ、お前はやる前から諦めるの? それって四番隊副隊長の名折れじゃねぇ?」
「ぐっ、このっ、暴君隊長が! ええっ、いいでしょう。やってやろうじゃないですか!」
「その調子だ」
挑発とわかっていてもプライドに触ったのか、決死の表情でリキットが吠えた。途端にディーが悪い笑顔を浮かべる。作戦通りって感じだなぁ。話がまとまったところで、バル様が口を開く。
「二人がそうしたいのならやってみるといい。三日か、それとも五日かの最終判断は指導役のダナンに任せる。では、鍛錬場に移動するぞ」




