311、モモ、技を披露される~露店を周るのは宝探しと似てるかも~後編
「あ、あのー、結局、お支払いはどのように?」
「オレがポシェットとショルダーバッグを、ポーチはこの子が払うそうだ」
「では──……」
お兄さんが改めてそれぞれの値段を伝えようとした時、声が飛び込んできた。
「申し訳ございませんが、その会計はお待ちを。──ジャック、出番よ!」
「了解ですっ、レリーナさん!」
専属護衛の登場である。レリーナさんに声をかけられたジャックさんは喜んでお兄さんの前に立って値切りを始めた。
「この店で三つも品物を買うんだから、白銀貨一枚に負けるべきじゃないか?」
「えっ!? む、無茶ですよ。そんなの値切り過ぎだ! 赤字もいいとこです」
「でも、ここに並ぶ商品の隙間のなさから見ても、あんまり売れてないだろ? 在庫を抱えて帰るより、ここで少しでも元をとっておくべきじゃないか? 白銀貨一枚に銅貨十五枚ならどうだ?」
「……そんな値段じゃ売れません!」
「この子がリンガのポシェットをさげて回れば、それは、あんたの店の宣伝にも繋がるだろう? なのに、売れないって? もったいないことをするなぁ」
「そうなのか?」
「そりゃあもう。モモちゃんは可愛いですし、旦那は美形ですし、レリーナさんも美人。さらにはお連れの方も美形揃い。これで目立たないはずがないですよ」
「ジャックさんも格好いい熊さんだよ!」
桃子は自分を外すジャックさんに思わずそう言っていた。熊は褒め言葉だから!
「熊? 強そうってことかな。──まぁ、そんな感じなんで目立つことは間違いない。あんた、いいのかい? ここにいい宣伝塔がいらっしゃるってのに逃しちゃって」
「うぐっ、な、なら、白銀貨二枚に銅貨二十五枚でどうだろう!?」
「やれやれ高くて話になんねぇなぁ。──旦那、モモちゃん、どうせなら他の店を探してみませんか? こんなに露店があるんですから、ここよりいいバッグを扱っているとこだってありますよ」
ジャックさんが桃子達に目で合図してくる。わかったよ!
「そうだねぇ。その方がいいかなぁ?」
「ならばそうするか」
バル様があっさりと踵を返そうとすると、途端にお兄さんが慌てて喰いついてきた。咄嗟のことで棒読みになりかけた桃子とは違い、バル様は自然だった。すごい演技派!
「待ったぁっ! わかった、白銀貨二枚だ! これで勘弁してくれ!」
「白銀貨二枚か。まずまずかな。──旦那、モモちゃん、これでよしにしときます?」
まだまだ値切れますよって顔をしてるジャックさんと、悲壮な顔のお兄さんを見比べて、桃子は頷いた。これ以上は泣いちゃいそうだもんねぇ。代金を払うと、お兄さんが紙袋に商品を入れてくれた。そして、涙目で叫ぶ。
「お買い上げ、ありがとうございましたぁっ!!」
お得なお買い物だったけど、ちょっぴり申し訳なさが心に浮かんだ。なんだかごめんね、ポシェットもショルダーバッグも大事にするから!
お支払いを済ませて、顔色の悪くなったお兄さんと別れると、桃子はさっそく首にリンガのポシェットをぶら下げて、その中にお金の入った巾着を入れてみた。そうすると、心の中の五歳児もむふふとご満悦になる。
「モモ、ジャックに渡さなくていいのか?」
「そうだったねぇ。──あのねジャックさん、これ貰ってくれる? 専属護衛についてくれてありがとうって気持ちと、お祝いなの」
「オレに!?」
「そうだよ。ジャックさんの趣味に合う?」
「めちゃくちゃ嬉しいよ、モモちゃん! 親にだってこんないいものもらったことないぜ。もう感動しかない!」
「大げさだよぅ。でも、そんなに喜んでくれるなんて、贈ってよかった。気軽に使ってくれたら嬉しいの」
「さっそく使わせてもらうよ。本当にありがとな」
桃子が差し出したポーチを両手で恭しく受け取ると、ジャックさんは目を感動に潤ませながら、自分の左足部分にポーチを取りつけた。嬉しそうにされると、こっちまで嬉しくなっちゃうよねぇ。お互いににこにこしていると、キルマ達が合流した。途端にキルマが目を見開いて、バル様の腕から桃子を攫う。抱き上げられて視界がくるくると回る。
「わわっ!?」
手からショルダーバッグが入った紙袋が落ちてしまう。すかさずレリーナさんがキャッチしてくれた。ありがたいけど、すごい反射神経だねぇ! そんなハプニングにも目もくれず、キルマは桃子を空に掲げて回した後に、興奮に目元を赤くしながらすべすべほっぺでほおずりしてくる。
「ああっ、なんて素晴しい! これほどモモに似合う形のポシェットはこの世に二つとありませんね……っ」
「………………キルマ」
どこから声を出したの? って、聞きたくなるくらいに、バル様が低い声でキルマを呼んだ。黒曜石の瞳から感情が消え失せて、作り物めいた美貌に拍車がかかる。はうぁっ、魔王級の迫力を纏ったバル様がご降臨!?
「兄が本当にすみません!」
「バルクライ様、ここは穏便に収めましょう! ──おいっ、キルマ! うっとりモモに頬ずりしてないでバルクライ様に今すぐお返ししろって」
「嫌です。こんなに愛くるしくて最高に可愛いのですよ? 今日はまだ一回も抱っこさせてもらっていません。私もモモを可愛がりたかったんですから交代です。カイはいいのですか? でしたら、私がその分長めに抱っこしていてもいいですよね?」
「また否定しにくいとこをついてきやがって……」
「ほらごらんなさい。──ということなので、ここからしばらくは私達の番です。よろしいですね、バルクライ様?」
にっこりごり押しするキルマにバル様は深くため息をついて、仕方なさそうに頷いた。キルマ、強い! これも本当に親しいから出来るやり取りだよねぇ。しみじみと三人のやりとりをみていたら、リジーが感心したようにリンガのバッグを覗き込んでくる。
「それにしても、面白いものを見つけたわね。可愛いし、似合ってるわよ」
「ありがとうっ、バル様が買ってくれたの。それでね、ジャックさんが値切りで大活躍だったんだよ」
「へぇ? やるね、ジャック。……え? なんでお前は泣きそうになってんの?」
「いや、ちょっと感動しちゃって」
ジャックさんが空を見上げて滲んだ涙をごしっと拭っている。その厚い肩をカイが呆れたように叩く。もうすっかりジャックさんもこの中に馴染んだみたい。一緒に出かけたことで人柄も知れたのがよかったんだろうね。さっきはレリーナさんと息もぴったりだったし。リジーもツンツンはしてるけど、前みたいにとげとげしさはないから皆穏やかで楽しそう! 桃子は緩む口元を満面の笑顔に変えて、周囲に声をかけた。
「次はどういう露店がいいかなぁ?」




