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306、モモ、目移りする~全力で楽しんだ時ほど、いい思い出になるよね~前編

 道幅を陣取るようにせり出した露店がおしくらまんじゅうをするように、場所いっぱいに立ち並んでいる。絶え間なく聞こえる店への呼び込みと、道ゆく人々の笑い声や足音がふわふわと浮かれた空気になって街全体を包んでいるようだ。わいわいがやがやなんていう表現がぴったりだね!


 春祭りを初めて体験する桃子もすっかりその空気に染まっている。人も店も売り物も目に映る全てがキラキラと輝くようだ。右側の露店に刺繍されたおしゃれな手巾があれば、左側には異国から来たのかアラビアン風な服が売られ、また反対を見れば装飾品の市場が展開していたりする。


「モモ様、あちらには耳飾りがございますよ」


「わぁっ、すごい数だねぇ。可愛いのがいっぱいある」


 レリーナさんが指差した露店を見れば、競い合うように宝飾品が並べられていた。耳飾りを専門に取り扱ってるところから、腕輪や首飾りを出していたりと、実に様々だ。同系列店でも取り扱う商品の趣が違うので流し見てるだけで楽しくて目移りしてしまう。


「こっちは陶器の置物か。細かい部分までよく作られてるなぁ」


 反対側の露店を見てジャックさんが感心している。簡素な木の台に広げられた布の上には、陶器で作られたファンタジーな生き物達が売り出されていた。


 コウモリの黒い羽みたいなものが生えた狼から、尻尾が竹箒みたいな猫もいれば、トンボの羽をつけたタツノオトシゴ風の不思議生物もいる。その真ん中には、今にも火を噴きそうなかっこいいドラゴンが主役のように立っていた。


 綺麗なものも格好いいものもお子様心をくすぐるけど、今の私だと割っちゃう予感しかしないよねぇ。買ってすぐに失うのは切なすぎるからせめて落としても大丈夫なものにしよう!


 次に前方になにかを見つけたのはカイだったようだ。仲間内にだけ聞こえるように声を抑えて伝えてくれた。


「なぁ、見ろよキルマ。信じられないほど派手な店があるぜ。金環に、金のマスク、金の腕輪、金のマント、金の杖、金の靴、ははっ、おまけに金の髭剃りまであるらしいぞ。面白いけど、あれって本当に売る気はあるのかね?」


「店を出しているのですからあるのでしょう。私は絶対に買いませんが。店主は全身に金の装飾品を身につけていますね。あれは宣伝のつもりなのでしょうか? 確かに目立ちはしますが逆にお客さんは避けてますよ」


「そりゃそうでしょう。だってめちゃくちゃ怪しいもの。──いい、モモ? あんなのをまじまじと見たらダメよ。変な客引きをされるからね」


 リジーに大きく頷くと同時に、露店テントの前を通り過ぎた。桃子は妖しい雰囲気のお店からそっと目をそらす。ずっと見てると足が勝手にお店へと向かってしまいそうな気がしてくる。そんなわけない! って言えないところが恐ろしい。


 だけど、気になっちゃう。あのテントの中に吊るされてたジャケットの山と、台に並んでた髭剃り達は、本物の金で出来てるのかな? 店主のおじいさんの後ろで護衛らしきおじさんが二人立ってたから、本物感は出てたけど。


「あの金はまがい物だな」


「見分けがつくの、バル様!?」


「ああ。感覚的なものだか、色に違和感がある。しかし、露店ではまがい物を売ることが普通なのか?」


「全てがそうではありませんが、おっしゃる通り露店の中には粗悪品と呼ばれるものが混在しています。ですから、価格が納得いくものであるのかを見極めることも大事なのですよ」


「そういう仕組みなのか」


「あの店が本物を謳っているなら、捕まりますけど、どこにもそんなことは書かれていませんからね。それにあれを本物とは誰も思いませんって」


 ここに信じそうになった人がいるよぅ! カイの言葉に密かなショックを受けていると、よほど情けない顔をしていたのか、周囲に気づかれてしまった。


「カイったら馬鹿ね! ──気にしなくていいのよ。モモはまだちっちゃいんだから、信じてしまっても仕方ないわ」


「リジー、それではフォローになっていませんっ」


 キルマが器用にも押し殺した声で叫んだ。リジーの優しいフォローが心にザクッと刺さる。そうじゃないんだよぅ。言えないけど、本当は十六歳なの! だから、私はアウトですか……? なんてことはとどめになっちゃいそうで聞けないっ。


「丸ごと信じちゃったわけじゃないよ!? その、ちょっとだけ本物なのかなぁって思っただけなの」


「恥じることはない。誰でも最初はわからないものだ。オレも今まで関わりがなかったものは知識が少ない。だが、春祭りに関しては詳しい者が五人もいる。共に教えをこうとしよう」


 バル様の言葉にしょんぼりしていた気分がふわっと浮き上がる。周囲に目を向ければ皆の目が頼ってもいいんだよって言ってくれている気がして、桃子は自然とへらりと気の抜けた笑みを浮かべていた。


「おや? 甘い香りしてきましたね?」


 キルマが空中の匂いを嗅ぐように、綺麗な鼻筋を上向ける。



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― 新着の感想 ―
[良い点] > ここに信じそうになった人がいるよぅ! その純真さが財産です♪ > ちょっとだけ本物なのかなぁって 何事も僅かな真実を内に秘めてるそうですから(笑) [一言] 更新ご苦労様…
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