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304、モモ、花を飛ばす~情熱的な愛はお子様にはまだ早すぎました!~後編

「あの男は生粋の傭兵だからな。権力を与えてどうこう出来る相手じゃない。そいつにとってよほどの理由がなけりゃあ留まっちゃくれないさ」


 肩をすくめるルイスさんに、ディアンナさんは残念そうな顔を向けた。そんなに有能な傭兵さんだったんだね。私もルイスさんを助けてくれてありがとうって、お礼を言いたかったなぁ。でも、傭兵をしているなら、いろんな国を周っているのかもしれないし、またジュノール大国にも来てくれるかもしれない。いつかどこかで会えたらいいよね! 


「ルイス、先程の捕り物について説明してくれ」


「私も聞きたい! 広場で請負人が神官の服を着て警護していたのもジャックさんが見つけたよ。それも、あの男の人を捕まえることに関係あったの?」


「あの男、ヒューラ・ルフがオレの命を狙ったことは状況的に見て間違いなかった。だがあいつは狡猾で頭が切れるからな、証拠につながるような尻尾は掴ませなかったんだ。だからオレの方でちょいと罠にかけることにしたんだよ」


 悪い顔をするルイスさんが大神官になってることが面白い。全てが終わった後だから、こう思えるんだろうねぇ。桃子は罠という単語にサスペンス要素を感じてどきどきしてくる。


「どんな罠を仕掛けたの?」


「それこそ捻りのない単純なハッタリだ。『お前の部下達は我が身可愛さにオレについたぞ』って言ってやっただけだ」


「えっ、それだけ?」


「あの男にはそれで十分だったんだよ。ヒューラは神経質で慎重な男だが、その半面、かなりの小心者だ。そう一言言われただけで、疑心暗鬼になって味方さえも信用出来なくなっちまうくらいにな。味方からすりゃあたまったもんじゃないだろうよ。裏切ってもいないのに、いきなり剣を突きつけられて、忠誠を誓えと迫られるんだ。そうすると、当然ついていけないって離反する奴等が出てくる」


「それをお前達が受け入れていったということか」


「ご名答。そうすりゃあ、オレ達の派閥に寝返る奴等が必然的に増えるだろ? 結果的にオレのハッタリに真実味が出てくるわけさ。そして、あいつは更なる疑心暗鬼に陥る。後は簡単だ。それを見計らって、タオにある噂を流させた」


「『ルーガ騎士団が暗殺未遂の犯人を見つけたらしい』というものです」


「神殿内で流れ始めた噂を耳にした途端、ヒューラは行方をくらませた。だが、そんなことはこっちも想定済みだ。この計画にはあらかじめ請負屋の奴等に協力を頼んでいたんだよ。最初から徹底的に尾行してもらっていたから、金品一式を持って屋敷を飛び出したあいつがどこでなにをしているのかは全部把握していた。そこまで来れば、後は最後の仕掛けをするだけでいい。春祭りの宣言と大神官の就任が披露される今日、オレという餌を用意して罠を張ったわけさ」


「勝率は高かった、ということか。自分の命をかけるなど、無茶な真似をする。だが、これでお前は神殿内での立場を確立できたはずだ。まさに命をかけて大神官としての覚悟を示したのだからな。しかし、それはあくまでも結果論だ。……モモが真似しても困るだろう?」


 バル様はルイスさんにおっきな釘を刺しながら、なぜか視線を桃子に向けてくる。えっ、そんな真似しないよ!? と思いながらぶんぶんと首を横に振ったら、レリーナさんが神妙な表情で自分の口元にそっと手を当ててひそっと教えてくれる。


「モモ様も害獣が街に出た時に、危険な場にもかかわらず飛び出しておられますよ?」


「うぐっ」


「モモちゃん、ここは黙ってた方がよさそうだぞ」


 ジャックさんもこそっと助言してくれた。綺麗さっぱり忘れてたの! そうでした。私ももうやっちゃってたよ。ちっともルイスさんを心配出来る立場じゃありませんでした! 本人が忘れちゃってたことを、バル様はずっと覚えてたんだね? それだけインパクトが強かったのかなぁ? 心配させちゃうことも多いけど、あの時よりもちょっぴりは成長してるつもりなの。


 桃子達のやりとりを見て、ルイスさんが苦笑しながら、白い帽子をかぶり直す。


「今回だけ大目に見てくれ。オレもほいほい自分の命を張るほど安売りする気はないさ」


「そんなことは、わたくしが許しません。周囲に神官服を着てもらった請負人達を配置したり、民衆の中に請負人を混じらせたりと、手は尽くしたところで、わたくし達の不安がなくなるわけではないのよ」


「無事にお戻りになられるまでどれだけ気をもんだことか……大神官となったのですから、ルクティス様はもっとご自愛くださいね」


「この通り、厳しいお目付け役もいるんでな。それにこれから神殿内も穏やかになるだろう。まだ小さないざこざはあるが、そこは周りの力を借りて上手くやるさ。なにしろおいちゃんは、モモちゃんの見本となる姿を見せないといけないからな」


 ルイスさんは両手を軽く上げて降参の形を示しながらも、陽気な調子でそう言った。至って自然体のその姿こそが、ルイスさんの本来の姿なのだと桃子は感じた。





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