303、モモ、花を飛ばす~情熱的な愛はお子様にはまだ早すぎました!~中編
「王妃様との話は終わったのか?」
「ええ。気さくでお優しい方ね。副大神官となったわたくしの身を案じて下さったのよ。『いざとなれば、大神官をいくらでも楯にせよ』なんておっしゃっていらしたわ」
石を投げられていたから、心配してくれたんだろうねぇ。おっきい役職に就いたってことはなにかあった時は矢面に立たなきゃいけないし、危険な目にも遭うかもしれないもん。
「そりゃ当然だな。あんたを任命したのはオレなんだから、責任取って楯役をこなすさ。──バルクライ殿下、モモちゃん、彼女の顔を覚えておいてくれ。彼女は副大神官を務めてもらうディアンナ・マイカだ。主に神殿内の貴族を纏めてもらっている」
「お会いするのは初めてですわね。モモ様とバルクライ殿下のご活躍はかねがね聞き及んでおりますわ」
ルイスさんに抱っこされた桃子は、優しく顔を寄せてくる美女に照れてしまった。近くで見ると眼福な美人さんだね。この世界の人ってスタイル良くて美人な人が多いよねぇ。桃子がぽわぽわと花を飛ばしていると、バル様に指先で手招きされた。はっ、居心地よすぎてうっかりしてた。加護者として抱っこのまま挨拶なんて恰好つかないもんね!
「こちらも話は聞いている。ルイスの命を救った傭兵はあなたの指示で動いていたそうだな」
「ええ。お父様には叱られましたけれど、わたくしの愛する人の危機を救えて安堵いたしました」
再び石の地面に下りたった桃子は、愛する人などという大胆な言葉に大きく反応した。ここでまさかのラブな展開!? さっきバル様から聞いた状況からすると、その相手ってルイスさんだよね!? そう思って、ディアンナさんに愛されている人に目を向けたら、複雑そうに顔をしかめていた。
……そっか。神殿でルイスさんには亡くなった奥さんがいるって話してくれたもんね。ルイスさんとしては、受け入れることが出来ないんだ。勝手に盛り上がっちゃったことを桃子は申し訳なく思いながら、二人の様子を見守ることにする。
「ディアンナ、前にも言ったが、オレじゃああんたの相手は務まらんよ。身分も違うし、年も離れてる。それにオレにはもう──……」
「奥様のことをおっしゃりたいの?」
「お前、知っていたのか」
「わたくしがあなたに本気であることを知ったお父様が、あなたの過去を調べたのよ。その報告書をわたくしの目の前で読み上げて、諦めるように説得してきたわ。でも、その過去があるからこそ、あなたはわたくしの前に立っているのでしょう? 年上のあなたは頼りがいがあるわ。身分は大神官になった貴方の方が上よ。奥様のことを想うあなたの一途さは魅力的にしか見えない。あなたの拒絶する理由は、わたくしが愛する理由にしかならないわ!」
燃えるように情熱的な告白に、桃子は思わずひょわーっと叫びそうになった。このお姉さん、とんでもない美女なのに、すんごく男前で恰好いい! ど直球な告白は聞いていた者の心を飛び跳ねさせるものだった。
「こりゃ……まいったな」
ルイスさんが顔を隠すように目元を手で覆う。見える皮膚がほんのり赤らんでいるのが見えた。こんな告白をされて、なにも思わない人なんていないよね。
「あのさルイスさん、よけいな口出しかもしれないけど、ありきたりな言いわけで煙に巻こうなんてするなよ。この人はきっと、そんな態度で断るんじゃ諦めないぜ。こんな美女が本気で想いを伝えてきたんだ。逃げるなんて男が廃るぞ? 答えを出す前に、一度本気で考えてやるのが誠意だろ?」
言葉に詰まるルイスさんにジャックさんがそう助け船を出す。常識的な理由で断るんじゃ、きっとディアンナさんも納得出来ないし、かといって、このままでいるのは二人にとっても良くないって思ったのかも。
「やれやれ、ジャックにまで心配させちまうとはな。──今まで中途半端な断り方をして悪かった。あんたの本気は十分伝わったよ。だから、じっくり考えさせてくれ」
「ええ! 覚悟なさっていて? その間もわたくしは攻めさせていただきますわ!」
「お、お手柔らかに頼むぜ」
「……貴族の女性ってのはもっとお高くとまってるか、お淑やかにしてるかだと思ってたけど、すげぇ女性もいるもんだなぁ」
「彼女は貴族の女性の中でも特別だろう。義母上とは気が合いそうだな。──話は変わるが、あの傭兵は今どこにいる?」
「ドミニクでしたら、お父様との間で交わされていた契約は次の大神官が定まるまでというものでしたから、今頃はもうこの国を出ている頃かと思いますわ」
「そうか。もう一度会っておきたかったんだが……よく引き止めなかったな。あれほど器用な男もそういないだろう」
「わたくしも本当はそうしたかったのですが、タオと同じ立場を用意するので残ってほしいとお願いしたら、きっぱりと断られてしまいました」




