表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
304/372

302、モモ、花を飛ばす~情熱的な愛はお子様にはまだ早すぎました!~前編

 迎えに来てくれたタオと桃子達が裏から城内に入ると、石畳と花々に囲われた場所でびしっと大神官の正装できめているルイスさんが待っていた。


「お呼び立てして申し訳ない。バルクライ殿下、モモ様」


「おいちゃん……?」


 ルイスさんのかしこまった口調に、笑顔で話しかけようとしていた桃子は、困り眉になってバル様に下してもらった場所で固まった。大神官になったから、これからはいつもこう言う口調でなきゃいけないのかも。どうしよう、私も合わせないと! 慌てて頭にエンジンをかけて言葉を選ぼうとしていたら、バル様がスラスラと返答した。


「いや、こちらからも挨拶に伺おうと思っていた。ルーガ騎士団師団長として、また第二王子としても新たな大神官の誕生をお祝い申し上げる」


「えっと、私もルイスさんの大神官へのごしゅう? ごしょうにん?」


「ご就任、か?」


「それなの! ──ご就任をお祝いします。おめでとうございます!」


 バル様のフォローで言葉を繋げて、桃子はぺこりと頭を下げかけて、踏みとどまった。思い出してよかった! つい忘れそうになるけど、加護者として頭はあんまり下げちゃダメなんだよね。一瞬だけ頭が揺れたけど、セーフ! 


「くっ、ふふっ、あ、ありがとな」


「…………ほあ?」


 口元を手で隠しながら、さらっといつもの調子で返されて桃子の目は点になった。動揺が顔から丸だしになった桃子を見て、タオは笑いを堪えるように口元を引き結むと、自分の腰に両手を当てて、隠しもせずに笑い出したルイスさんを叱る。


「モモちゃんをからかうなんて、悪い大神官様ですね」


「すまん、最初くらいは真面目にしようと思ったんだよ」


「騙された……!」


 ショック顔を披露する桃子をルイスさんがひょいっと抱きあげた。お父さん力が溢れた抱っこに、五歳児の機嫌もころっと治ってしまう。実際のお父さんには抱っこしてもらった記憶なんてまったくないんだけど、そう感じるのが不思議。うーん、なんでだろうね? 頬を膨らませて抗議するつもりが、つい、へにゃっと表情が崩れちゃったよ。ルイスさんの優しい目が穏やかに緩む。


「大神官になっても、今はただ肩書を得ただけだ。おいちゃんの中身が立派になったわけじゃない。これから、相応しくならないといけないんだよ。モモちゃんなら、この意味がわかるだろう?」


「……うん」


 私とルイスさんは同じだもんね。私も最初から加護者だったんじゃなくて、軍神様に加護者という立場を与えてもらったから。だから、せっかく選んでくれた軍神様に私はちゃんと歩いてます! って言えるように生きなきゃいけないよねぇ。


「肩書きを背負った者としては、モモちゃんの方が先輩だな」


「私でお役に立てるならなんでも聞いて! 私も神殿のことでわからないことは、ルイスさんに教えてってお願いするよ。ところで気になってたんだけど、お髭はどうしたの? 大神官になったから卒業しちゃった?」


「ははっ、卒業するつもりはまったくなかったんだが、朝起きたら周りの奴等に連行されて無理やり剃られちまったんだよ。髪もいつもと違うだろ? このままじゃ、落ち着かなくてなぁ」


 ルイスさんは白い帽子を右手で取ると、後ろに撫でつけていた髪をぐしゃぐしゃにしてしまう。そうすると見慣れたぼさっとしたおいちゃんだ。ただし、つるつるな顎にはお髭が一本もないよ! そんなルイスさんの暴挙にタオが情けない悲鳴を上げる。


「あーっ、せっかく整えたのに勿体ない。ルクティス様はちゃんとすれば見栄えする方なのですから、少しは外見にも気を使って下さいよ」


「いいじゃないか、今日のお役目はばっちり果たしただろ? 普段からこんなぴっちりしてたら、おいちゃんは疲れちまうよ」


「タオがルイスの手綱を握っているようだな。彼の立場はどこに落ち着いたんだ?」


 大神官という役職を抜きにすると、タオの方が強いみたい。二人の様子を見ていたバル様がそう尋ねた。団長さんとしては気になるとこだよねぇ。私も知りたい! もともと補佐的な立場にいたから、ルイスさんが大神官になってくれるなら、副神官にはてっきりタオがなるのかなぁ? なんて想像してたからね。


「もともとオレの補佐をしてくれたから、タオにはそのまま大神官補佐に就いてもらったんだ。神殿内で起こった問題はいち早く伝えてくれる。こいつは情報収集能力にも長けてるから、助かってるよ。この通りの世話焼きでもあるしな」


「ルクティス様はもう少ししっかりなさってくださいよ。大神官になると決まってからも神殿内を請負人の恰好でうろうろしておられたでしょう? あれ、神官の間では不審者が出たって勘違いされていたんですからね! それに、脱いだ靴下が片方だけ部屋に落ちてたり、ヒビが入ったコップをそのまま使っていたり、生活面がズボラ過ぎます!」


「そう怒るなって。服については神官服が動きにくかったからそっちを着てただけだし、靴下は洗濯に出し忘れただけ、コップは水漏れしてなかったから使ってただけだぞ?」


「……こんな感じの大神官様です」


 飄々とした態度のルイスさんに、タオはがっくりと肩を落とす。すっかりルイスさんの世話係みたいになってるねぇ。でも、バル様にはキルマとカイがついてるように、ルイスさんにも絶対的な味方が神殿内に出来たみたいで一安心。そこに吐息の混じった色気のある女性の声がかけられた。


「ルクティス、わたくしにもご挨拶させていただけないかしら」


 しゃなりしゃなりと音が聞こえそうな足取りで神官服を着た金と赤が混じった髪と灰色の瞳をした美女が近づいてくる。ぷっくりした唇に、女の人だけどどきどきしちゃう。バル様みたいな色気爆発タイプとはちょっと違うんだけど……この人は、周囲を誘惑しちゃう感じだね! 私もほっぺたが熱くなってきちゃった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ