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298、モモ、変装する~いつもと違う服は人の印象を変えるよ~

 元の世界で桃子が初めてお祭りに行ったのは、今の身体と同じくらいの年齢の頃だった。白い布地に水玉模様と赤い金魚が泳ぐ浴衣を着せてもらって、祭囃子と太鼓の音が聞こえる夜の出店をおばあちゃんと手を繋いで回ったのだ。ヨーヨーすくいや綿あめを買ってもらって、その賑やかでまあるい空気にはしゃいでいたことを覚えている。お祭りから数日経って、ヨーヨーがしぼんでもなかなか手放せなかったっけ。


 審判で拙い推理を披露したり、王様のご褒美に大慌てしたりと怒涛の一日を乗り越えて迎えた今日! 楽しみにしていた春祭りがついにきたねぇ。キルマ達と一緒に行こうねって約束していたから、桃子のテンションは起きた瞬間からウナギ登りである。


 桃子は心の中では五歳児がお祭りの半被を着て、【祭】って大きく赤文字で書かれた団扇を持ってすでにお祭りを楽しむ気満々で待っている。早過ぎじゃないかな!? そう聞くと、早く早くとばかりに、わくわく、きらきら、そわそわ、と落ち着きない様子を見せている。その全身からお祭りに対する期待が溢れちゃってるねぇ。気持ちはわかるよ。十六歳の私もやっぱり心が弾むもん。だって、異世界のお祭りだよ? 正直に言います。期待値だってマックスだよね! 


 というわけで、そんな胸躍るお祭りを全力で楽しむために、今日も美味しい朝食を頂いた桃子は、バル様と違うお部屋でいつもと違うお子様に変身中であった。


 起きた時に着替えはしたんだけどね、王妃様から加護者としての知名度がちょっぴり上がっちゃったことを教えてもらったので、レリーナさんを含むメイドのお姉さん達にちょっぴり変装を施してもらうことにしたのだ。


「たとえ庶民のお子様の振りをなさるとしても、モモ様の愛らしさを引き立たせてみせます。皆、いいわね?」


「もちろんです、レリーナさん! さっそくご準備を!」


「ええっ、わたくし達の腕の見せどころですわ」


 気合十分なレリーナさん達に、ほんの少しうろたえた桃子だったが、そこは優秀なメイドさん達だ。素早く桃子の仕上げに取りかかってくれる。


 ちなみに今日のお子様服は、袖周りにレースがあしらわれた白いシャツと淡い桃色のサスペンダースカートなの。レリーナさんとメイドのお姉さんが両側から横髪を優しい仕草で編んでくれる。どんな風になるんだろうねぇ? メイドさんのお仕事振りはこれまでも見せてもらっているし、お世話にもなっている桃子は、最初の動揺を忘れたようにその優しい指の動きに信頼して身を任せた。


 最後に、全身を確認するようにメイドさん達が全員で全身をチェックしてくれる。スカートの裾や襟ぐりを綺麗に直されると、頭に深めの赤いキャスケット帽子をすぽっと装着してもらう。庶民バージョンお子様桃子の完成です! 


「こんなに愛らしいモモ様のお傍を一緒に歩けるなんて……私、嬉しいです」


 レリーナさんがぽっと頬を染めている。そんな風に言ってくれるレリーナさんこそ、今日はいつにも増して美人さんなのにねぇ。桃子は見惚れたようにさっきからレリーナさんにくぎ付けになっているジャックさんのズボンの端をくいっと引っ張る。


「あっ、えっ、モモちゃん?」


「ジャックさん、ジャックさん、レリーナさんはいつも美人さんだけど、今日は特別に綺麗だよね?」


 美人なレリーナさんにアピールチャンスだよ! 桃子は目でもジャックさんに合図を送る。ピンと来たのか、ジャックさんは顔を赤くしながらおずおずとレリーナさんに向き直る。


「いつもお綺麗ですが、きょ、今日の貴方は、オレには眩しいほどの美しさです!」


「そうだよね? レリーナさんは元が美人さんだからそのスカート姿もとっても似合うよ」


「ありがとうございます、モモ様、ジャック」


 控えめに微笑むレリーナさんは町娘風な装いだけど、清楚なご令嬢の雰囲気があった。それでもやっぱり、ジャックさんの言葉に照れた様子はない。ううむ、前途多難の恋? ジャックさんは好きな人を前にすると恥ずかしがりやな熊さんになっちゃうから、春祭りをきっかけになにか進展があるといいねぇ。


 レリーナさんとジャックさんを交互に眺めていると、レリーナさんの右手首がきらっと光った。桃子が贈ったブレスレットだ。メイドさんと一緒にいつも着けてくれているのだ。今日もお洒落の一つとしてつけてくれたのだろう。ジャックさんもいつもよりちょっぴりお洒落をしてるよ! ボタンつきの白いシャツと紺色の上着を重ね着してるもん。


「モモ様、せっかくですから、ご自分の恰好もご確認なさってはいかがでしょうか?」


「手鏡ならこっちにあるよ。見てみるかい?」


「すんごく見たい!」


 桃子はジャックさんが渡してくれた手鏡を覗き込んで見る。ほほー、これならどこから見ても普通の五歳児だよ! そう思ってしげしげと眺めていたら、後ろからの伸びた手にキャスケットの位置を浅めに直された。 


「この方が自然だ。……愛らしい装いだな」


 見上げると、こちらも今日のお祭りに合わせて庶民的な服に着替えたバル様がいた。水色のボタンシャツはニ、三個開いていつもより胸元をくつろげ、袖をまくって引き締まった腕を見せている。さらに下は灰色のズボンを穿き、腰元には帯剣していた。髪型は前にお出かけした時のように片側を上げているので、ちょい悪なバル様だ。けれど、その美形オーラまでは隠せてない。改めて見ても、すんごく格好いい! 


 逆三角形な体形に腰の位置が高いから、足の長さが際立ってるもん。私がカメラマンだったら、バル様にモデルになってくださいってお願いしてると思う。桃子は直された帽子に手で触りながら、目元を和らげたバル様に照れながら笑顔を向ける。 


「ありがとう。バル様は王子様の正装も格好よかったけど、そういう服装も似合うねぇ。あっ、街に行くのなら、今日もクライ様って呼んだ方がいいかな?」


「いや、偽名は使わなくていい。春祭りを目当てに街には溢れるほど人が集まるからな。オレ達が集団で行動していても、それほど悪目立ちはしないだろう」


「カイとキルマと待ち合わせした時間は大丈夫?」


「ああ。余裕があるから、先に用事を済ませよう。そろそろ春祭りの開始が宣言される。全員、支度は整ったか?」


「私はいいよー。おいしいものがたくさんあるといいねぇ」


 ポケットの中に入れたお財布として使っている巾着には、桃子がルーガ騎士団で働いたお金を今日は多めに入れてある。これで、皆と一緒に屋台を回るのだ。心の中で五歳児桃子が五人も集まって来て、団扇を持った子がお神輿に乗ると、残りの四人が担ぎ出した。それぞれのんびりだったり、きりっとしてたりと、表情は違うけど、わっしょいわっしょいと盛り上がっている。そんな桃子の両隣にレリーナさんとジャックさんが立つ。


「はい、私もいつでもよろしゅうございます」


「オレも大丈夫です」


「ならば、城前の広場に向かうぞ。モモは人ごみではぐれるといけないから、ここが指定席だ。いいか?」


「うんっ、お祭りの前に新しい大神官さんを確認しに行こうね。それからお祭りに突撃なの!」


 バル様の左腕に抱きあげられた桃子は、拳を大きく上げた。





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