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297、モモ、親しむ~レベルはひよこだけど、お尻の殻は取れたはず~後編

「この街から距離はあるが悪くない屋敷ぞ。それとも領地の方がよいか?」


 桃子は必死に首を横に振る。それともって引き合いに出された領地の方が大きい!? もうこれってご褒美の規模じゃないよぅ。バル様も王様も金銭感覚が王族仕様! 


「王様のご褒美はものすごく嬉しいですけど、お屋敷はもうバル様と一緒に住ませてもらってるので……えーっと、えっーと、あっ、これでっ! ご褒美はこのクッキーで大丈夫です!」


 桃子はあたふたとご褒美になりそうなものを探して、お茶請けとして用意されていたクッキーを指差す。そして、周囲からもれなく笑い声を頂いた。ねぇ、みんなよく考えてほしいの! 中身は十六歳だけど、今の私は身体が五歳児だから、領地なんてとんでもないし、お屋敷をもらっても、お掃除だってろくに出来ないよ! けれど、王様は表情も変えずにクッキーから桃子の顔に視線を戻す。


「相変わらず欲のないことよ。だが、今回は事情が違う。モモ、お前には領地と屋敷のどちらかを選んでもらうぞ」


 微笑ましそうな周囲の視線を見回して、桃子は困り顔で眉を下げる。でも、領地とお屋敷ってどっちも大き過ぎるし、なにかもっと小さなものじゃ……。


「玩具でも、ダメですか?」


「これはまた……っ、一国の王にねだるものとしてあまりに小さいな! モモはこう言ってるが、どうするラルンダ?」


「……玩具では褒美にならぬわ」


 うん、やっぱりダメでした! 声に笑いが滲む王妃様に王様が冷静に返しているけど、桃子はすっかり困ってしまった。バル様に助けてーって視線で訴える。だけど、美形なお顔が横に振られてる!? がーんっ。桃子に九十二のダメージ! くりてぃかるなの! 心の中で五歳児がはしゃいだ。ゲームしてるわけじゃないからね!?


「モモのこれまでの功績を思えば、本来なら領地が相当のはずぞ? だが、お前は絶対に頷かないであろうことを見越し、私は小さな褒美を用意したのだ。街を守ったことやルーガ騎士団であった騒動を治めたこと、さらに審判を正しく導いたこともある。この三つだけでもあまりある功績と言えよう」


「これだけの功績があるにも関わらず、ラルンダからなんの褒賞もないのはおかしいことだ。他国から見れば、加護者をないがしろにしていると思われかねん。それはモモにとってもいいことではないぞ?」


「そうなんですか?」


「そうよな。加護者を守るのだと他国の者が攫いに来るやもしれぬ」


「攫いに来ちゃうの!?」


 考えるように自分の顎を摩った王様にさらっと言われて、桃子の辛うじて保たれていた敬語が吹っ飛ぶ。守るために攫うって無茶苦茶だよ!? ……あっ、でもそう言えば神殿にもとんでもない理由で攫われたんだった。神殿で起こった騒動を思い出した桃子は気持ちを落ち着ける。実際にあったんだから、他でもあるかもしれないよねぇ。


「そんなことはオレがさせない。だが、モモを守る為でもあるという父上と母上のご意見は正しいものだ。王が褒美を与え、加護者がそれを受け取ることは、対外的には、加護者とその国が友好的な関係であると見てとれるからだ」


「仲良くしてますよーって示してるの?」


「簡単に言えばそうだな」


「なにも難しく考えることはなかろう。別に無理にその屋敷に住めとまでは言わぬわ。別宅として扱うも売って金にするも自由にせよ」


 あれぇ? なんだか断れない状況になっちゃっている気が……これはもしや、時代劇でよく悪徳大名が叫んでるやつを、言えるチャンス? おのれぇっ、謀ったなぁっ! って。えへっ、一回言ってみたかったの。


「うーん。……お屋敷をもらっても、私じゃ管理が出来ないからやっぱりバル様に助けてもらわなきゃいけなくなっちゃうよ?」


「その程度は大した労力にはならない」


 ここまで言ってくれるのに、断れないよねぇ。お屋敷をどうするかはまだ全然浮かんでこないけど、それはまた改めて考えないとね。管理については、バル様を頼らせてもらおう。


「それじゃあ、ご褒美はお屋敷でお願いします!」


「屋敷の相続は後ほど書面で手続きを行う。バルクライに見てもらうがいい」


 まだ実感がないけど、私の持ち物にお屋敷というとんでもないものが追加されるんだねぇ。……五歳児なのにお屋敷を貰う子って、なかなかいないんじゃないかなぁ? 王様の決定に空気が緩んだ。桃子はさっき自分が指差したクッキーを両手に持ってもぐもぐする。甘さが控えめだけどサクサクしてて美味しい。このクッキーだって立派なご褒美になれるよ! すっかりリラックスモードに入って緩んだ空気に安心していると、ノックの音がした。


「陛下、急ぎの書状をお持ちいたしました」


「入れ」


「皆様でお寛ぎのところを失礼いたします。こちらのご確認をお願いたいします」


 急ぎと聞いたためか、王様はすぐに許可を出した。騎士のお兄さんが足早に近づくと、王様の前に片膝をついて白い筒状のものを差し出した。リレーのバトンみたいだねぇ。王様が上の蓋を開くと、逆さにする。コトンッと手に細長い巻き物が出てきた。王様はそれを上下に広げて、無言で読み進めている。


 桃子がクッキーを一枚食べ切って、紅茶に手を伸ばしていると、口元に欠片がついていたのか、バル様に親指で拭われた。その指をぺろりと舐めたバル様の色気にボフンッと桃子は顔を赤くする。どきどきするのを紅茶と一緒に飲み込んで隠す。お子様扱いされてるだけだってわかってるけど、心臓が正直で困っちゃう。


 ふと、王様が椅子の背にゆったりと寄りかかった。


「……ようやくか」


「なんの書状だったんだ?」


「神殿からの知らせよ。新たな大神官が定まった」


「おおっ、それはめでたきことですな!」


「よい知らせですね」


「これで民も安心することでしょう」


 和やかに祝う雰囲気のユノスさん達とは空気を隔てて、バル様が鋭く尋ねた。


「誰に決まったのです?」


 心持ち美声を低めたバル様の隣で、桃子はそわそわしながら王様の言葉を待つ。もしかして、もしかする……? 期待と心配で手に汗をかいちゃいそう。 


「春祭りでは、王が春の訪れを祝い民に言葉を伝える習わしであろう? その時に同時に発表したいようだ。前大神官の不祥事で神殿は揺れに揺れた。代替わりするとなれば、大神官の命を狙う者がいるやもしれぬ。ならばその時まで名は告げぬが賢明よ」


「それもそうか。しかし、あの前任者の後釜に座るのはかなりの重責になろう。よく就くと決めたものだ」


「とーっても気になるね」


「神殿のことはオレ達も無関係ではないからな。──その日にオレとモモが城を訪れてもよろしいですか?」


 バル様の申し出に王様が鷹揚に頷く。そして重々しく告げた。


「そうするがよい。ルーガ騎士団師団長としても、また加護者としても、新たな大神官との顔合わせは必要であろう。当日、私の隣に立つ者が大神官ぞ」






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