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296、モモ、親しむ~レベルはひよこだけど、お尻の殻は取れたはず~中編その三

 王妃様が厳しい目をバル様に向ける。


「バルクライ、お前はルーガ騎士団で地位を築き多くの味方を得た。だが、それはあくまでも師団長としての味方だ。その意味はわかるな?」


「第二王子としてのオレの味方は少ない、ということです」


「そうだ。お前が第二王子の立場で動く時の為に、もっとそちらの味方も増やしておけ。ラルンダが後宮を閉ざしたのは、王族という枠組みの中にいるお前やジュノラスが少しでも生きやすくするためなのだから」


 顔色がまったく変わらない親子──バル様と王様がお互いを観察するように目を合わせている。二人の見事なポーカーフェイス振りは睨めっこ王者にもなれそうだ。でも、私は一次予選で負けちゃう気がするよ。本当にそんな大会があったら、参加賞で変顔のお面とかありそうだよねぇ。


 ほしいの! 五歳児が心の中でぴっと右手をあげた。えっ、それをもらってどうするつもり!? つけて遊ぶの! 五歳児はシリアスな空気を他所にわくわくしている。引きずられて、すんごくバル様に抱っこしてほしくなってきちゃった。うぐぐぐっ、シリアスしてる中に乱入はダメだよ! 


 桃子の葛藤を他所に、王様が視線を切って紅茶を飲む。


「……これからしばし時が緩やかに流れるだろう。審判の一幕は貴族達の抑止力となるはずだ。だが、それはけして永久のものではない。城でなにごとかが起こった時は、加護者であるモモを取り込もうと動く者も現れよう」


「後見人の意味は理解しています。それがなくとも、モモを守ることは一番近くにいるオレの役目です」


 五歳児を宥めすかして大人しくさせた桃子は、自分にも深く関係する話にふんふんと頷く。いつかの話じゃなくて、もしもの話なんだろうけど、心が重くなっちゃうね。自然と唇がとがってしまう。バル様に任せっきりで守ってもらうばかりで本当に申し訳ないよ。もっと役に立ちたいから、自分に出来そうなことを真剣に考えてみる。うーん、なにかないかなぁ。


「お友達なら、私にも作れそうだけど……」


 味方とはまた違うから、あんまり意味はないかも? 人見知りはしない方だからね! 桃子の呟きを拾ってくれたユノスさんが生真面目な表情を向けてくる。


「それでよろしいのでは?」


「私もそう思います。加護者様が貴族と渡り合う様子など見たくはありません」


「心の蛇口が全開ですみません……」


「ああ、いえ! モモ様に問題があるのではなく、幼いあなた様に泥と猛毒を混ぜた人間の後ろ暗い部分を見せたくないだけです」


「わかるぞ、ジオス! これほど愛らしい加護者様がすれてしまったら、わしも心苦しいことこの上なしよ! バルクライ殿下もそう思われませぬか?」


「ああ。友が欲しいというのなら止めはしないが、味方のことは気にしなくていい。それはオレが後見人としてすべきことだ。……モモはそのままでいてくれ」


 バル様の言葉や眼差しは優しく降り注ぐ木漏れ日みたい。桃子は嬉しさを噛みしめるようにはにかんだ。私は、ポーカーフェイスが出来ないし、嘘をつくのも下手くそで、駆け引きなんてどうやるの? っていうダメダメっぷりだけど、そのままでいいって言葉が、しょんぼりしてた気持ちまで、温めてくれた気がした。


 頑張って、頑張って、すんごく頑張って、だけど努力したことが少しも伝わっていなかったと知った時に、桃子は必死に頑張ることをやめた。それでマイナスになった部分もあったけど、同じだけ心が軽くなって、それが無駄になった努力よりも、ただ悲しかった。


 もしあの時、バル様みたいにたった一言でも言葉をもらえていたら、私はそれだけで飛び跳ねるほど幸せになれたんだろうなぁ。今となってはもう世界さえ違う両親の面影を僅かに思い出し、桃子は記憶をそっと心に仕舞って、今に意識を戻す。だから、五歳児であり十六歳でもある丸ごとの桃子を受け入れてくれる目の前の人を特別だと思うのだ。


「ふふっ、バルクライにとっても裏表のないお前の性根は癒しなのだろうな。利害関係のない友人ほど信頼出来るものはないだろう。ところでラルンダ、先程の褒美についてモモに話さねばいけないぞ」


「ああ。そのつもりだ」


「今回の審判で一番活躍したのはやはりモモだからな。審判の場で示した姿はすぐに噂となって民の間にも流れていくぞ」


「それはちょっと恥ずかしいです」


「なにを恥ずかしがることがある? 鋭く華やかな名推理だったぞ。モモは最初からマデリンを疑っていたのか?」


「疑っていたというより、マデリン様、いえ、マデリンのことが気になっていました。あの人はバル様に心を向けているんじゃないかと思っていたので、ルディアナやアニタ様よりも私の注意が向いていたんです。結局は勘違いだったので恥ずかしいですけど。だから本当にすごいのは、あの審判中にマデリンに気づいた王様とバル様だと思います」


 あの矛盾に明らかに反応していたのは王様とバル様だ。きっと二人も気づいていたのだろう。


「謙遜することはない。たとえ理由の根が過ちであろうと、証言者をよく見、話を深く理解しようとしたから掴んだ功績よ。私やバルクライは証言者の言葉に偽りがないか、表情や仕草にほころびがないか、よく観察していたから気づいただけのこと。もっと自分の手柄を誇るがいい。モモへの褒美は、リンスールにある屋敷を与えようと思っている」


「お屋敷!?」


 バル様とユノスさんのことが心配で忘れかけていたご褒美のサイズが大き過ぎて、桃子は震えた。これは武者震いじゃないよぅ。






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