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293、モモ、親しむ~レベルはひよこだけど、お尻の殻は取れたはず~前編

 呼吸が楽だよーっ! 審判の間を出た桃子は、肩の荷が下りた喜びを心の中で叫んでいた。貴族のおじさん達とは違う扉から出たために、遠くにそのざわめきが微かに聞こえるだけでこうして全開で気を緩めていられるのだ。シリアスして凝り固まった気がするほっぺたをむにむにしながら、バル様を見上げる。


「ちゃんと加護者らしく出来てた?」


「ああ。いい立ち回りだった。審判の最中にモモが示した推察力や思いやりは今後大きな意味を持つ。ただの子供と侮っていた貴族達もこれで認識を改めるだろう」


「それっていいこと?」


「モモが利用されないために有効な手と言える」


「なるほど! 困ったことに加護者って肩書きが立派だもんねぇ。私は少しでもそれに見合うようにならなきゃ」


 桃子は自分のほっぺたから手を放しながら自分に言い聞かせる。身体年齢は五歳、つまり幼稚園のお年頃だけど、頑張るの! 頭の中で、幼稚園の服を着て、護の字が彫られた金のワッペンを胸元につけた五歳児の姿が思い浮かんだ。短い両手を腰に当ててふんすっと胸を張ってるけど、ゆるゆるな笑顔は隠せていない。加護者モードで頑張ってみたけど、本来の私はやっぱりこっちだよねぇ。加護者レベルがひよこですみません。でも、重大な審判を乗り越えたから、お尻から殻は取れたと思うの! 


 廊下の一角でバル様と話しながらユノスさんとカメリアのことを待っていたら、待ち人達は王様の傍に控えていた銀の甲冑を身につけた真っ白なお髭のおじいさんと、強面の男の人と一緒にやってきた。これは加護者モードになった方がいいかな? そう思った桃子は、バル様に目で聞いてみる。


「あの二人なら問題ない」


 バル様からの許可が出たので、加護者として貼り付けていた顔をへにゃんと元に戻すと、四人が前で立ち止まった。歴戦の猛者といった雰囲気のあるおじいちゃんが、深く皺の刻まれた顔に笑みを浮かべる。

 

「加護者様、バルクライ殿下、先程の審判でのお二人の見事なご手腕に、このゲイン・カーマイン、感服いたしましたぞ!」 


「ゲイン将軍にそう見えていたのなら、印象操作は上手くいったようだな」


 いやいや、これはさすがに過大評価が過ぎると思うよ!? 怖そうに見えるけど笑うと茶目っ気が見えて雰囲気が優しくなるこのおじいちゃん将軍はきっとサスペンスドラマとか好きになる人だね! 観たらはまっちゃってドラマの録画を毎週しちゃうんじゃないかなぁ。そう言えば、私もお家でドラマの録画してたのあったけど、優等生な男の子と不良な女の子のあの純愛ドラマは最後どうなったんだろう? うーっ、気になる!


「なにより、幼き加護者様におかれましては、素晴らしいご推察で真犯人を追いつめるお姿はまさに神童! 手に汗握りながら注視させていただきました。あれはもはや後世に語り継がれる、そう、歴史に残る名審判でしたな!」


「将軍、モモが驚いている」

 

 噛みもしないで捲くし立てたおじいちゃん将軍に、桃子は目を丸くした。神童!? 自分とは縁遠い言葉に照れよりも驚きが先にきた桃子は、端的に返事を返すバル様との熱の差を見て口元がむずついた。くふっ、と笑いが込み上げるけど、笑っちゃダメダメ。笑いを我慢してたら、バル様に目を細められちゃった。めって意味だね。


「これは失礼。ほれぼれするほど鮮やかな手腕に興奮してしまいました」


「外見に惑わされずその本質を正しく見通せる者は少ない。無邪気な者が無知であるとは限らない。また聡明な者が過ちを犯さないとも。だからこそ、本質が見えた時、その印象は人の心に強く残るものとなる。将軍がまさに体現者だろう」


 難しいお話だねぇ? 本質とかってよくわかんないけど、外見に惑わされちゃいかんよ! ってこと? なんだっけ、お花でそういう言葉があったはず。……あっ、綺麗な花には棘がある! だね。答えが出てスッキリ。桃子は嬉しくなっていると、バル様にそっと前に押し出された。


「ひょ?」


「加護者として立つ時はそれらしく振る舞っているが、この通り本来は素直な子だ。気負わずに接してやってくれ」


「接してほしいのー」


 バル様の言葉を真似して、いつもはこんな感じですよーってアピールしながらお願いしてみる。ど、どうかな? ちょっぴりどきどきしながら、周囲の反応を伺うと、おじさん将軍がうんうんと大きく頷きながら歯を見せて笑う。


「こちらの加護者様も大変魅力がおありですな! わかり申した。礼儀は大事なれど幼き方の重圧となってはいけません。──ジオス、お主も異論はあるまい?」


「はい。真に僭越ながら、加護者様は私の妹と少し雰囲気が似ておられますね」


「妹さんに?」


「ええ。私の名はジオス・キオリアと申します」


「ジオス将軍はケティの兄君だ」


「ええーっ!?」


 バル様がそう教えてくれたお兄さんの正体に、桃子は目を丸くした。よく見ると端正なんだけど、やっぱり強面なお兄さんは微かな笑みを浮かべる。だけど、いつも頬を赤くしている可愛いケティさんと似ている部分が見つからない。……あっ、でも、栗色のさらさらな髪は似てるかも? 瞳の色は違うけどね。ジオス将軍は冬の空みたいな薄い青色をしている。それに、目の形は尖ったように鋭いし、口元もがっしりしてて噛む力が強そう。


 綿あめとハッカ飴くらい似てないけど、こんな兄妹もいるんだねぇ。バル様は知ってたの? そう思いながら美形さんなお顔を見上げると、頷かれた。以心伝心が成功したもようです! 






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