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289、モモ、審判に挑む~優しくない真実も、誰かの救いになってほしい~中編

「お待ちください、ナイル王妃! それは、あんまりなお言葉。アニタ様が王子を亡くしてから、どれほど嘆き悲しんだことか……大事な我が子の死を否定したいがために、そう思い込んでしまったお気の毒な方です。ですが、今までご気丈にもこのような騒ぎを起こされたことは皆無のはず。それゆえに、私はアニタ様が加護者様を害してしまったことには理由があると考えます」


「理由があれば、幼き加護者を害しても許されると言いたいのか!?」


「いいえ、そうではありません。ただ私はアニタ様のお心を思い、また亡くなったとはいえ王子をもうけられた功績を踏まえるべきではと、申し上げているのです」


 滑らかな口調がすらすらともっともらしい理由を述べる。これには、王妃様の眉がつり上がった。さらに反論しようとした王妃様を王様が視線でちらりと制して、目を細める。


「理由とな?」


「そうです。これは、あくまでもたとえ話でございますが……幼さ故の無邪気さで加護者様がアニタ様のお心を乱すような言動をなさった可能性も十分にありましょう」


 ちらりと桃子を見て、伯爵が目の奥に狡猾な光を宿す。僅かに顎が上がり、自分の言動に自信があることが見て取れる。伯爵がにやりと嗤う気配を感じた。たとえばなんてぼかしてるけど、やっぱり責任をこっちのせいにしようとしてきたね。桃子は心の中で呟きながらも、その目を真っすぐに見つめ返す。受けて立つよ!


「なるほど、そなたの考えはわかった。しかし真実を知る者は二人だけであろう。従って、私は加護者からも話を聞く必要があると判断する。故に──加護者モモよ、アニタに首を絞められるに至るまでをつぶさに説明せよ」


 きたっ! 周囲の視線が桃子に向けられる。緊張をほぐすようにちょっと深く呼吸して、心の中で念じる。周りのみんなは、山芋、ジャガイモ、さつまいも! 桃子はバル様や軍神様を意識して、落ち着き払った調子を装って口を開く。


「……はい。きっかけとなったのはおそらくルディアナ様に誘われたお茶会でしょう。そこでアニタ様とマデリン様とは初めて顔を合わせることになりました。その後、アニタ様の侍女が私のドレスを汚し、鉢植えを壊してしまったのです。どちらも事故だったので気にすることはないとお伝えしたのですが、アニタ様は気に病まれて謝罪としてお茶会に誘ってくださったのです。その時、マデリン様よりご忠告のお手紙をいただきました」


「宰相」


「はい、手紙はこちらにございます。ご確認を」


 優しい顔のおじさん─宰相さんが王様の元に平たいお盆みたいなのに手紙を載せて丁寧に差し出す。王様は封の切られた手紙を開いてさっと読むと、王妃様にも手渡す。そして、王様がマデリン様を問いただす。


「書かれている内容に偽りはないな?」


「はい。間違いございません」


「護衛騎士より提出された調書によれば、加護者はアニタに首を絞められ、それを神に助けられたという。首の怪我は侍医が診察したのだな?」


「その通りでございます。診断書はこちらに。どうぞ、ご確認くださいませ。加護者様におかれましては、首の両側面に指の跡がくっきりと残っておりました。それゆえ、わしはお声を出すのをしばしお控え下さるようお伝えしたのです」


「……ならば、マデリンよ、そなたはアニタの異変にいつ気がついたのだ?」


「はっ、はいっ。加護者様が城にご滞在なさるようになってからです。アニタ様は日に日に不安定になられていくご様子でした。ですから、幼い加護者様の御身が心配でそのお手紙を送らせて頂いたのです」


「──なぜ、それを他の者に知らせなかったのです?」


「え……?」


 沈黙していたバル様が口を開いた。その指摘にマデリン様が動揺したように目を見開く。王様と王妃様の眼差しが鋭くなった。そんな中、バル様が核心に触れる。


「あなたは加護者が側室アニタに害される可能性があると思ったのでしょう? ならば、モモだけに忠告するのではなく、まずは後宮を取りまとめるナイル王妃にご報告する義務があったはず」


「そ、それは……わたくしの目が本当に正しいものであるのかがわからなかったのです。根拠なきことを陛下や王妃様にまで申し上げてアニタ様のお立場を悪くしてはいけないと……ご理解ください、バルクライ殿下、わたくしは意図を持ってそうしたのではありません」


「私に伝えたくなかっただけではないか?」


「止めよ、ナイル。──では、そなたにはあくまで他意はなかったというのだな?」


「はいっ、その通りでございます!」


 バル様に懇願するように両手を組んで握りしめたマデリン様に、王妃様が口端をくいっと上げて皮肉に笑う。王妃様はご側室方に思うところがあるんだろうねぇ。そんな王妃様の皮肉を王様が窘めて止める。その言葉を公平なものと受け取ったのか、マデリン様は緊張した面持ちでありながら、どこかほっと空気を緩めた。


「それではルディアナにも問おう。そなたからアニタはどう見えていた? おかしいと感じたことはあったか?」


「そうですわねぇ……あたくしにはいつも通りに見えましたわ。特に気づくことなんてありませんでしたもの」


 形ばかりの一考をして、肩をすくめたルディアナ様が艶然と微笑む。自分には関係ないことと言わんばかりの態度だ。こんなにぴりつく場所で平然としていられるなんて、ある意味すごいよねぇ。私なんて膝が震えそうになってるもん! 慎重な聞き取りが続く中、扉の外から声がかかった。


「陛下、護衛騎士のユノス・ガーディが訪れております。今回の審判について重大なご報告と証人を連れてきたとのこと!」


「なに?」


 廊下側からの声に、王様がうっすらと眉をひそめた。桃子はユノスさんの名前にびっくりして、バル様をぱっと見上げてしまう。表情だけはなんとか持ち直したけど、あの、そんなお話はなかったけど、どうなってるの? バル様は疑問を顔いっぱいに浮かべる桃子に、任せてくれというように小さく頷いて王様に告げる。


「私が来るように命じました。これより重大な証言を得られます。陛下、どうか入廷の許可を」


「……よかろう。通すがいい!」


 王様の許可が出されると、扉が開かれてユノスさんが入ってきた。その後ろにもう一つ影が続く。あれって──……えっ!? 桃子はその正体に自分の目を疑った。





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