29、モモ、先生を頼む~教えてくれる人が好きだと勉強も楽しくなるよね~後編
さすが幼馴染。付き合いの長さは伊達じゃないね! 相手のことがよくわかっているのが伝わってくる。それにしてもあんなに美しい顔立ちなのに、過激なんだ。私は見たことないけど、どんなことをしてるんだろう?
興味を持ったのが顔に出たのか、カイに引きつった顔で首を振られる。
「それだけは止めといた方がいい。本人に聞くのも駄目だぞ。あいつ、モモには綺麗な自分しか見せてないから、見られたら発狂するんじゃないかな……」
そんなこと言われたら余計に気になっちゃうよ! でもカイの顔をもう一回見たら、やっぱり首を振られた。そんなに? うん、止めとこう。桃子の中の本能が、赤く点滅してる。
知りたいよぅと五歳児が囁くのを、耳に蓋をするように聞こえない振りをする。えー? なーに、聞こえなーい。
桃子は気を逸らすように、思いついた質問をしてみる。
「庶民の生活ってどんな感じ? 学校とかある? 魔物の討伐は庶民もするの?」
「順番に説明していきますね。まず、庶民の生活ですが、この町では豊かな暮らしをするものが多いです。王都ですからね、財があるものが必然的に多いのでしょう。治安はいい方ですが、裏で一部悪さをするものがいるようです。それも滅多には表ざたになりません」
「そういう奴等を取り締まるのも、騎士団のお仕事だよ。それから、学校は騎士団に入団するための学園なら存在するよ。入学は十五歳から可能で三年間は寮生活だ。身分に関係なく、入団は完全なるテスト制で毎回脱落者が続出する。学力、体力、精神力、人間性、それら全てから判断される」
「騎士団になれるのはそこから絞られるの?」
「入学時で3分の2は落とされるな。卒業するまでにはさらにふるいにかけられるから、卒業時には入学者の半分なんてこともあるよ」
「うわぁ、厳しいねぇ。それを越えて騎士団になってるんだから、カイ達はすごい努力をしたんだろうね」
これは、桃子一人くらいなら、誰でも軽々だっこ出来るわけだよ。それだけの激戦の中を勝ち残って来たのだから、きっと厳しい訓練をしたに違いない。
キラキラしい汗を滴らせて、剣を振るう今より年若いバル様達の姿が想像出来た。うん、格好いいね。はぅ、生で眼福したかったよ!あ、でも今も訓練はしてるよね? それなら、生で見れる機会もいつかあるかも?
「そんな輝いた目で見ないの。これはバルクライ様が過保護になるわけだな……」
「どうしたの、カイ?」
「あぁ、いや、なんでもないよ。モモ、外に出ることがあっても絶対に知らない人には付いて行ったら駄目だからね?」
「そんなことしないよ!? 私子供じゃないもん」
「わかりますわ。モモ様はとても素直でいらっしゃるから」
「普通だよ?」
困ったなぁ、過大評価されちゃってる。本当は十六歳だからね。普通の五歳児よりも分別があるのは当たり前だよ。時々引きずられちゃうけれど。なんちゃって幼女で、ほんとすみません。
「いいのですよ。たとえ貴方様が何者であろうと、いい子なのは事実なのですから」
レ、レリーナさん、まさか私が十六歳だと気づいてる……!? 桃子は戦慄して幸せそうに微笑む美人さんを見つめる。しかしレリーナさんは熱い眼差しを向けてくるばかりである。あのー?
「モモ、レリーナのことは気にしなくていいよ。本能がわかってるだけだからね」
「野生の勘……っ!」
なにか、すごい系能力持ってた! このメイドさん本当は何者なの? 実はもう一個顔があったりする? 暗殺者として育てられてバル様を殺しに来たのが返り討ちに合い、その美貌に一目ぼれしてメイドさんになることにしたとか? そんな裏の設定があったりするの?
「ものすごい想像してそうだね。モモ、違うから落ち着いて。ほら、お菓子食べようね?」
口元にクッキーが寄せられたので遠慮なくぱくついた。だって美味しいんだもん。食欲の前にはちょっとの恥ずかしさなんて紙の如し! 簡単に釣れまくるので、キャッチしたらリリースしてね?
紅茶をこくこく頂いて、満足した。これ運動しないと太りそう。丸っこい体系がまんまるになるのは嫌だ。後で庭を駆けまわってカロリーを消費しよう。五歳児がわくわくしてる。落ち着けー待てだよ、まだ待て。
「よし、落ち着いたね? じゃあ、話の続きをしようか。魔物の討伐を庶民もするか? だったよね。民間の間で仲介屋ってのが存在するんだ。そこでは様々な仕事の依頼がもたらされる。で、庶民の間でもそれを依頼として受けることが可能なんだよ。それこそ子供のお使いから魔物討伐まであるよ。全ての魔物の討伐を騎士団が行うのは無理があるからね」
思っていたより、自由度が広いね。そこなら、私にも受けられる仕事があるかもしれない。もろもろのことが綺麗さっぱり解決したら、お仕事も探したいしちょうどいいかも。
「まぁ、モモにはあんまり関係ないか」
「え?」
「オレ達が居るんだから、そんなことする必要ないだろ? モモを一人で働きに出したりしたら、心配で仕事が手につかなくなりそうだ」
「そうですわね。モモ様のお仕事はバルクライ様方を心配させないことと、元気に健やかにお育ちになることです」
にっこり微笑まれて、桃子はがっくりした。働くためには保護者様達のお許しが必要みたい。……いや、諦めない。絶対に働いてやる。それで、カイ達がびっくりするようなお礼をするんだ! いつか!




