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278、バルクライ、幼女に驚かされる 前編

*バルクライ視点にて。

 バルクライは二枚のカードを指の間に挟んで広げていた。


「ぬううぅぅっ」


「さぁモモ、どちらを選ぶ?」


「相手の顔色や目の動き、身体の一瞬の震えを見るんだぞー」


「まだ勝算はありますよ、確率は二分の一ですからね」


 モモがバルクライの持つ二枚のトランプをじっと睨む。いや、睨むというよりは、やはりこの顔は拗ねた幼女だろう。小さな唇を尖らせて真剣に悩む様子が微笑ましい。現在行われているゲームは騎士抜きと呼ばれるもので、モモから説明を受けたバルクライはルールを完璧に覚えた。カードを持つ手も慣れたもので、違和感なくゲームが進められている。


 早くも先に抜けられたカイとキルマージが血色のよい顔で声援を送っている。モモは大きく頷くと、小さな指をふらふらと揺らしながら悩む様子を見せていた。


「うーん、うーん、うーん……こっち!」


「ハズレだ」


「はうっ」


「ふっ、ははっ、ショックを受けたのがすぐにわかる。モモは顔が素直だなぁ」


「愛らしいですねっ」


「そういいながらキルマも笑ってるぜ。──ほらモモ、まだ負けてないよ?」


「うんっ、よく混ぜるからちょっと待っててねバル様」


「ああ」


 バルクライの顔色を読もうとするモモの努力を好ましく思いながらも、表情には出さない。素直なモモに心理戦は不得手だろう。悩み抜いて、右のカードをモモが引く。……残念ながら、そちらは騎士だ。ショックを受けた表情に笑いを誘われながら、バルクライはモモがシャッフルしたカードをゆっくりと視線でなぞる。


 表情に出さないように頑張っているようだが、視線を読めばどちらが騎士なのかすぐにわかった。ハートの1に指を伸ばすと、だんだんと悲しそうな表情になっていく。その表情に胸が不穏に騒ぎ、もう二回も見逃してしまったが、このゲームについては、今日のモモには運が向いていないようだ。そろそろ違うゲームにした方がいい。カードを抜くと、モモが悄然と肩を落とす。乱雑に積み重なったカードの上に最後の一枚を丁寧に置いて眉を下げた。


「また負けちゃったよぅ」


「このゲームは心理戦だからな。素直なモモには不利だろう」


「でも、バルクライ様をお相手によく健闘してたよ」


「そう気落ちしないで次のゲームを楽しみましょう」


「悔しいなぁ。なんでみんなは私が持ってるババ……じゃなくて騎士がわかるの? やっぱり顔に出ちゃってるから? ディー達と練習したのになぁ」 


 今回でモモは5回目の最下位となっている。他のゲームならば、勝率はそこまで悪くないのだが、騎士抜きだけは三回やって全て最下位だ。逆に一番勝っているのはカイである。


 自分の頬を小さな手で触りながら首を傾げるモモに、バルクライはぴくりと反応した。


「……ディーカルとそんなにゲームをしたのか?」


「うん? 4番隊のみんなに遊んでもらったの。顔に出ちゃうと教えてくれるから、そこで頑張ってポーカーフェイスの練習をしてたんだけど、修行が足りなかったみたいだねぇ」


「今度はオレ達を相手に練習すればいい」


「えへへっ、これからはバル様達ともたくさん遊べるから楽しみ」


 頬を赤くして笑うモモに思わず手が伸びる。まろやかな頬を撫でれば、猫のように目を細めて恥ずかしそうにはにかんでいる。その身体が一瞬で宙に浮いた。見れば、キルマージがソファの後ろからモモを抱き上げていた。女性とみまごう美貌を不満そうにひそめて、モモに頬ずりしている。


「モモを独り占めするなんてずるいですよ、バルクライ様。私にも構わせてください。──モモはこちらのソファに座ってくださいね」


「はぁい、お邪魔します!」


「……キルマ」


「少しくらいいいではありませんか。私達にも癒しをください」


 酔いの見えるキルマージの目が座っている。この一月の間執務は任せきりになっていたのだから、疲れはあるのだろう。それはバルクライも同じではあるが、このキルマージの腕からモモを奪うのは気が引けた。バルクライは仕方なくため息をつくと、こちらも酔いに目元を赤らめているもう一人の部下に視線を向けた。


「了解。バランスが悪いですから、オレがそっちにお邪魔しまーす」


「カイはよくわかっていますね。後で場所を交換しましょう」


「いいね、それならモモを平等に可愛がれる。──さて、次はどのゲームにしますかね?」


 カイがカードを集めて器用にシャッフルする。バルクライがモモに目を向ければ、大きな目を瞬かせて考えているようだ。


「バームクーヘンはやったし、大富豪もやったし、騎士抜きは今やったから……次は7並べにしよう!」


 モモが弾んだ口調でそう言うのと、扉をノックする音がかぶる。そして、レリーナの声がした。


「お寛ぎ中に失礼いたします。モモ様、こちらの準備が整いました」


「ほんとっ!? ──あの、みんな、ゲームはちょっと待っててくれる? すぐに戻ってくるから!」


 モモは慌ててソファを下りると、目を輝かせて走って行く。薄く開いた扉の向こうに小さな姿が消えた。食後にレリーナとなにやら話していたのは知っていたが、なにか頼んでいたのだろうか。


「おやまぁ、あんなに楽しそうにして。──モモがなにをしているのか、バルクライ様もご存じないのですか?」


「レリーナと話していたのは見たが、内容までは知らないな」


「小さなお姫様はなにを思いついたんでしょうね。ところでバルクライ様、ご側室の件は進展がありましたか?」


「夕食前に陛下から書状が届いた。側室アニタは陛下が直接罪状を決める公開審判を受けることになった。それ故、その場にモモとオレも立ち合うように命が下されたのだ」


「公開審判ともなれば、モモも被害者として尋問を受けるのですか?」


「そうだ。証拠が出ているのだから、モモの証言が重要視されることはないはずだが……父上にはなにかお考えがあるのかもしれない。どちらにしても、公開審判は4日後の昼に行われる。万が一にもモモが不利な立場にならないように、客観的に裏付けられる証拠をこちらでも集めるつもりだ。医師の診断書やモモの護衛騎士だった者にも証言を頼むつもりだ。しかし、オレが一番気になるのは、父上の側室がなぜ、モモが城に滞在中にことを起こしたのか……どうにも、この点に違和感が拭えない」





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