28、モモ、先生を頼む~教えてくれる人が好きだと勉強も楽しくなるよね~前編
桃子はバル様のお屋敷に戻ると、護衛役として残ってくれたカイと一緒にソファでお茶をしながら、くつろいでいた。短い足をドレスの下でぷらぷら揺らして、のんびりと考える。
バル様は騎士団のお勤めがあるため、一度屋敷に戻るとすぐに仕事に向かった。一歳児化した桃子のことで朝からバタバタしていたから、予定が狂ったのかもしれない。ごめんね。帰ってきたら、たくさん労わるからね!
『モモには退屈かもしれないが、暫く外出は控えてくれ。屋敷内ではどの部屋に入っても構わないし、庭先までなら出てもいい。ただ、オレが帰るまでは護衛のカイから離れないように』
随分と過保護だなぁと暢気に思っていたら、バル様としては昨日攫われそうになったのを警戒してのことらしい。
詳しいことは教えてはもらえなかったけど、三日後にはバル様と一緒にお城に行くとも言われた。
お城って、あの青いお城だよね? バル様は第二王子って言ってたから、王様と王妃様はバル様のお父さんとお母さんになる。怖い人じゃないといいなぁ。転ばないように気をつけないと。それに、私この世界の礼儀とかなんにも知らないし、教えてもらっといた方がいいかな?
桃子は紅茶を飲んでいるカイに、聞いてみることにした。
「カイ、この世界にはなにか特別な礼儀作法ってあるの? バル様のお父さん達に失礼なことしないように気を付けたいのだけど、言葉遣いもですます口調で大丈夫?」
「そんなに心配しなくても問題はないよ。王様も王妃様も怖い人ではないからね。まぁ、ちょっと強烈ではあるけど。バルクライ様に合わせて礼をして、紹介されたら自分で名乗ればいい。ついでに少しこの国のことも勉強してみる?」
「うん、お願いしたいな」
「そういうことでしたら、私もお手伝いいたしましょうか?」
部屋の隅に控えていたレリーナさんがそう申し出てくれた。カイが面白そうな顔で視線を向けてくる。
「モモ、どうする? オレはどっちでもいいぜ」
「レリーナさん、ありがとう。お願いします」
「決まりだな。じゃあ、レリーナも座ってくれ」
「では、失礼いたしますね」
レリーナさんが向かい側のソファに座る。快く協力態勢を見せてくれる二人に、桃子は背筋を正した。知識は増やしておいて損にはならないもんね!
カイが簡単にジュノール大国のことを説明してくれる。
ジュノール大国では、王があり、貴族が存在し、ルーガ騎士団という守りがある。騎士団とは反対に位置するのが魔法使いだけで組織された魔科開発部。
その名の通りに、魔法と科学をミックスさせて、便利な生活魔法を開発したり、魔法に関する研究を行っているらしい。一度見てみたいね! 魔法という言葉だけでわくわくしてくる。
「ここまでが国王を頂点に考えるなら、ルーガ騎士団と魔科開発部がその下が立ち位置となる。ここまでは理解出来たかな?」
「うん。大丈夫」
「じゃあ重要な話に進むよ。ジュノール大国の中で一つだけ異質な立ち位置なのが、神殿なんだ。国の中にありながら神殿だけは独立した組織として存在している。ある意味、国王の力が弱まる場所だね。大きな怪我は神殿に行けば、神官が治癒魔法で治してくれるけど、高額だから庶民の中で利用する者はあまりいないんだ」
「神様に仕えてるのに、ケチなんだねぇ……」
「ははっ、昔はもっと良心的な値段だったんだけど、今の大神官になってから変えられちゃってね。国からも問題視されてる。だから庶民の間では民間の医者を頼る者が多いんだ」
「それだけが全てではございませんよ。神殿の力は大きいのです。騎士団の大規模な魔物討伐時には必ず同行しますからね」
「その時はタダ?」
「ふふっ、えぇ、もちろんでございますよ」
思わず聞いたら、レリーナさんに笑われちゃった。これは私が男ならお嫁さんに欲しい! クールな印象が崩れると可愛くなるんだもん。
「バルクライ様が師団長をお務めになるルーガ騎士団では、町や村の治安維持、魔物の討伐がお仕事ですが、有事の際には敵対国にも武力を行使します」
「幸いなことに、ここ100年ほどの間は周辺国とは争いには発展していない。停戦条約を結んだ国や、同盟国としてつながりのある国もある。この国は背後を絶壁に守られているし、首都ダナールキアには、壁と騎士団の駐在所もあるから都市の守りは強い。国境にも騎士団の警備隊が見張っているから滅多なことにはならないだろうね」
「貴族にも種類がございます。今朝方お会いになられたグロバフ様は大貴族でいらっしゃいます。大貴族は三家しか存在しません」
「オレも一応は貴族の端くれにあたるんだけど、本当に名ばかりの貧乏貴族だったから、生活レベルは庶民と変わりないよ。ちなみに、キルマと、ディーは庶民の出だ」
美しいキルマの顔を思い出す。貴族然とした雰囲気があったので、てっきりそうだとばかり思っていた。
「あの顔だからな。勘違いしている奴は多いが、実際は叩き上げ。結構過激なことも平気でするぜ」