277、モモ、驚き返しを計画する~お子様には協力者と準備とタイミングが重要だよ~後編
*苦手な方はご注意! ほんのりゲテモノ食の表現あり。
「学園では森や川に生徒をそれぞれ班分けして、自力で食料を取って生活せよって訓練もあるのですよ。そこでは、魚の捕り方や動物の捌き方、食べられるキノコの見分け方なんてものも、叩きこまれます。しかし、場所によってはまずキノコそのものが見つからないこともあるわけで……ゲテモノを食べねばならなかった班もあるのです」
「ゲテモノ……あの、それって……?」
怖いけど謎のままの方が余計に怖いから、声をひそめて聞いた。すると、カイがまるで幽鬼のようにゆらりと首を巡らせて桃子を見た。こ、こあいっ。
「モモ、ご飯が食べられなく──」
「ヘビやカエルだ。それ以外もあったが、この場では控えよう」
「なっんで答えちゃうんですかぁっ! うおおおっ、思い出すだけで気持ち悪いっ。あんなもん食いもんじゃねぇですよ!」
「そうか? 美味いものではないが、食べられないこともなかったぞ」
「王族であられるのに、バルクライ様が強すぎる……」
カイがすんごくぐったりして項垂れてる。平然とお肉を食べ始めたバル様が凄すぎる。控えてくれた言葉の中にはきっとお食事中はご遠慮くださいって感じの生き物が出てきたんだろうね。もし私が食べなきゃいけなくなったら、ものすんごく悩むかもしれない。
「そんなに困った顔をしなくても、モモが食べる機会はないですからね? あの訓練中は一日三食絶対に食事をしなければいけないというルールがあったので、仕方なく口にせねばいけませんでしたが、あれは食べたことがある者の方が少ないでしょう。ですから、この話は忘れて、今は食事を楽しみましょう」
「うん、今はおいしいご飯を噛みしめておくね! カイもそうしようよ。ワインを飲んで嫌なことも忘れちゃおう?」
「……そうだね。バルクライ様、ワインのお代わりを頂いてもいいですかっ」
「好きにしろ。──ジャック、ついでやれ」
「はいっ」
壁際に控えていたジャックさんが再び大きな瓶を運んでくる。瓶が揺れて透明な花の模様もゆらゆらしてる。空のコップに再び注がれたワインをカイがぐっと煽った。よっぽど大変な思いをしたんだろうねぇ。こんなカイは初めて見るかも。
「はぁー、心が生き返るぜ」
「ほどほどになさい。──そう言えば、春祭りについてですが予定をどの日に合わせましょうか?」
ジャックさんがぴくりと反応して桃子を見た。桃子は任せて! って気持ちを込めて大きく頷くと、今夜伝えようと思っていたことを四人に切り出した。
「そのことなんだけどね、レリーナさんとジャックさんとリジーも一緒でもいいかなぁ?」
「僭越ながら、モモ様にお誘いいただきまして」
「オレ達もお仲間に入れていただけたら嬉しいです!」
壁に控えるレリーナさんと、声を張ったジャックさんが緊張したように背筋を伸ばしている。ジャックさんの場合は、それだけレリーナさんに気持ちを寄せてるってことなんだろうねぇ。そう言えば、ジャックさんがレリーナさんを好きになったきっかけって、投げ飛ばされたこと、だったよね?
その時、桃子の頭の中でピカーンと豆電球が点灯する。つまり恋に落ちる時はインパクトが重要ってことだね! いいことを思いついた! この方法なら、バル様をどきどきさせることが出来るかもしれない。桃子が名案を思いついてうきうきしていると、バル様が二人に話を向けた。
「オレは構わないが、お前達はどうだ?」
「三人が同行するのは別にいいんですけど。──モモはどこでリジーと話をしたのかな?」
「たまたま請負屋さんの前で会ったの。それで、リジーもキルマのことを気にしてたみたいでね、この機会にもっと話してみたいって言ってたの」
「……リジーの奴、キルマをダシに使ったな」
カイが口元を手で覆ってなにかをぼやけば、桃子の話を聞いたキルマが怪訝そうな表情を隠しもしないで心配を口にする。
「あの意地っ張りの妹がそんな歩み寄りを見せるなんて、せっかくの祭りなのに空から槍が降ってきそうですね」
「そんなことないよぅ。リジーはいい子だもん。お花屋さんで働いた時も助けてくれたよ? これはもっと仲良くなれるチャンスだと思うの!」
あの時はギルと険悪になっちゃってたから、庇ってくれたこともとても嬉しかったのだ。面倒見のいいリジーがギルとのクッションとなってくれたから、最後までお仕事を続けられたのだ。兄であるキルマならきっと本当はリジーのいいところも桃子より知っているはずだ。
「まあ、本人が望むのならいい機会ですし、話をしてみましょうか。私もこちらに来てからは故郷に帰っていなかったのでここ数年のリジーは知りませんからね」
「それがいいよ。じゃあ、どの日にしようか? 皆の予定を聞かなきゃね」
辛口なことを言いながらも、キルマは嬉しそうだ。やっぱり妹だから仲良くしたい気持ちがあるんだろうねぇ。桃子はやってくる春祭りと今夜行う予定の小さな計画に心を浮足立せた。その時、カイがある懸念を抱いていたことに、キルマ以外の誰も気がついていなかった。




