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271、モモ、小さな主と呼ばれる~一緒にいるだけで笑顔になっちゃう時間は幸せって呼ぶのかなぁ?~中編その二

 無表情なのに困った雰囲気を纏うという器用なことをするバル様に右手を取られ、受け入れてほしいと乞われるように、手の甲に優しい口づけを受けた。まるで映画のワンシーンのような光景に、桃子の顔はボンッと一気に熱を持つ。バル様の目が熱を持って濡れたように光っていて、すんごいフェロモンがブワサァと放出されているよぅ!  


「モモ、オレの贈り物を受け取ってくれないか?」


 バル様にそんな目を向けられては、桃子は首振り人形になるしかない。な、なんだろうね? バル様、いつもと違う? うろたえて目をふよっと泳がせた桃子に、腕の中でバルチョ様が厳かにおっしゃられた。これがあの有名な言葉、惚れた弱みというものか。円らな瞳を向けられて恥ずかしくなる。まったくその通りなんだけど、桃子はバルチョ様のぽちっとしたおめめを両手で隠したくなった。


 桃子の返事に満足そうに頷いたバル様は、次にとんでもないことを言い出した。


「それでは、最後の贈り物を渡そう」


「まだあったの!?」


 さらなる贈り物の存在にびっくりを通り越して唖然としていると、バル様が目で笑いながら桃子を抱き上げた。咄嗟に胸元に捕まりながら、桃子は内心叫んだ。せめて心の準備をっ、準備をさせてほしいの! 階段にお部屋を合わせただけで相当な費用がかかっているはずだ。間違いなく、お子様に注いでいい金額ではないだろう。桃子のお礼が砂場で作ったお山だとするならば、バル様のお礼はお城の後ろにそびえる頂きくらいの差がある。


 心の防具を探す桃子を腕に乗せたまま、バル様は階段を下り一階の廊下を歩き出す。その先にはレリーナさんと使用人のジャックさんがおり、さっと両扉を開いてくれる。バル様は歩みを止めることなく室内に入り三つのソファを横切り、今度はバルコニーに続くガラス扉に向かう。その前には先読みしたようにロンさんがいて扉を開いてくれた。


 バル様と一緒に外に出た桃子は、そこにはあるはずのものがなくなって、なかったものが存在していることにあんぐりと口を開いた。


「バ、バ、バ、バル様! 果物の木がない! どこにもないよ!? それに花壇ができてる!」


「安心しろ。切ってはいない。モモの花壇を作るために場所を移動させただけだ」


「木がお引っ越ししたってこと?」


「ふっ、そうだ」


 桃子の頭の中では、木が自分でよいしょと根っこを抜いて、二足歩行で歩いて行く姿が浮かんでいた。ブンブンと頭を横に振って歩く木を消す。いやいや、さすがにそんなことしてないよね? 庭に植えられていたのは、桃子より大きくてもバル様よりは小さな木達だったから、きっと人の手によって移動したのだろう。


 代わりに出現したのは茶色のレンガを四つ葉型に並べた素敵な花壇である。中の土は柔らかく耕されており、種をまけばすぐにでも芽が出てきそうだ。


「モモを驚かせようと思ってな、城で滞在中に屋敷の中に業者を入れていたのだ。ロンには建築についての指揮を任せ、レリーナとジャックにはこの一月はモモを屋敷に近寄けさせないように指示を出していた」


 バル様が上半身を僅かに振りかえらせると、名前を呼ばれた三人が庭に出てきた。申し訳なさそうにしているレリーナさんを見て、ピーンとくる。探偵桃子さんの登場である。


「だからお菓子をお裾わけする時も、レリーナさんが率先してお屋敷に届けに行ってくれたんだね?」


「ええ。その頃はちょうど、外部の者が出入りして作業中でしたので、まだモモ様にお見せできる状態ではなかったのです」


 わーいっ、当たった! 五歳児の桃子がぱちぱちと拍手している。今日はたまたま冴えてたみたいだねぇ。名探偵に一歩近づきました! 


「それから、モモ様にはあえてお知らせしていなかったこともありました。モモ様にお任せいただいた割れた鉢のことです。どうぞあちらを、ご覧くださいませ」


「え? あれって──……っ!?」


 レリーナさんが手の平を向けた先を見て、桃子は思わずバル様の腕から身を乗り出した。バル様が力強い腕で支えてくれる。バル様の腕力をためしちゃってごめんよ。


「そうです。あの折れてしまった花の芽ですよ。庭師に相談したところ、折れた芽に支えがあればあるいは、と言われて、皆で階段を作る過程で出た木材の欠片をさらに細く削って添え木としたのです。それでも、ほとんどのものは茎が腐ったり枯れてしまいましたが、ほんの少し生き残ったのです」


 バル様が桃子を抱えたまま花壇に近づいてくれると、レリーナさんの言葉の意味がわかった。鉢で育てていて割られてしまった花の芽が、三つだけ茎を伸ばして小さな蕾をつけていたのだ。桃子は驚きと嬉しさで目を潤ませる。


「ふおおおおっ、あんなに芽が折れちゃってたのに、生き残った花があったなんてすごいよ! レリーナさん達が大事にお世話してくれたからだね、私すんごく感動しちゃった!!」


「上手く育つ保証もございませんでしたから、今こうしてモモ様によいご報告ができまして、私も嬉しゅうございます」


 桃子はぽかぽかする気持ちのままバル様を笑顔で見上げる。鉢が割れちゃった時は悲しかったけど、今はその何倍もの嬉しさで胸がいっぱいになっている。この気持ちをバル様に伝えたくて声が駆けまわり弾む。





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