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267、モモ、袋を求める~親しくなると新たな一面が見えるもの~前編

「あっ、落ちちゃった」


「オレの方に乗せる? と言ってもこっちもそれほど乗せられないんだけどね」


「そうだよねぇ。どこかに袋が落ちてないかなぁ」


 カイの苦笑に同意しながら、桃子は廊下にぽろぽろ落としたお菓子を拾いつつ、ひっじょーに困っていた。 


 4番隊の書類整理が終わると桃子はディー達に手を振って、その書類をもって違う部隊に配達に向かった。そうして行く先々の部隊で書類計算や配達をしていると、次第にルーガ騎士団内でその噂が広がったのか、お礼に伺った先でなぜか桃子の方が団員さんや隊長さんからありがとうとお菓子を渡されるようになったのである。


 廊下ですれ違う団員のお姉さんやお兄さんが好意からくれたお菓子達は、ちょっとずつ量を増やし、今では桃子はおろか、カイの両手からも零れそうなほど積み重なっていたのだ。網を投げたわけじゃないんだけど、大漁です! お魚の代わりに全部お菓子なんだけどね。ありがたいけど、さすがにこの量を抱えるのは大変だ。


「さっきからなにやってんの?」


 いつから見られていたのか、声をかけてくれたのはトーマであった。呆れたように腰に手を当てているけど、挨拶に行こうと思っていたからすれ違わずによかったよ!

 

「お菓子がいっぱいで持てなくなっちゃってて。それはいいんだけど、今ちょうどトーマのところにも行こうと思ってたんだよ。今日までありがとう。本当にお世話になりました!」


「モモ、止まって!」


「馬鹿っ、頭を下げるな!」


 カイには止められて、トーマにはなぜか罵られた。なんで? って思った時には、バララララッと廊下にお菓子が飛び出していた。……ごめん、またやっちゃったよぅ。頭を下げた瞬間、手の上に積んでいたお菓子が雪崩を起こしてたのだ。桃子の脳裏に懐かしい記憶がよみがえる。あれは小学生のことでした。授業が終わって、廊下で先生に挨拶したら、ランドセルの蓋を閉め忘れてたから中身が全部落ちちゃったことを思い出した。笑いながら拾うのを手伝ってもらったけど、あれはちょっぴり恥ずかしかったなぁ。


 しゃがんでお菓子を拾っていると、トーマが手伝ってくれる。カイの両手も空いてないから、とっても助かります。


「すげぇ量だけど、この菓子はどうしたんだよ?」


「今までのお礼にって、皆がくれたの」


「ふーん。──それで、あんたが今日はチビの護衛についてるわけ?」


「まぁな。見ての通りだからさ、お前に頼みがあるんだけど」


「……来れば? 袋くらいならやるよ」


「ありがとう! えへへっ、トーマもお菓子食べる?」


「いい。甘いの嫌いだから」


「しょっぱいのもあるよ?」


「だから……ガキから奪うほど飢えてないって言ってんだよ」


 最後のお菓子をたくさん重ねたお菓子の上に乗せてもらう。トーマに呆れたように見下ろされて、桃子は正反対の顔になる。するとほっぺたをくいっと摘まれて引っ張られた。


「あうー」


「なに嬉しそうに笑ってるわけ?」


「こらこら。女の子にそんなことしちゃダメだろ! モモも少しは抵抗しなさい!」


 力加減してくれてるからちっとも痛くない。ついつい、にこーっとしちゃう。最初にツンツンされた頃と比べれば、すんごく仲良くなった気がするよねぇ。たとえるならそう、野生の猫がちょっとずつ人慣れしてくれた感じかな? 


 トーマはカイに止められると、鼻を鳴らしてほっぺたから手を放してくれた。桃子は引っ張られた部分をカイに向けてみる。


「伸びてない?」


「まろやかな頬のままだよ。──トーマ、女の子に乱暴なことするなよ」


「このくらいで乱暴とか、あんたも過保護だよな。そんなんじゃ、そいつ一人ではなにも出来なくなるんじゃねぇの?」


「本当にそう思うか? 他人の為に危ない場所にも飛び込むような子だぞ。お前もそれを知ってるんだろ?」


「……こいつ意外と気が強いよな。オレにも噛みついてきたし」


「なにしたんだよ?」


「別に。それより、オレも暇じゃないから来るなら早くすれば」


 トーマは素っ気なく答えると、桃子に視線を流して先に歩き出す。隊長さんだもんね、お仕事たくさんあるのかも。


 桃子が後を追いかけて行くと、トーマは廊下を進み、隊の執務室に入っていく。ドアが閉まる前に桃子も入室すると、くすんだ金髪─ファルスさんが振り返った。


「トーマ、さっき5番隊に紛れ込んでいた書類が回って来たんだが確認を──…なんだ、モモちゃんとカイも一緒か。両手になにを抱えてるんだ?」


「皆からお菓子をもらったの」


「ははっ、すっかり人気者だな。カイはモモちゃんの護衛か?」


「そうです。お久しぶりです、ファルスさん。すっかり副隊長が板についてますね」


「もともとオレは補佐向きなんだよ」


「……そんなことないだろ」


 肩を竦めて苦笑したファルスさんにトーマがぽつりと言葉を落とした。周囲の驚きには素知らぬ顔をして執務机を回り込み、下の引き出しを開いているようだ。桃子は内心叫んだ。トーマにデレ期が到来した!? ハリネズミだったのに、針がすんごくやわらかくなってる!! 





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