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261、モモ、飛び出す~嬉しい時の涙は我慢しなくてもいいよねぇ~中編その二

「また呼んでね? いつでもお手伝いするよ」


「ありがとうございます、モモ。我々もそろそろルーガ騎士団に戻りましょうか。団員達が待っていますよ」


「あぁ。──請負屋と神殿の協力に改めて感謝する。ギャルタス、ルイス、タオ、お前達のおかげで死ぬ者を1人も出すことなく帰還することが出来た」


「固いなぁ、団長さんは。それはこっちも同じことさ。今後もお互いに利のあるいい関係を築いて行こう。それに、あんた達がルーガ騎士団を辞めたらいつでも請負屋は歓迎するぜ?」


 ギャルタスさんは腰に右手を当てながら、茶化す。冗談交じりの誘いかけに、カイが苦笑する。


「まったく商魂たくましい頭目さんだな」


「そうとも。貪欲だから生き残っていけるのさ」


「ふふっ、僕は皆さんに同行出来たことで勉強になりました。未熟な僕ですが、バルクライ様のお役に立てたのなら身に余る光栄です」


「おいおい、感動して泣くなよ、タオ? まぁ、オレも気持ちは同じだ。ヒヤヒヤするような一瞬もあったが、あんた達のおかげで乗り越えられた。オレも腹を据えにゃあならんな。──団長さん、悪いがモモちゃんを明日の昼頃に借りてもいいか? 絶対に危ない目には合わせない」


「……モモに聞くといい」


 バル様とルイスさんの目に尋ねられて、桃子は突然話を振られた戸惑いで目をパチパチさせながらも、大きく頷いた。ルイスさんが一緒なら絶対に危ないことなんてないもんねぇ。


「いいけど、改まってどうしたの?」


「前に、オレがモモちゃんに頼みがあると言ったことを覚えているか?」


「それって害獣が街で暴れた時のこと?」


「ああ、そうだ。その頼みを聞いてほしいんだ。これは、モモちゃんにしか頼めないことだ」


 思いつめたように真剣な眼差しだ。それほど大事な願いなのだろう。桃子は純粋な気持ちを返事にした。


「私に出来ることならいいよ?」


「そうか! 明日、昼の鐘1つに迎えにいくよ。支度をして待っててくれ。──さて、オレ達も帰るとするか、タオ」


「はい、ルクティス様! それでは皆さん、お疲れ様でした。モモちゃんもまたね?」


「オレも請負人屋に帰るぜ。仕事が待ってるからな。団長さん、モモちゃん、なにかあったらいつでも来てくれ」


 ルイスさんとタオが先に別れを告げて離れて行くと、それを追いかけるようにギャルタスさんが続く。桃子はじっとその背中を見送る。だけど、1人、2人と去っていく姿に男女の影が重なって見えて、はっとする。違う、あの2人じゃないよ。そうわかっているのに、鼻の奥がつーんっとなり、寂しいよぅって心の中で五歳児が泣きそうになる。時々心の中に顔を出す寂しん坊は、幼い自分の幻影だ。


十六歳の桃子は理解しているけれど、五歳児の心が大きく影響した身体は、じわじわと涙を出そうとする。ここは涙腺の蛇口を固く締めて、我慢っ! ようやく帰って来てくれて明るい空気に満たされているのに、私がその雰囲気を壊しちゃいけないもん。桃子は努めて明るい声で三人を急かす。


「私達も行こう。ルーガ騎士団で皆がバル様達を待ってるよ」


 それなのに三人は顔を見合せて、バル様が代表者のように静かな美声で話しかけてくる。


「寂しいのか?」


 すぐバレちゃった!? また顔に心が丸出しになってるの? なんて答えようか迷って、やっぱり嘘もつけないから、桃子は正直な気持ちを話すことにした。


「ちょびっとだけ。お母さん達がお仕事に行く時のことを思い出したの。いつも見送っていたから慣れているはずなのに、毎回2人の背中を見る度に寂しいなぁって思ってたから」 


「……そうか。あの者達とはまた会える。オレ達はどこへ行こうと必ずモモの元に帰ってくる。それでも寂しくなったら、その時は伝えてくれ。その度に話をしよう」


「ありがとう、バル様」


 バル様の落ち着いた声音と物静かな黒い目は、桃子の波立った心を宥めてくれた。過去は消えないけれど、痛みが遠ざかる。バル様の言葉は魔法みたいだね。いつだって私の心の痛みを取り除いてくれるもん。


「オレ達のことも忘れないでほしいね」


「そうですよ。モモの保護者は私達3人です。誰でも頼ってください。モモの為ならどこへでも飛んで行きますからね。さぁ、皆さん、行きましょうか」


 ルーガ騎士団に向かって3人が歩き出す。バル様を中心に少し後ろの左右にカイとキルマが並ぶ。桃子はバル様の肩越しにお城を見る。あっ、レリーナさんとジャックさんが立ってるよ。2人は先にお屋敷に戻ることになっているのだ。


今日でお城の居候も終わりとなる。衝動的にバル様のとこに来ちゃったけど、王様や王妃様にお世話になりましたって挨拶しなくてよかったのかなぁ? そんなことが気になっている間に、兵士の人が手綱を持っていた馬の上に、バル様が抱っこで乗せてくれる。そして、後ろにバル様が騎乗した。桃子のぷっくりしたお腹に大きな手が回されて、支えてくれる。


「オレに寄りかかかっておくといい」


「うん!」


 桃子がいい子のお返事を返すと、バル様は手綱を軽く打って、お城の門を馬で軽く駆け出した。馬はぽっくりぽっくり緩く駆けながら、街中を目指して進んでいく。追いかけてくる足音はカイとキルマの馬だろう。街から届く歓声がぐっと近づき、耳に届くようになる。


 商店街の前には人々が立ち、口々に「お帰りなさい!」「お疲れ様!」なんて笑顔で叫んでいる。街の人々が討伐隊の帰還を歓迎していることに、嬉しくて心がどきどきしてきた。馬の首から横に顔を少し覗かせると、討伐部隊の人達は歓声に応えて片手を上げたり、笑顔で手を振っている。どの人も誇らしげに堂々と胸を張っていて、晴れやかな気分になった。バル様もするのかなぁ? 気になって振り向こうとしたら、美声に囁かれた。


「手を振ってやるといい」


「でも、私は討伐に行っていないのにいいの?」


「構わない。オレの代役だ」


 桃子のお腹を支えてくれる手がぽんぽんと動く。右手に馬の手綱、左手で桃子の身体を支えているので、手が空いていないと言いたいのだろう。桃子はほぼ真上に上げていた顔を前に戻すと控えめに横を通り過ぎて行く人達に手をふりふりしてみる。笑顔の街人達は桃子が相手でも手を振り返してくれた。それが嬉しくて、今度は躊躇わずに手を振っていく。


 害獣によって壊された街も一月で修復作業が随分と進んだようで、綺麗な外観の建物も増えた。それは人々の努力によるものだ。明るい笑顔と歓声が溢れた街は生命力の強さを感じさせた。


「いい国だね」


「オレ達が守るべき国であり、人々だ。その中にはモモも入っている」


 バル様は何気なく言ったんだろうけど、その言葉が心に沁みていく。ここではない世界に生まれて、選択する余地さえ与えられることなく異世界にやってきた。諦めることは得意だからと、悲観することなく今の状況を受け入れてきた。だけど、本当はずっと誰かに『ここにいてもいい』と言ってほしかったのかもしれない。桃子はバル様のお腹にぽすんと寄りかかる。








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