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259、モモ、飛び出す~嬉しい時の涙は我慢しなくてもいいよねぇ~前編

 桃子はその瞬間を、まだかなー? まだかなー? と室内から外に顔を覗かせては引っ込めてを繰り返しながら心待ちにしていた。バル様達の帰還となる今日は、開け放たれたバルコニーから見える青空が清々しい。雲がない空は飛んでる鳥も迷子になりそうなほど広々としている。


 昨夜は楽しみ過ぎてバルチョ様を抱っこしてもあんまり眠れなかったのに、眠気をちっとも感じないのはようやく会える保護者様にお子様が興奮していることと、十六歳の桃子自身が好きな人との再会を本当に嬉しく思っているからだろう。


 そわそわしながらお城の上階から見える街を眺めていると、耳にざわめきが届いた。桃子は顔を明るくして、正装姿の王様と王妃様を振り返る。


「到着したようだな。討伐部隊の帰還は街にも知らされている。出迎えに向かった民衆が声を上げているのだろう」


「モモ、良かったな。もうすぐこっちに来るぞ。」


「はいっ! 私はお邪魔にならないように向こうで待ってますね!」


 今日は加護者としての出番はないそうなので、桃子はただわくわくしながら待つだけでいい。せっかくバル様達が帰ってくるからちょっとだけおしゃれしているけどね! 肩ひものある赤いワンピースで、腰の部分できゅっと締めて後ろに大きなリボンになってる。髪も両サイドの三つ編みにして後ろで束ねてカイに貰った薔薇の髪飾りで留められているのだ。


 壁際に控えているジャックさんとレリーナさんに並んで立ってみる。背の高さ順だねぇ。レリーナさんから私の高さの差が激しいけど、音に例えると、ドンッ、タンッ、チョーンッて聞こえそう。


 王様と王妃様がバルコニーに出ていくと、遠くから一定の間隔で音が近づいてきた。ドドッ ドドッて重い地響きが聞こえてくる。それに合わせるように桃子の鼓動も早くなっていく。とうとうその音ははっきりと耳に届くようになる。そして──……。


「ルーガ騎士団害獣討伐部隊、帰還!」


「同じく、請負人討伐部隊、帰還!」


「続いて、神官支援部隊、帰還!」


 それぞれの組織の代表者、バル様、ギャルタスさん、ルイスさんの声がした。ずっと待っていた人達の声を聞いて、桃子は嬉しさに目を潤ませる。早く会いたいけどまだ帰還の儀の最中だ。ぐっと我慢して様子を見守る。


「総責任者ルーガ騎士団師団長バルクライより陛下にご報告申し上げます! 重傷者2、軽傷者13、死者0! 全員無事に帰還いたしました!」


「強き戦士達の帰還に神々へ深い感謝を。──勇猛なる戦士達よ、よくぞ戻った! そなた達の活躍により我が国にも春が訪れた。これより5日後、春祭りを開催する!!」


「酷使した身体と心をよく休めてください。それぞれの本部へはわたくし達からお礼として食糧の提供をさせていただきました。春祭りを共に楽しみましょうね」


 柔らかな声で王妃様が穏やかに伝えている。すごい名女優さん! ふははははっ! って笑い声が似合いそうな男前な王妃様が、優雅で品がある王妃様に変身してる。桃子は真っ直ぐ伸びた背中に尊敬の熱視線を向ける。私もあれくらい自然な演技が出来ればいいのにねぇ。いつだって私のは張りぼてだもん。風が吹けばパタンッて倒れそうな儚さしかない。最近は加護者様モードになることが多かったからちょっぴり補強はされてるけども! 


 しずしずとバルコニーから王様と王妃様が戻ってくる。


「帰還の儀は終わりだ」


「今日まで本当にいい子だったな。もういいぞ。行って来い、モモ!」


 二人から許可をもらった桃子は、嬉しくて跳ねるように走り出す。後ろから「モモ様!」って呼びながらレリーナさん達の声が追いかけてくるけど、桃子は止まれない。廊下を飛び出して階段まで走って行くと、下から上ってきたキルマと鉢合わせした。慌てて足踏みすると、キルマはクスリと笑って腕に抱き上げてくれる。


「さぁ、お迎えに来ましたよ。皆の元に行きましょう」


 片腕に抱えられたまま階段を下り廊下を歩いて正面の開け放たれた扉を出て行くと、ぞろぞろと門に移動する団員さん達を見守る大きな背中を見つけた。桃子はキルマの肩をぽんぽんって叩いて降ろさせてってお願いする。地面に足が付いた途端、本能のままに駆け出していく。


「バル様──っ」


 桃子の声にバル様が振り返る。彫刻のように整った顔立ちと逆三角形の鍛えられた身体、黒曜石を思わせる目が僅かに細められる。その表情が懐かしくて嬉しくて涙が出ちゃう。片膝をついたバル様に勢いよく飛びつくと優しく力強い両腕に抱きしめられる。


「……ただいま。約束は守ったぞ、モモ」


「おかえりなさい、バル様! ずっとずっと待ってたの!」


 嬉しいのに涙が止まらなくて、泣きながら笑って伝える。せっかくおしゃれしたんだから、笑顔でお出迎えしたかったんだけどなぁ。桃子が手の甲で涙を擦ろうとすると、バル様の大きな手に止められた。そして、目元にちゅっと口づけが降ってくる。


「ふぁっ」


「今日からまた一緒だ」


「うんっ、すんごく嬉しい! あのね、バル様にいっぱいお話したいことがあるんだよ?」


「時間はある。ゆっくり聞かせてくれ」


 反対側の目元にもちゅって口づけを受ける。照れて両手で口づけされたところを押さえたら、バル様の安心する腕に抱き上げられて、額を額でこつんってされた。端正なお顔が目の前にあるからドキドキしてきちゃう。よっぽどゆるゆるな顔をしてたのかなぁ? バル様がほんの僅かに笑みを浮かべる。胸がきゅんってして、桃子はバル様の首に両腕を回して顔を隠した。恥ずかしいけど、好きって気持ちが溢れちゃいそう!





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― 新着の感想 ―
自分の留守中に側室に暗殺されかけたとかバル様が知ったら、側室の実家に殴り込みに行きそうだな…
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