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258、モモ、やる気に溢れる~嬉しい知らせはゆっくりじわじわ心に広がる~後編

「ケティ、モモの業務はその形でお願いしますね。なにかあった時はフォローしてあげてください。さぁ、仲間達の帰還です。今日の業務は明日に残さないように各部隊は努力してください。そして、盛大に彼等を出迎えてあげましょう!」


【はいっ!!】


 団員さん達が団結して声を上げると、キルマは満足そうに笑って、呼びに来ていた団員さんと足早に食堂を出て行った。団員の人達も席を立つ人が増えていく。きっとお昼の休憩時間を短くしてお仕事に向かおうとしてるんだね! 

 

 桃子も団員さん達を見習うことにする。ジャックさんが4人分のお皿を纏めてカウンターに運んでいく。ケティさんも席を立ったところみたい。午後からお世話になるから、執務室まで一緒に行かせてもらえないかな? 桃子は2回目のご飯から用意されていたお子様椅子を自力で下りるとテーブルの間を通り抜けてダッシュした。


「待ってください、ケティさーん!」


「モモちゃん? あの、まだお昼休みだからゆっくりしててもいいんだよ?」


「ううん。皆が早めに切り上げてるから、私も一緒に行きたいです!」


「そっか。じゃあ、執務室でお仕事の説明をするね。今日はそんなに忙しくないから4番隊まで手伝えると思うよ」


「はいっ!」


 しゃっきり返事を返すと、頬を赤くしたケティさんが可愛らしく笑った。ルーガ騎士団でお手伝いするようになってから関わることが多かったから、だいぶ慣れてくれたみたい。最初の頃よりもお話しが弾む。可愛い隊長さんだけど、剣の鍛錬をしている時はすんごく凛々しくなるから格好いいんだよ!


 桃子はジャックさんが合流したのを確認して、ケティさんと食堂を出る。4人でてくてくと廊下を歩いていると、立ち話をしている団員さん達が討伐部隊の帰還の話をしているのが届いた。その嬉しそうな様子に、桃子も嬉しくなってくる。誰もが仲間の無事を祈りながら待ってたのが伝わるからだ。今ならスケートでトリプルアクセルも決められそうな気がする! スケート下手っぴだけど! 


 元の世界で千奈っちゃんと滑りに行った時は、膝の笑いが止まらなくて転んでばかりいたなぁ。桃子が心の中でテンションを上げていると、ケティさんが声を潜ませて桃子に話しかけてくる。


「2日前は大変だったって聞いたよ。本当に大きな被害が出なくてよかったよね。憑依された子が暴れた時に、私の部隊の団員の子も怪我をしたんだけど、ディーカル隊長が神様から頂いたお酒を分けてくれたらしいの」


「はっ、ごめんなさい。私もそうするべきだったのに、怪我をした人がいたことをすっかり忘れちゃってました」


 桃子はその時初めてその可能性に気付いて反省する。ディーは大ざっぱに見えるけど、下の団員に対してはすんごく面倒見がいいから! 頼りになる隊長さんだよねぇ。


「モモちゃんはそれどころじゃなかったでしょ? 詳しくは知らないけど、軍神様にお叱りを受けていたんだよね? それに、お酒を少し頂いたおかげですっかり治ってしまったそうだから、怪我の心配はしなくても大丈夫。ディーカル隊長って本当に団員思いな方だよね。きっと憑依された子と怪我をした団員の間に禍根かこんを残さないためにお酒をふるまってくれたんだと思う。私はそういうところを昔からとても尊敬してるの」


 憧れの籠ったきらきらした目をするケティさんに、頭の中で医務室の扉の下に置かれていた茶色の紙袋を思い出した。ピーンッと十六歳の直感が働く。桃子は隣を歩くケティさんにさらに声を小さくして、口にちびっこい手を添えながらこしょこしょと思いついたことを聞いてみる。


「ディーに名前のないお見舞いを置いていったのはケティさん? もしかして、ディーのことがす──?」


「モ、モ、モモちゃん、ちょ、ちょっと執務室に急ごうね!?」


 顔を真っ赤にしたケティさんにいきなり抱っこされる。そのまま足早に廊下を急ぎ出したケティさんは階段を登り切って6隊の執務室の鍵を開けて入るまで無言だった。廊下を走っちゃいけませんってルールを律義に守っていたのか、競歩のような速さだった。

  

 ケティさんは桃子を床に下した途端に膝を抱えて蹲る。柔らかそうな前髪の間から見えるおでこも真っ赤だ。ありゃりゃ、悪いことを聞いちゃったかなぁ? からかったわけじゃないんだよぅ。レリーナさんとジャックさんを見上げて、どうしようって目で聞いていると、ぽそぽそとケティさんが呟くので、桃子はそうっと近づいて、目の前でしゃがむ。


「モ、モモちゃん、さっきのこと……誰にも言ってない? その、私がディ、ディ、ディーカル隊長を……」


「言ってないし、これからも誰にも言わないよ。当たりだった?」


 細い声で確認する可愛い隊長さんに、桃子も小さな声で囁き返す。有能な護衛さん達は空気を読んだように知らんぷりをしてくれている。ちょっと前の桃子だったら絶対に気づくことが出来なかったはずだ。これは、私も女子力がちょっぴりレベルアップしてるの? 1から3くらいにはなったかもしれないねぇ。もちろん、1番上のレベルは100なんだけど。ケティさんなら恋バナ仲間になってくれるかもしれないと期待してそわそわしながら、桃子はこそこそと内緒話を続ける。


「ケティさん、あのね、私もバル様のことが、す、すす……っ!」


「……好き、なんだね?」


 ぽぽぽっと顔が熱くなってきて、言葉が形にならない。口の中でもごもごしてるとわかってくれたケティさんが赤い顔を寄せて囁いてくれた。照れくさくて桃子はぎくしゃくと頷く。2人して顔が真っ赤になってておかしいね? だけど、バル様が帰ってくるって嬉しさと好きって気持ちがごっちゃになって心がぽわぽわしちゃってどうしようもない。恋、しちゃってるんだなぁ。お互いに照れ合っていながら、桃子はケティさんをお仲間に誘う。


「たまにでもいいから、ケティさんとお互いの好きな人のお話しがしたいの。一緒にお茶してくれる?」


「わっ、嬉しいよ。私もこんな話が出来る相手って1人しかいないから。仕事が忙しくない時に誘わせてもらうね」


 はにかみ付きのいいお返事をもらった桃子は、思わず手をグーにする。よしっ、恋バナ仲間が出来た! 恋愛についていろいろと聞いて女子力をバーンッと上げちゃうの!





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― 新着の感想 ―
あー、ディーお見舞いの時の謎のアーモンドおつまみ詰め合わせ紙袋かぁ ケティさん、なかなか純朴でかわいいねぇ
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