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257、モモ、やる気に溢れる~嬉しい知らせはゆっくりじわじわ心に広がる~前編

 桃子はルーガ騎士団の食堂で、満腹なお腹を抱えて満足のため息をついていた。平穏が戻ったルーガ騎士団でいつも通りにキルマのお手伝いをこなした桃子は、ただいまお昼の休憩中である。テーブルの上には空になった器がぽつぽつ広がっていて、隣に座るキルマがそのお皿を重ねていく。今日のお昼は、トマトスープと、お魚と鶏肉とブロッコリーにチーズをかけて焼いたメイン、それとふわふわのロールパンである。おかずにかけられていたチーズは表面がこんがりしてて中がとろとろで美味しかった! 


 お子様用の小さなお皿を両手で差し出してささやかなお手伝いをしていると、キルマが蕩けるような笑顔を浮かべて桃子を褒めてくれる。


「モモはいい子ですね。ご褒美にデザートはどうですか? アイスやゼリーもありますよ?」


「ううん。もう入らない。お腹がはち切れそう」


「もうですか? 遠慮してはいませんか? いくらでも食べていいのですからね?」


「子供ならそのくらいが普通ですよ、副団長さん。きっと大きくなれば自然と量も増えていますって」


「いつまでも見ていたくなるお気持ちはわかります。私もモモ様がお食事をなさっている姿もとても愛らしいので、たくさん召し上がっていただきたくなりますもの」


「そうですね。ほっぺたを膨らませて口をもぐもぐさせている姿はリスのように愛らしいです。頬についていますよ」


「ふぐっ?」


 顔を向けるとキルマに手巾で優しくほっぺたを拭われた。チーズでもついちゃてた? 恥ずかしいなぁ。上手に食べられることもあるんだけど、時々汚すんだよねぇ。前にお洋服の胸元にボトッとチョコケーキを落としちゃった時は悲鳴を上げたもん。ああいう汚れって落とすのが大変だもんね。漂白みたいな洗剤ってこの世界にもあるのかなぁ?


「これでいいですね。可愛いモモに戻りましたよ」


「ありがとう、キルマ」


 微笑むキルマにお礼を伝えていると、食堂の入り口に突然息せき切って団員の男の人が飛び込んできた。その団員さんは息を乱しながら食堂の中を見回している。


「あんなに慌ててどうしたんだろう?」


「おや、あれは……」


「ようやく見つけましたよ、キルマ副団長! たった今、バルクライ団長から伝令の者が到着しました! 討伐部隊が明日帰還するとのことです!」


「それは本当ですか!?」


 キルマが勢いよく席を立つと駆け込んできた団員の元に向かう。食堂の中でどよめきが広がり歓声が上がる。その声を聞いてようやく実感が沸いた。桃子はじわじわと心に広がる幸せを噛みしめて、嬉しさを堪えきれずに思わずレリーナさんとジャックさんに顔を向けた。優しい笑顔が返される。


「よかったですね、モモ様!」


「予定より少し早いんじゃないか? バルクライの旦那達もモモちゃんに会いたくて頑張ったのかもしれないぞ」


「うんっ! ようやくバル様達が帰ってくるんだね!」


 桃子達が話していると、知らせに来てくれた団員と話していたキルマが戻ってくる。バル様の帰還はキルマにとっても嬉しいことだったのだろう。白い頬が紅潮している。


「ジャック、申し訳ありませんが、食器の返却をお願いしてもいいですか?」


「そのくらい構いませんよ。モモちゃんのこともオレ達に任せといて下さい」


「お願いします。それからモモ、私はこれからすぐに陛下の元へ向かいます。討伐隊の帰還をお知らせに向かわねばなりませんので。団長達は一度城に帰還してルーガ騎士団に戻るはずです。ですから、モモは明日は城に留まっておいてください。私もそちらに伺いますから」


「うんっ。それじゃあ今日の午後のお仕事はキルマとは別ってことだね? 他の人達にお仕事ありませんかー? って聞きにいけばいい?」


「それでも構いませんが、ちょうど団員が集まっていますしここで聞いてしまいましょう。──モモの手が空きますが、午後に手伝ってほしい部隊はありますか?」


 キルマが食堂に声をかけると、嬉しいことに複数の場所から挙手があった。お子様でも手伝えるなら、全力でお手伝いします! バル様が帰ってくるのが嬉しくてやる気が溢れちゃう。たくさんお手伝いすれば、バル様にも頭を撫でてもらえるかもしれないよねぇ? 


 嬉しくてきょろきょろしてると、ディーのところの団員さん達が何度も手を上下に小刻みに動かしているのに気づく。何度もお見舞いに行ってるからもうすっかり顔見知りだけど、必死の様子だ。また書類で苦戦してるのかも。ディーが頭を抱えてる姿が目に浮かぶ。計算なら得意だから任せてね!


 それから恥ずかしそうな顔で手を上げてるのは6番隊長のケティさんだ。よく書類を運んでるからまたそのお仕事かもしれないね。あっ、あっちには受付の女性団員さんも手を上げてくれてる。受付のお仕事も楽しそう。ちょっとやってみたいかも。桃子のやる気を他所に、キルマが美しいお顔の目元に冷たい影を落とす。 


「4番隊は却下です。貴方達は今まで何度もモモに手伝ってもらっているでしょう?」


「そんなぁっ、頼んますよ、副団長ぉぉっ」


「オレ達だけじゃ辛いっす! ご慈悲をぉっ、ご慈悲をくださいっ!」


「甘えるんじゃありません! そうですねぇ、今回は6番隊に任せましょうか。もし仕事が終わったら、次は受付に行ってください。……ああもうっ、ルーガ騎士団の団員がそんな情けない顔を晒さないっ! ──モモ、最後に時間が余っていればで結構ですから、4番隊にも回っていただけますか?」


「はいっ、キルマ副団長!」


「よっしゃあっ! 副団長のご慈悲があったぞ!」


「おチビちゃんの為にご褒美を用意して待ってるから頼むな」


 キルマの許可が出た途端に悲壮な絶望顔が満面の笑みになった。これは頑張ってお仕事しないといけないね! 4番隊まで回れなかったらこの団員さん達膝から崩れ落ちちゃいそうな気がするもん。





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