表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
257/372

255、モモ、指触りを楽しむ~大人が嗜むお酒は格好いいけど、お子様のお口にはジュースが合うよね~前編

 神様が大集合した日の夜のこと。桃子は引っ越して新しく自室となった部屋の中で、夕食後のまったりタイムを楽しんでいた。お子様用の小さなテーブルには両側に取っ手のついたおしゃれな瓶が置かれており、その中には黄金色の液体が高価な煌きを見せている。


 うむうむ、見事な品でありますな! 鑑定人のようにしげしげと眺めては、ガラス瓶の凹凸を指でなぞった。つるっぽこっとした感触で指先が楽しい。


 実はこの瓶こそが賭けの女神様がくれたお礼の品なのだ。桃子は昼間の騒動後のことを思い出す。



 女神様が空中から取り出して見せたのは、黄金色の不思議な液体に満たされたガラスの瓶であった。


『こいつは【神々の甘露(ルージュラ)】という酒でな、酒の神が350年かけて精霊の木の蜜を集めて造った逸品だ。それでも僅か数本しか作れなかったっていうんだから、どれだけ稀少な酒かはわかんだろ? アタシも昔あいつとの賭けに勝ってようやくちっこい樽を1つだけ手に入れたんだ。極上な酒なのはもちろんだが、こいつさえ飲めば、怪我も病気も即座に治っちまうって効能もある。半分にわけて瓶に詰めてやったからモモとディーカルにくれてやる!』


『気前がいいわねぇ』


『礼を惜しみはしねぇさ』


 美の女神様が茶化すように話しながら色っぽく微笑むと、賭けの女神様は腰に片手を当てて得意げな顔をする。方向性の違う二人の美女だけど、神様同士も仲良しなんだねぇ。差し出されたおしゃれなお酒の瓶を両手で受け取ると、ディーはそれを陽の光に翳しながらにやりとした。


『こいつはいいな。美味いうえに怪我まで治るならババァにも言い訳がたつ。さっそく後で一杯ひっかけるとするか』


『ただし! 強い酒(・・・・・)だから一気には飲むなよ、ディーカル』


『おう、ありがとよ』


 すんなりと会話が成立してるね。賭けの女神様も嬉しそうだ。桃子はさっきから考えていたことを相談する。


『賭けの女神様、このお酒を軍神様と再生神様にもわけていいですか?』


『お前にやったもんだから、そりゃあいいけどよ……本当に希少な品なんだぜ。なんでわけちまうんだ?』


『神様もめったに飲めないお酒なら、助けてもらったお礼になるかなぁって』


『欲のねぇ奴だなぁ。まぁ、好きにしな』


『はいっ。──というわけで貰いものですけど、お礼に受け取ってください』


『僕はお酒は飲めないけん、気持ちだけで十分さぁ。それに僕も君に助けてもらった立場だけんね。あの時力の大半を失っていた僕には他の神の助けが必要だったさぁ、加護者であるモモちゃんの傍なら、ガデスくんに見つけてもらえるかもしれんと思ったんよ。それに第一王子ばかりにセージを貰っていたら彼の身体に悪いけん、人形に入れば沢山の人に触れられる機会があると考えてバルチョくんの中に入らせてもらったわけさ。モモちゃんの周囲の人間から本人が気づかない程度のセージを貰いながら」


 にこにこしながら説明してくれる神様に、桃子は動かなくなった理由に思い当たる。


『それじゃあ、もしかして私を助けた後に動かなくなっちゃったのは魔法を使ってセージが足りなくなっちゃったから……?』


『恥ずかしながらそうさぁ。友の加護者は僕の加護者も同然だけんね、助けん理由がないさぁ』


 やっぱりそうだったんだねぇ。フィーニスに力を奪われてそれほど弱っていたのだ。軍神様はそれでも再生神様のことを諦めずに探していたんだろうね。軍神様を見上げるとゆっくりとした瞬きが返る。


『我にも礼の品など不要よ。我は礼を求めるがゆえにモモを助けたのではない。加護者として認めたからには、我がそなたを守るは当然のことぞ。だが、酒のままではまずかろう』


 軍神様が指先をガラス瓶に向けると、なにか白い靄のようなものがふわふわと瓶から出てきた。それを見て賭けの女神様が憤然とした様子で非難する。


『あーっ! 滅多に手に入らない酒なのになにしやがんだよ! アルコールを抜いちまったら美味くねぇだろうが!』


『我が加護者は幼子ぞ。それも、香りだけで酔うほど極度の下戸となれば、酒など与えてはならぬ』


『そうねぇ、人間の子供ですもの。いくら美味しくてもお酒は幼い身体には毒よね。いいじゃないの、アルコールが抜けたところでジュースになるだけで美味しさも効果も変わらないもの』


『そりゃあ、そうだけどよぉ。もったいねぇなぁ』


『ガキに酒なんて飲ませたら下手したら死んじまうぜ? あんたの礼の品に代わりはねぇし、チビスケが飲めるならこの方がいいだろ』


 ディーにそう言われて賭けの女神様もしぶしぶ納得した様子だ。桃子はジュースになったと聞いて笑顔になる。大人なるまで大事にとっておこうと思っていたから、すぐ飲めるようになったのが嬉しかったのだ。軍神様が注意事項を伝えてくれる。


『これを一口飲めば首の痣も消えよう。飲む時は1度に多くの量を摂取してはならぬぞ。何度かにわけて飲むがいい』


『賭けの女神様、軍神様、ありがとうございます!』


『ではその痣について詳しく聞くとしよう』


『はうっ』


 嘘のつけない桃子と、一部始終を目撃して助けてもくれた再生神様によって、軍神様に最初から最後までばっちりしっかり説明することになり、じょじょに深くなる眉間の皺に戦いた。団員さん達は遠巻きにしてたから聞こえてなかっただろうけど、少しずつ頭が下がって小さくなっていく桃子に不思議に思ったことだろう。桃子は自分の無謀さをこってりと叱られ、アニタ様に罰を下すと言う軍神様を必死に止めることになったのである。



 あの涙と冷や汗の時間を思い出した桃子はぶるりと震えた。今思い出しても恐ろしいの! 淡々と冷静に怒られるのってすんごく心にズシーンとくるよねぇ。特に軍神様はバル様と雰囲気が似てるから、バル様に叱られた時のことを思い出すんだもん。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ