249、モモ、諭される~頑張って失敗してしょんぼり落ち込んで、それでも今度こそって思うよ~後編
「誰だ?」
「護衛騎士のユノスです。モモ様にお聞きしたいこととお届けものがございまして、参上いたしました」
「……入れ」
王妃様は桃子が頷くのを見て、許可を出す。入ってきたユノスさんは腕にバルチョ様を抱えていた。桃子はちょっぴりびくびくしながら、バルチョ様を見つめる。う、動いてない、ね……? じゃああれは、まさか……!?
「モモ様のお部屋はこちらに移動になりますので、入用の物はすべて移動させます。先にこちらの人形をお持ちしました」
「…………っ」
レリーナさん達が丹精込めて作ってくれたバルチョ様。お、お、おばけが入ってるかもしれないけど、ここで拒否は出来ない。桃子はおそるおそる受け取ると、そのお顔を確認を込めてもふもふする。やっぱり柔らかい。それなのに、なんでアニタ様に頭突き出来たんだろう? もしかして、おばけ力が発動した!? 桃子は泣きそうになりながら、一番伝わりそうなレリーナさんを見上げた。
「どうなさいました!? はっ、もしや、バルチョ様に解れがあるのですか!?」
「首を振ってるってことは、違うみたいですね。なにを伝えたいんだ、モモちゃん?」
「……んっ! ……んっ!」
「人形を持ち上げて、なにやら訴えているぞ」
レリーナさんが慌てたらジャックさんが否定して、王妃様が優雅に足を組み替える。バルチョ様がね、動いたんだよ! 無表情を崩さないユノスさんが推察するようにゆっくりと瞬く。
「部屋の壁にヒビが入っていましたが、それと関係がございますか?」
「うっ!!」
「なるほど。私はモモ様が魔法をお使いになりご側室様を撃退なさったものと思っていたのですが違ったのですね。では、その人形が原因ですか?」
「んっ!」
「ということは、人形がモモを助けたのか?」
「うーっ!!」
正解です、王妃様! 桃子はバンザイして表現してみる。皆で推理してくれるから、なんだか楽しくなってきちゃった。筆談って方法もあるんだけど、私の字ってまだ下手っぴだからね、出来ればこれで察してほしかったの。
「ふふんっ、私の考えが当たりということだな」
「そのようですね。しかし、どこから見ても普通の人形に見えます。この人形がモモ様を助けたとはどういうことでしょうか?」
王妃様が魅力をたっぷり乗せて笑う。それに同意したユノスさんは、桃子の腕にいるバルチョ様を見下ろして、じっくりと見ながら怪訝そうに目を細める。
「モモ様は加護者でございますから、軍神様がお助けになられたのでは?」
「わざわざ人形を通してか? 実に不可解だな。しかし、助けられたのなら動かした人物が誰であれ、現状はモモにとって悪い者ではないだろう」
「い、今は動く様子もないから、本当にただの人形ですよね?」
少しだけ顔色を悪くしたジャックさんがぎこちなくバルチョ様を眺めてる。怖がる気配を察知した桃子は、ちょっぴり心を明るくした。よかった、仲間がいたよぅ! レリーナさんも王妃様もこういう怖いのが平気なのか、少しも脅える様子がない。
「この人形が恐ろしいのでしたら、しばらくこちらでお預かりしましょうか?」
ユノスさんがいつもの無表情でそう言ってくれた。けれど、レリーナさん達が作ってくれたものだし、今は動かないんだからもうなにもいないんだよね……? そうだよね? 桃子は怖さを振り切って、バルチョ様をぎゅっとする。
「わかりました。それでは、モモ様のお声が戻りましたらお知らせください。ご側室様とどのような状況で相対なさっていたのかを、詳しくお伺いする必要がございますので。私はこれより護衛の任に戻らせていただきます」
ユノスさんは丁寧に一礼して部屋を出て行く。王様からの命がもう下っているかもしれないね。警備を強化するのなら、顔を合わせる機会も多くなるはずだ。その内に、アニタ様の様子をこっそり聞いてみよう。桃子はそう思いながら、腕に戻ってきたバルチョ様を見下ろした。喉を治すのも大事なことなんだけど、今夜、バルチョ様が動いたらどうしよう……声が出ない場合の叫び方を誰か教えてください!
「モモ様、今夜は私と一緒に眠りませんか?」
「……んん?」
「いいではないか。それならば、モモも怖くなかろう?」
「モモ様の安眠は私がお守りいたします! バルチョ様が動いた時はこの手で捕まえますので、ご安心くださいませ」
捕まえちゃうの!? レリーナさんがなんとも頼りがいのあることを言ってくれる。頭の中で魚の漁をするように網を持ったレリーナさんがバルチョ様を捕縛するシーンが思い浮かんだ。本当に出来ちゃいそう! そんな想い人の勇ましい姿に、脅えが隠せていなかったジャックさんも声を上げる。
「オ、オ、オ、オレも! 隣室に控えますから!」
すんごく無理してるね! だって顔が青いし大きな身体がちょっぴりぷるぷるしてるもん。ジャックさんは絶対に桃子側の人だよねぇ。でも、一人で怖がっているよりはいいと思うの! 桃子はバルチョ様を抱えたまま大きく頷いた。レリーナさん、ジャックさん、よろしくお願いします!




