25、モモ、緊張の対面を果たす~神様にもお茶目な一面があるんだって~後編
「加護が与えられているわけじゃなさそうねぇ。だけど、一度はガデスからの接触があったはずよ。あるいは接触しようとして失敗したのかも」
「神も、失敗するのですか?」
「あなたはたしか、この国の王子だったわね? うふふ、あたくし好みの美しさね。えぇ、そうよ。人間より寿命と出来ることが多いだけで、その辺は人間と変わりないわ。けれど神は人間よりも自分勝手で気まぐれなもの。興味を失えば二度目は存在しない。──ミラ、あなたこの子に手を上げようとしたわね?」
「え……っ」
ミラが青ざめた顔で息を呑む。それは肯定を意味していた。ダレジャの顔色が変わる。つまり、カイはそれに気付いたから、止めたってこと?
「暴力を伴う嫉妬は美しくない感情よ。あたくしは美の女神。美しいものを愛する神よ。悪感情に従うことのないように、自分をもっと磨きなさい。あなたが手を上げていたら、あたくしはあなたを見限ったでしょうね」
「ご、ごめんなさい……っ、に、二度とそんなことをしようとはしません!」
「それがいいわね。ダレジャ、この子を正しき道に導きなさい。それが出来ない時は、あたくしはいつでも加護を取り消すわ。それを肝に銘じなさい」
「はい、心得まして」
ダレジャさんが神妙な面持ちで頷いた。加護にどんな特典があるのかわからないけど、神様ってシビアなんだねぇ。それほどまでに価値があることなんだろうけど。ミラは息苦しくならないのかな?
桃子は少し心配になって、ミラに目を向ける。しかし、少女はキラキラした眼差しで女神を見つめていた。あ、これ大丈夫な奴だ。一瞬で解決しました。
「女神、この子のことで質問があります。モモのセージが異常に早く減っているようなのですが、解決方法を知りませんか?」
「あぁ、そう言えばそうねぇ。たぶん 中途半端に繋がっちゃってるからセージを向こうに吸い取られてるのよ。これを治すのはガデスじゃなくちゃ無理ね」
「そーにゃああ……」(そんなぁ……)
「あら、可愛い」
女神が微笑むが、桃子は眼福と喜べない。ずっと、このままなの? そんなの嫌だぁぁぁぁっ!! 一歳児と桃子は一緒に叫んだ。
「ひっ、ふぇっ、うああああああんっ!!」
激しい不安が爆発した。顔をぐちゃぐちゃにして泣きじゃくる一歳児化した桃子を、バル様がそっと揺すりながら、宥めてくれる。
「モモ、諦めるのはまだ早い。それならば、申し訳ございませんが、貴方にかの神をお呼びしていただくことは出来ませんか?」
「してあげたい気持ちはあるのよ? だけどあの神は、あたくしの声には答えてくれないと思うわ。それでも?」
「はい、一縷でも望みがあるのならば」
「そう……では、呼んでみましょう。──軍神ガデス! あたくしの声が聞こえているなら、今すぐここに来てちょうだい!」
女神様が天井に向かって叫んだ。しかし、なにも起こらない。やっぱりこのまま一歳児確定なんだぁ! 嫌だよぅ。お世話され過ぎて、本当に一歳児になっちゃいそうだもん!
「なんの反応もないってことは、あたくしの声を拒絶したのね。酷いわ! あの神ったら、戦い戦いでちっともつれないんだもの。でも、さすがにこのままじゃその子が可哀想ね。セージが少なくなっていくなら、あなたが与えてあげたらどうかしら?」
「それが出来たら疾うにしている」
「ちょっと、バルクライ様!?」
バル様の憮然とした口調に、カイが慌てる。その態度、バチ当てられない? 心配するものの、桃子は嗚咽が止まらない。とんとんと背中を叩かれてしゃっくりを漏らす。
しかし、美神は逆に嬉しそうに頬を染めた。
「ああんっ。その表情、ガデスにそっくりね。ちょっとときめいたわぁ。うふふ、良いことをおしえてあげちゃう。あのね、神のセージを受け入れちゃったんですもの。彼女、そういう体質なのよ」
「それは、モモはオレ達からのセージも受け入れられるってことですか?」
「えぇ、その通りよ。キスを介して送れば、一度で大量のセージを彼女に渡せるわ」
バル様達とちゅうするの!? 初恋もまだなのに、それは難易度が高すぎるよ! それに恥ずかしいもん。美形さんやホストさんが、赤ちゃんの口にちゅうするって、犯罪臭がする時点でアウトです!
桃子は言葉にならないので泣いて抗議した。
「ふぎゃああああんっ!!」
「モモが嫌がっている。他の方法は?」
「あら、いいじゃないの。キスくらい。仕方ないわねぇ、その子に触れた状態でセージを動かしてみなさい」
「こう、か?」
バル様に触られている部分から熱気のようなものを感じた。手でつかめないものなのに、身体がぽかぽかしてくる。途端に、意識がはっきりしていく。
「あっ、バルクライ様、駄目です!」
ダレジャが止めた時には遅かった。服がビリィッと破れて、再び全裸五歳児、桃子の登場である!
「戻った──っ!!」
桃子は歓喜の叫び声を上げた。これでようやくしっかり話せるのだ。それが嬉し過ぎて、五組の目に晒されているのをつかの間忘れていた。……いやん。




