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246、モモ、直感する~試練を乗り越えると一回り大きくなれるって本当かなぁ?~後編

*残酷描写あり

「お、落ち着いてくれ! あなたのお子が亡くなったのは十年前と聞いた。その頃、王妃様にはすでに自分の子供であるジュノラス様が生まれていたはず。つまり、正妻であられるナイル様にはあなたの子供を害してもなんのメリットもないんだ」


「わたくしに復讐して、わたくしの心を苦しめることが目的だったのよ!」


「復讐? あなたは王妃様に復讐されるようななにかをしたのか?」


 桃子は感情的に否定しても話が通じないことを感じ取り、爆発寸前の頭をフル回転させて、必死に正しい理由でアニタ様を宥めようと努力する。そこで、さっきアニタ様が憎々しげに名指しした相手にジュノ様がいなかったことを思い出す。なんで、ジュノ様だけ外したんだろう? バル様と王妃様に関係があって、ジュノ様に関係がないものが重要なことなのかもしれない。桃子は深く考え込む。なぞなぞのような問題は、意外なほど簡単に答えが出てしまった。


「リリィ様……?」


 その名前が桃子の口から出た瞬間、アニタ様の目が大きく見開かれた。体がガタガタと震え出す。その反応の大きさは異様だ。


「どうしてその名を知っているの!? まさか、まさかわたくしのしたことを知って……っ!?」


 桃子は危険を感じながらも柔らかく否定の言葉を重ねる。この人こあい! でもこのまま逃げたら追っかけてきそう。ホラー映画みたいに! 怖い想像に裸足で逃げ出したくなるけれど、ぎりぎりでなんとか踏みとどまって責任感だけで加護者様を演じ続ける。


「あなたがなにをしたのか詳しいことは知らない。しかし、仮にあなたの言う復讐が事実だとしても、あの王様が罪を犯した相手を見逃すとは私には到底思えない。そして、当時のバルクライ様の年齢や状況を考慮すれば、やはり犯人とするのは無理があるだろう。その時のバルクライ様は十か十一歳ほどの子供だ。そんな子供があなたや使用人達の目を搔い潜り、王子に毒薬を飲ませることが本当に出来ると思うのか?」


「誰かに頼んだのかもしれないわ! いいえ、きっとそうよ!! モモ、お母様の言葉を信じてちょうだい……あの二人に関わればあなたも殺されてしまうわ!」


「そんなことにはならない! アニタ様、罪のない人を犯人に仕立て上げるのは止めるのだ! そんなことをしてもあなたの心が晴れることはない。あなたはそれが真実でないことを知っているのだから!」


 桃子の言葉にアニタ様は両手で顔を覆い隠し、激しく嗚咽する。その涙がなによりの証拠だ。本当は認めたくないだけで、ずっと前から真実には気づいていたのだろう。それでも、アニタ様は否定の言葉を繰り返す。


「いいえ、いいえっ、いいえっ! わたくしの子は病死なんかしていない! ……すべて薄汚いあの女が悪いのよ……っ! 王族に嫁げる身分でもないのにあの方のお心を奪い、わたくしの貴族としての矜持をこなごなに砕いたあの女! ……モモ、王様はとても非道なお方よ。あの女を王宮に迎えるためだけに、拒んでいたわたくし達を側室として娶ったのだから……お父様はそれを受け入れろとおっしゃった。そして王様のお心を奪い返せと。誰もわたくしのことを見てはくださらない。王子まで生んでみせたこのわたくしを!」


「あっ、ぐ……っ」


 悲痛な声で叫んだアニタ様の両手が桃子の首に絡みつき、ぎりぎりと締め上げてくる。無表情で涙を流している茫洋とした瞳からは、正気が失われている。苦しい! 息が出来ない!


「バル、さ……レリ……ぐん、し……」


 誰か助けてっ! そう叫びたくても声にならない。酸素が足りなくなった頭がぼんやりと霞んで来た時、突然目の端でなにかが緑の光を放った。次の瞬間、それはすごい速度でアニタ様に突っ込んで来る。きらきらと輝く光の中にいたものを、桃子は薄れかけた意識の中で見つける。あ、れは────……。


「ぎゃあっ!?」


 ドォーンッという物凄い音がして、アニタ様の短い悲鳴が上げる。その体が真横に吹っ飛び、壁にヒビが入るほどの勢いで衝突するとドサリと床に落ちた。呼吸困難から解放された桃子は激しくせき込みながら、恐る恐る顔を上げた。それと同時に扉の外からレリーナさん達が飛び込んできた。


「ご無事ですか、モモ様!?」


「けほっけほっ、ぶ、ぶじなの……」


「無事じゃないだろう! レリーナさん、首に手の痕が残ってる。アニタ様に絞められたんだな? モモちゃん、返事をして。頷くだけでいいから」


「こほっ……んっ」


「──加護者様に危害を与えた罪で、ご側室様を拘束します!」


 咳をしながら素直に頷くと、護衛騎士のひとりだったユノスさんがそう宣言した。そして、数人がかりで近づくと、ヒビの入った壁の下に倒れているアニタさんの両手を後ろに縛り付けて運び出していく。


「ジャック、部屋を移りましょう。すぐにモモ様をお医者様に診て頂かないと」


「それでは、わたくし達がお医者様をお呼びしてまいります!」


「えぇ、お願いするわ。急いで来て頂いて」


「はいっ」


「オレがモモちゃんを運びますよ。ゆっくり動くから安静にしてるんだぞ」


 メイドのお姉さんが部屋から飛び出していくと、桃子はジャックさんに丁寧に抱き上げられた。レリーナさんがベッドからシーツを持ってきてくれて桃子を包んでくれる。その優しさにほっとしていたら、ジャックさんが動き出した。


 厚い肩越しにヒビの入った壁がよく見える。その近くの床にはバルチョ様がころりと落ちていた。ベッドにいたはずの存在がいるはずのない場所にいる事実に、内心大きく叫ぶ。やっぱり見間違いじゃなかったんだ! でも、これってどうなってるの!? 緑の光が助けてくれるように飛び込んできた時、桃子はその中にバルチョ様を目撃したのだ。もふもふの柔らかな頭がアニタ様の横腹に突っ込んでいく姿を。 




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