表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
243/372

241、モモ、迷う~お腹が満たされていればいつもより勇気も出るはず~後編

「謝罪は受け入れよう。しかし、その品は持ち帰るといい。加護者もここまで大げさにされて困惑しているようだからな。私の庭に入ったのはその侍女と聞く。失敗も経験よ。これから優秀な侍女となるように育てていけばいいさ」


「そうおっしゃらずに、どうかアニタ様の謝罪をお受け取りくださいませ。このまま帰ればわたくし共が叱責を受けます。──カメリア、お前からもお願いなさい」


「はっ、はいっ! 申し訳ございませんでした。どうかお受け取りくださいませ。お願いいたします、王妃様、加護者様!」


 侍女頭に厳しい眼差しを向けられたカメリアは真っ青な顔で震えながら頭を下げる。スカートの部分を両手できつく握りしめていて、悲壮な様子だ。昨日の失敗で主のアニタ様に物凄く怒られたのかもしれない。物静かな人の怒り方って怖そうだよねぇ。ずももももって背後に効果音がつきそう。必死に謝っている姿が気の毒になってくる。実年齢で言えば桃子の方が年上だし、出来ることなら助けてあげたい。


「謝罪は十分に受けた」


「しかし、それだけではアニタ様の気がお済みになりません」


「やれやれ、押しつけがましい謝罪だな。それほど詫びたいと言うのなら、主であるアニタが来ればいいものを」


「……王妃様、どうぞご理解を。アニタ様は王様のご側室でございます。故に、王様の訪れがあらばすぐさま応じられるようにいつでも後宮でお過ごしにならねばなりませぬ」


「そんなことは知っている。お前こそ知らないのか? 私は遠まわしな言葉のやり取りは好かん! 言いたいことがあらば、直接申してみよ!」


 まるでライオンがガオゥッって吠えたみたい。怒鳴ったわけじゃないのに、びりびりするような気迫に、侍女頭の顔色が変わった。自分が誰に不躾な言葉を吐いたのか今更ながらに悟ったのだろう。嫌な態度を取るのはよくないよ!


「も、申し訳ございません。主を思うあまりに出てしまった言葉です。お許しください。……アニタ様は毎年この季節になると気を塞ぎがちでございます。理由はお察しください。どうか、ご慈悲の心でお受け取りくださいませんか?」


「そちらの言い分はわかった。事情は理解出来る部分もある。そういうことならば受け取ろう。モモも、ドレスはそれで構わないか?」


「今回のことが丸く収まるのならば。あなた達には、私が喜んでいたとアニタ様に伝えてほしい。ただ、招待は過剰な謝罪だと思う」


「加護者様……っ」


 カメリアに縋るような声で呼ばれた。その表情が助けてって言ってる気がして、桃子は迷った。アニタ様が本当はどんな人なのかはわかっていないけれど、他の側室達とのやり取りや、これほどに侍女のカメリアが脅える姿を見るかぎり、良い人判定は下せないことはわかる。


 ……ここで断ればこの子が辛い目に遭うかもしれないよね。そう気づいてしまった桃子は、迷いを振り切るとカメリアに口端だけ上げて笑いかけた。加護者モードだから全開の笑顔は見せられないけれど、安心してね! って伝えたかったのだ。そうして、一つの大きな決断を下す。


「その代わり、アニタ様には私の部屋に招待したい。それなら謝罪という形に拘らず一緒に楽しめると思うのだが、どうだろうか?」


 桃子の申し出が思わぬものだったのか、一瞬、お部屋の中にいる人達の空気が動いた。レリーナさんとジャックさんは口を閉ざしているけれど、驚いている様子だ。ごめんよ、勝手にこんなことを言い出して。本当は断るべきなのかもしれないけれど、やっぱりこのままにはしておけない!


 侍女頭はなにかを考えるように目を細めて、冷静な表情で桃子の提案に同意を示した。


「加護者様のご提案ならば、アニタ様もお喜びになられると思います」


「そうか。ではその形を取ろう。準備に少々日を頂きたいので、アニタ様のご予定が空いていれば五日後にご招待したい。もしご予定がおありならば調整するので、こちらに申し出てくれ」


 アニタ様のお部屋は後宮の中の一室だ。そこは桃子の味方が少ないし、なんとなく危険な気がした。だから、桃子は代案として守りが固い自分のお部屋に招く形を取ったのだ。王妃様が桃子の意志を確かめるように柔らかな口調で尋ねてくれる。


「モモも忙しいだろうに、いいのか? 無理をして開くことはないぞ」


「お気遣いいただきましてありがとうございます、王妃様。せっかくの機会なのでご側室の方ともお話しをしてみたいと思います」


「そうか。私の元にもまた遊びに来てくれ。モモとの恋ばなはとても楽しかったぞ。──お前達、アニタに言っておけ。この件はこれで終わりだ。謝罪も責めもこれ以上は必要がないと」


 上手な言い方! 王妃様がアニタ様にさりげなく釘を刺したことに桃子は気づいた。カメリアをこれ以上責めることがないようにと言ってくれたのだ。 


「ありがとうございます、王妃様、加護者様」


「本当に、ありがとうございます!」


 2人が再び深く頭を下げる。桃子はレリーナさんとジャックさんに目を向けた。後でちゃんと説明するからね! それに護衛騎士のユノスさん達にも協力をお願いしよう。桃子はお茶会という名の戦いに備えて、出来ることを考え始めていた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ