24、モモ、緊張の対面を果たす~神様にもお茶目な一面があるんだって~中編
ミラは恥ずかしそうにソファに座り、バル様と向き合う。
「騒いでごめんなさい。どういったお話ですの?」
「この子をよく見てほしい。どこかおかしな部分はないか?」
バル様に両手で抱えられて、ミラの前に差し出される。大きな赤い目が桃子の中を見通すように細められた。
「……セージが二種類混ざっているようですわ。片方はこの子のものでしょうけど……量がとても少なくて、今もすごい速さで減り続けています。こんなのは見たことがありません! この子はなんなのですの!?」
「お前の目は正しい。この現象には神が関わっているようだ。詳しくは言えないが、五歳ほどの年齢が、今朝はこの通りに変わってしまった。本人も意識が幼児と混じっているようで、難儀している」
「まぁ! あなた、ここ数日の間に不思議な夢は見なかった?」
ローテーブル越しに顔をのぞき込まれて、桃子はううんと頭をひねらせた。夢、夢かぁ。そう言えば、お風呂で目が覚める前に何かを見たような気もするけど、覚えてないんだよねぇ。
「わきゃっにゃい」(わかんない)
「え?」
拙い言葉で伝えれば、きょとんとされてしまう。その顔、可愛いね! でもやっぱりそうなるよねぇ。これ伝わる方が変だって。
「わからないそうだ」
バル様が平然と訳してくれた。伝わってるーっ!? 桃子は驚愕する。バル様の理解力レベルマックスなの? 今の言葉なんて宇宙語みたいなものなのに、すごい。よくわかったね。
「このくらいなら問題ない」
さらりと答えるのが男前だ! ときめいていいですかって聞きたい! バル様はモテそうだね。カイもキルマもディーもモテそうだけど、四人の中で一番異性に好かれそうなのはバル様だね。なにしろ、ミラのような年齢の少女に、結婚してほしいとまで言われるほど好意を持たれているもんねぇ。
でも、ミラはともかく、他の人とバル様が結婚したら……考えたらなぜか心臓が痛くなった。レモンでも絞ったみたいに、胸の何処かがぎりぎりする。……もし、そうなったら、お膝に乗ったり、撫でたりも、してくれなくなるのかな? それは、ちょっと悲しい、ね。
「モモ? 表情が暗くなったな? なにを考えていた?」
「にゃーしぉ」(ないしょ)
「そうか。では気が向いたら教えてくれ」
そのまま会話をする二人に、ダレジャが感心したように頷く。
「バルクライ様はこの子の言葉がおわかりになるのですな?」
「あぁ。モモの顔を見ていればなんとなくわかる」
「おぉ、そうですか。良い関係を築いているようですな。幼子であろうと貴方様のお心を宥める者であるならば、その子供は貴重な存在でありましょう。けして、離してはなりませんよ」
「そのつもりだ」
どのつもりだ? 桃子は理解出来ないままに進んでいく話に、内心で突っ込みを入れた。聞きたいことはあるけど、今はあまり口を開きたくない。
膝に下された桃子は恥ずかしさを誤魔化すように、バル様のお腹に顔を隠した。そうしてからはっと気付く。これ、ミラに嫌われるんじゃ……っ!?
必死になって身体を戻そうとモゾついていたら、窘めるように後頭部を撫でられた。
「落ち着け」
バル様、なでなでしないで。これ、落ち着いちゃ駄目だと思うの。だけど表情を見られているわけでも言葉にしているわけでもないので、いくらバル様が翻訳レベルマックスでも、伝わらなかった。
「……では、わたくしが加護を授けていただいている美の女神アデーナ様にお聞き致しましょうか? わたくしの声ならば、あるいは答えて下さるかもしれません」
「頼めるか?」
「えぇ! では、美の女神アデーナ様、ミラ・グロバフの声をお聞きになられたなら、我が家にお越し下さいませ」
もぞもぞしてようやく正面に顔が戻ると、なんか話が進んでいたみたい? ミラが目を閉じて両手を握り合わせると、祈るように頭を下げていた。
その瞬間、天井が紫色にスパークして空間が歪むと、そこからとんでもない美女が現れる。
メロンのようなお胸にくびれたお腰、長いまつげとぷるんとした唇。髪は美しい金色で、目はエメラルドのような緑。着ている衣装は薄布一枚で出来たドレスで、胸の谷間を強調する様に前がざっくり開いている。両耳を飾る燃えるような赤い宝石がきらりと光った。
「あら、他にも人間がいるじゃない。こんなとこに呼び出すなんて、どうしたのかしら?」
「アデーナ様、お呼び出しして申し訳ありません。実は、この赤ちゃんのことでお聞きしたいことがあるのです」
「あたくし達にとってみれば、生きとし生きる人間すべては頑是ない子供と変わらないわよ。でも、その子供……いやーんっ! ガデスのセージを感じるわぁ」
美の女神様、略して美神様は嬉々として、バル様の腕から桃子を奪い取ると、その魅惑のお胸にぎゅうぎゅう抱きしめられた。ち、力加減をお願いします! ぎゅうぎゅうから解放されると、まじまじと美貌が近づいてくる。
「もしかして、ガデスの加護を与えられているのかしら? すこーし、見せてもらうわよ? どれどれー?」
あ、あのぉ、それ以上近づけられると、ちゅうしちゃうよ? 緑の目がパチパチと瞬き、美神様は、見てる者を虜にするような、美しい微笑みを見せる。