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234、モモ、悪戯に巻き込まれる~親子って意識しなくてもどこかしらが似てくるもの~前編

 桃子は背筋を伸ばして石のように硬直していた。……私は置物。私は置物。心の中で呪文のように唱えてみても状況は変わらない。


「どうした? 菓子や果物は喜んで食べていると聞いたが、これは好みではないのか?」


「えーっと、王様、なんでこうなっているのでしょうか?」


 連れてこられたのは執務室の中で、桃子はなぜか椅子に腰がけた王様のお膝の上にちょっこんと乗せられて綺麗にカットされたリンガをフォークで口元に差し出されていた。うん、意味がわからないよね!?


 すんごい重大なことが待ってるのかと思って、緊張に緊張を重ねるくらい緊張していたのに、蓋を開けばどういうことなのか、桃子1人が王様の執務室に招かれたのである。お部屋の外ではレリーナさんとジャックさんが待機していてくれるけど、お助けをーって叫ぶわけにもいかないし、桃子はひたすら呪文を唱えて現実逃避にいそしんでいたのであった。実際には出来てなかったけど! 


 いつまでも差し出されたままのリンガの誘惑に負けて、食べたいよぅ! という五歳児本能に従ってぱくっと食いつく。しゃくしゃくした食感と甘み、そして、果汁のみずみずしさが素晴らしいです! さてはお高いリンガだな! 桃子はもぐもぐしながら確信した。お城で出されるものだから、お高くないものの方が少ないのかも? 


 美味しさに一瞬緊張を忘れた桃子は、王様がフォークをお皿に戻したことで我に返る。口の中のものをごくんと飲み込んでそろそろっと顔を上向けてみると、どこまでも冷静な青い目が桃子を観察するように見下ろしていた。


「城に招いたからには、王たる私にもお前を気にかける義務があるとナイルに言われた。1度くらい、膝に抱き上げて果物でも食べさせてみよと。あれに口で勝てるとは思わぬ。故に、執務の間の休息を縫い、こうして招くことにしたのだ」


「お仕事を頑張ってる王様に、私を理由にして王妃様が息抜きをさせてあげようとしたんじゃ……?」


 きっとこれが正解だよね! 気の使い方がほんのり斜めかもしれないけど、真心はあると思うの! でも、疲れたように眉間を揉んでる王様を見てると、奥さんに振り回されている感が出ていて、バル様そっくりな美形さんなのにってちょっぴり気の毒になった。


 パーカーさんと対峙していた時の威圧感は減ってるし、なんとかフォローしてあげたくなる。王様は細くため息をつくと椅子の肘置きに右腕を立てた。頬杖をついて流し目を向けられると、気だるげな色気がぶわぁっと放出される。バル様のお父さんなだけあって、こんなとこも似てる!


「あれにそのような考えがあるのか……? モモと話をさせようという意図はあるかもしれぬが、膝に乗せよなどと、面白がっているだけであろう」


 あり得なくはないところが王妃様らしい。王様から表情を引き出す為に、ティータイムに引っ張り出していると言っていたのを思い出す。気づかい交じりの可愛い悪戯のつもりかもしれないね。よしっ、ここは良い方に考えよう! いつまでも緊張してばかりは失礼だし、せっかくの機会だから王様にも頑張って慣れていくの! 桃子は心の中でエイエイオーと腕を振り上げた。


「しかし、子供を膝に置くなど初めてのことよ。想定していたよりも随分と軽い」


「お、降りますか?」


 むしろ降ろしてください! 心の中の叫びを隠して桃子は、もぞもぞとお尻を動かした。嫌じゃないんだけどね、王様のお膝は緊張で落ち着かないの。お話しなら向き合っても出来るから、そっちにしたい。忙しく働いている心臓の為にも。そんな桃子に上から命令が降ってくる。


「動くな」


 ぴたっ。桃子は再び置物になった。さぁ、心を無にするのです……無に……無に……無理! そんな心の叫びが聞こえたわけではないだろうが、王様がぎこちなく桃子の頭を撫でた。大きな手が不器用にゆるりと動く。


「柔らかで脆弱な身体だな。……この小さき頭など、私の片手で握り潰せそうだ」


「つ、つぶ!?」


 淡々と恐ろしいことを言う王様に、桃子は一瞬ビクゥッと跳ねた。動いちゃった! 潰されちゃう!? ムキムキな人が片手でりんごをぐしゃっとするみたいに!? ビクビク脅えながら目の端で王様をちら見すると、静かな目がゆっくりと細められていく。怒ってますかぁ!? 


「そう脅えるな、ただの軽口よ。バルクライやジュノラスにもこのように幼き時があったはずだが、王族として生まれた者は甘えを封じる為に、ある程度の年齢までは親子の時間を取らぬものだ。ナイルはそれを厭ったが、私はそのしきたりに従った。故にお前のような子供が物珍しいのだ」


 威圧感が減ると、王様のしっとりと落ち着いた声音は耳によく届く。王様も本当はバル様達が子供の時に関わりたかったってことかな? 王様は王様っていうお仕事をしてるから、なかなかお父さんっていう役割が出来なかったのかもね。


「王様から見て、バル様はどんな子供でしたか?」


「バルクライは容姿だけでなく性質も私に似たのか、随分と無口で冷えた空気を纏う子供であった。口さがない者に庶子と蔑まされようと、泣きもせず反論することもせず、ただ言われたことを黙々と熟していたようだ。少しでも早く自らの力を得たかったのだろう。兄よりも精神的な成熟が早かったのは、実母であるリリィがいなかったせいかもしれぬな」





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