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232、モモ、発見する~緊張した時はおまじないを発動させよう~中編その三

「美人に詰め寄られるなんて、僕ときめいちゃうよ。お嬢さんはモモちゃんのことが大好きなわけね。それなら、試供品が出来たらお嬢さんにもあげるよ」


「本当ですか! 感想等が必要とあらばご協力は惜しみません。楽しみにしておりますので、ぜひモモ様の頬っぺたをよろしくお願いいたします!」


「お礼は僕とのデートでいいよ」


「デート、ですか? いえ、しかし、モモ様の頬っぺたの為ならば……」


「それはダメ! レリーナさん、自分をそんなふうに安売りしないでください。オレが代わりにお支払いします! さぁ、パーカー様、オレにどうぞなんなりとおっしゃってください!」


 誘惑の流し目をレリーナさんに向けられて、ジャックさんが慌てて立ち塞がる。恋しい人を自分の大きな背中に隠して身体を張る姿は、男らしいものだった。レリーナさん相手にはいつも緊張してるけど、いざとなるとこんな行動も取るんだねぇ。これはレリーナさんもどきっとしたかなぁ? ジャックさんの背中にすっぽり隠れてるモテモテ美人さんを見上げると、さすがにちょっぴり目を大きくしてる。だけど残念ながら、ときめいたりはしてなさそう。うーん、乙女心って難しいねぇ! 


「へぇ、君はレリーナちゃんに惚れちゃってる感じか。肩代りしようなんて男らしいじゃないの。いいね、君。なんて名前?」


「ジャック・ランスです! レリーナさんに手は出させないんで、そこんとこ覚えといてくださいよ!」


 びしぃっと指を突き立てて噛みつくジャックさんに、パーカーさんが体をくの字に曲げて笑い出す。


「あははははっ、この僕にそんなことを言うなんていい度胸だねぇ、君。気にいっちゃった。そんなジャック君の度胸に免じて今回はタダでいいよ。魔法関係で困りごとがあったらいつでも僕を訪ねておいで。君達なら優先的に引き受けてあげよう」


「魔法……」


 桃子はバル様と魔法の練習をしていたことを思い出した。何度呼びかけても精霊さん達が途中でUターンしていく原因もこの人ならわかるかもしれない。桃子はそわそわしながら両手をきゅっと握る。


「僕は主に開発を手掛けているけれど、魔法全般が専門分野だよ」


「あの、パーカーさん、ちょびっとだけ相談してもいい?」


「さっそく困りごとかな? いいよー、どんと来い!」


「私魔法を練習中なんだけどね、いつも途中で精霊さん達がどっか行っちゃうの」


「途中ということは呼びかけに応えようとはしてるってこと? 実際に見た方が確かだから、ちょっと試しにここでやってみてよ」


「でも、失敗しちゃうかも……」


「僕がいるんだから暴発させたりしないよ。危ない時はちゃんと打ち消してあげるから、安心してやってごらん」


 優しく見守るような眼差しを向けてくるパーカーさんに、桃子は躊躇いながらも頷いた。するとベンチの前に横向きに立たされる。ちょうど左側にレリーナさん達が見える状態だ。そして背後にパーカーさんが立つ。


 これで上手に出来るようになれば、バル様達に魔法のことで心配かけなくてすむよねぇ。ほんのり伝わる背中の温もりを信じたい。心の中の五歳児もいい人認定してるもんね。レリーナさんに視線を向けると静かな眼差しに見守りますと言われた気がした。止める様子がないってことは私の判断に任されているってことだ。それなら、ここは自由にさせてもらおう!


 桃子は両手を前にぱっと開くと、気恥かしさを我慢してバル様に教えてもらった通りに、魔法を出すための言葉を口にする。


「風の精霊よ、助力を乞う」


 身体からセージが抜けるのを感じた。綺麗な緑の輝きと共に風の精霊達がどこからともなくふんわりキラキラと桃子の手の前に集まってくる。しかし、それは形になる前にぷしゅーっと霧散してしまう。やっぱり去っていく精霊達に桃子はがっくりと肩を落とした。


「はぅっ、いつもこうなっちゃうの……」


「なるほどね。言葉も間違ってないし、精霊も呼びかけに応じようとしてた。だけど、モモちゃんは呼びかける時に少し雑念が混じってる感じがするね? いや、雑念って言葉じゃ難しいか。簡単に言うと、恥ずかしいって思ったんじゃない?」


「あっ!」


 言われてみれば、練習の時に魔法の呪文を言ってる感じが、魔法使いの真似っこをしてるみたいで照れちゃってた気がする。それが原因だったの!?


「その気持ちがあるから、精霊も呼びかけに応じていいのかわからなくなってたんだろうね。恥ずかしいって思うなら、言葉を変えてみる? 精霊にしっかり伝わりさえすれば魔法は発現するよ。モモちゃんなら……『風の精霊さん、力を貸して』って感じかな?」


 パーカーさんの言葉に、目の端に映ったレリーナさんがぴくっと反応した気が……? すんごく熱がこもった目で私を凝視してるんだけど、あの……? あっ、ジャックさんが赤いお顔でそっとレリーナさんの肩を叩いた。振り返ったレリーナさんはジャックさんとなにかを話してる。納得したように頷いた後は、さりげなく視線を斜め下に向けてくれた。ほっ。私が緊張してるのを見て、ジャックさんがあまり見ないであげた方がいいってレリーナさんに言ってくれたのかも。ごめんよ、頑張るからね! 桃子は視線を前に戻すと、余計な力みを抜くようにすぅはぁと深呼吸してしっかりと手を前に突き出す。 


「うん、やってみる! ──風の精霊さん、力を貸して!」


 再び桃子が両手を前に出して言われた通りに口にすると、身体から再びセージが抜ける感覚がして、再び緑の輝きがゆっくりと集まり出した。キラキラした輝きがぶつかりあうように光ると、桃子の両手の前で小さなつむじ風が発現した。





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