231、モモ、発見する~緊張した時はおまじないを発動させよう~中編その二
「えっ!? それって、加護者のお役目を果たした時に精霊さん達がきらきら出てきたのを考えたところの偉い人!?」
「いやー、見えないってよく言われるんだよね。僕って偉い人オーラ0だから。あの仕掛けね、実は僕が発案したんだよ」
「すごい! あの時とっても綺麗で感動したの!」
「綺麗と褒めてくれてありがとう。素直だねぇ、君。あぁ、この言い方は無礼かな? 失礼しました、加護者様。護衛のお嬢さんもそこの君も騒がせて悪かったね」
「こちらこそ不審者扱いをして申し訳ございませんでした!」
「……本当にすみませんでした!」
「いーのいーの。こんなとこで寝てた僕も悪かったからさ。とある研究に行き詰ってて、気分転換に王妃様の庭園にお邪魔してたんだけど、日差しの暖かさで眠くなっちゃってね」
「パーカーさんもお疲れなの?」
「そうそう。僕ってばお疲れなのよー。……っと、軽口で失礼。加護者様に対する態度ではなかったですね」
「ううん! 私にも普通にお話ししてほしい」
「あ、そう? じゃ、そうさせてもらうよ。畏まるのも畏まられるのも疲れるから、僕としてはラッキーってもんだけど、加護者ちゃんが偉ぶらない子で本当によかったよ。あの無表情、無感動、無動揺のバルクライ殿下が後見人としてついたって聞いてたから、君のことがずっと気になっていたんだ。さっきは、僕の手首を触ってなにをしてたの?」
パーカーさんはあっさりと応じてくれた。桃子も出会い頭が素だったから今更装えないし、バル様もジャックさんに公式の場以外は普通で構わないって言ってたもんね。だから、こう言っても大丈夫なはず!
「あんなところでぐったりしてるんだもん。重病人かと思って脈を測ってたの。でも、脈がなかったから、いきなり手を掴まれて心臓が飛び出しそうになったよ」
「あっはっはっ、それはびっくりさせちゃったね! じゃあ、もう1回脈を測ってみようか? 僕の手首のここ、この部分を触ってごらん。どう? トクトクいってますか、モモ先生?」
自分の手首の端を指差して、パーカーさんがそう言う。桃子は誘われるままに小さな指をぴたっと当ててみる。さっき計ろうとした時はまん中だったから、脈が取れなかったんだねぇ。指を押し返す小さな鼓動に、桃子は笑顔で返事をする。
「いってます! 脈ありました!」
「よく出来ました。さすが名医さんだね」
ぽんって軽く頭に手の平が乗せられた。お子様の扱いが上手い! 桃子の中の五歳児が白い旗を良の字の方に傾けていく。いい人判定が出そうです。パーカーさんに興味が出た桃子は、好奇心いっぱいの目を向ける。
「パーカーさんはどんな研究をしているの?」
「いろいろとしているけれど、今は光魔法とこれについて詳しく調べているところ」
そう言いながら白衣のポケットを探ってなにかを取り出す。桃子は手の平に乗せられたものに目を丸くして固まる。心の中の五歳児も白い旗の傾きをぴたっと止めた。それは以前桃子が折った折り鶴だったのである。若干よれてはいるものの、色形といい間違いない。パーカーさんの目が悪戯っぽく細まる。
「面白い形をしてるでしょ? この中にはね、風の精霊が宿っているんだ。けど、不思議なことに僕が同じように折っても精霊はちっとも反応しなかったんだよね。つまり、これは折った人のなんらかの力が作用したってことになる。これがあれば、セージの弱い人も魔法が使えるようになるかもしれない。だから僕としてはだよ、ぜひ折った人に協力してほしいわけ。加護者ちゃんはバルクライ殿下とも仲良しでしょ? 折った人のことをなにか聞いたりしてない?」
これって、絶対にバレてるよぅ!! すみませんでしたぁっ、犯人は私です! そう自首したくなった桃子だが、大粒の冷や汗をダラダラと流すような気分で急いでお口のチャックを閉める。
「ごめんね、お役に立てそうにないの……」
目がふよっと泳ぎ出すのをなんとか引き留めつつ、桃子はそう言って謝った。今回は口ごもりませんでした! だけど、罪悪感で心がずきっとする。本当のことが言えないから謝るしかないんだけど、うううっ、痛い。疲れるほど頑張って研究してる人に、持ってる情報を教えてあげられないって心苦しいなぁ。だからって、バル様と約束したから勝手には話せないよねぇ。桃子はお詫びの気持ちを込めて、ぺこりと頭を下げた。そんな桃子の頬を大きな手が包み込み、もにゅっと挟まれた。……うぶ? タコの口にされたまま瞬けば、パーカーさんが屈託なく笑っていた。
「なぁんて冗談だよ。お子ちゃまがなぁにを気にしてるのかなぁ? いずれ僕がお伺いすると、バルクライ殿下に伝えておいてもらえる? 今はそれで十分だよ」
「むんっ」
タコのまま頷くと、変な声が出た。新種の動物の鳴き声みたい? パーカーさんは最後にもう1回桃子の両頬をきゅっと挟んでから手を放す。そのまま人差し指と親指で自分の顎を持つように触れると、考えるように視線を下に向ける。真剣な顔をしてどうしたの?
「子供の頬って癖になりそうな感触してるね。この感触を再現して商品にすれば売れるかな?」
「それはつまり、モモ様のあのすべすべぽんより頬っぺを手元に置いておけるということですか!?」
レリーナさんが食いついた!? 出来たとしてもそれは私のほっぺじゃないから! 取り外したりは出来ないからね! 桃子は慌てて両頬を自分の手で隠した。こちら非売品です! 魔法開発部って生活に繋がる魔法だけじゃなくて、そういう商品も売ってるの?




