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230、モモ、発見する~緊張した時はおまじないを発動させよう~中編

「本日のご予定はどうなさいますか?」


「お散歩をしたら字の練習をするつもり。2人に先生をお願いしてもいいかな?」


「えぇ、もちろんです」


「引き受けた! 今日はどの絵本にする?」


「『働き者のうさぎさん』がいいの!」


「ははっ、やっぱりそれか」


 最近の桃子のお気に入りの絵本である。キルマからプレゼントされた絵本の中の一冊で、可愛いうさぎが主人公なのだ。


 そのうさぎはとある国のお姫さまのペットであった。ある日、主が隣国の王子様に恋をしているのを知って、その恋を成就させるために動き出すのである。けれど、そこを姫に恋をしてる悪い国の王子が邪魔をする。姫からの手紙や、王子からの花を運ぶうさぎに、ヤギを差し向けて手紙を食べさせようとしたり、犬をけしかけて追い返そうとしたりするのだ。しかし、そこは頭のいいうさぎが、家の屋根に逃げて事なきを得たり、水で身体を洗って草木の汁で匂いを消したりと頭を使ってやり過ごすのである。


 そのシーンを読む度に桃子の中の五歳児がハラハラわくわくしてる。そんなこんなの妨害を乗り越えて見事に贈り物を届け続けたうさぎさんのおかげで、お姫様と王子様は結婚することになるんだよ。働き者のうさぎさんはご褒美に人参ケーキをもらって大喜びでめでたしめでたしなの。描かれてるイラストもほのぼのする可愛いものなのがいい。1ページの字の量が3行~5行程度の短いものだから字の練習をするにはうってつけなのだ。


 お話しを思い出してたら、身体がむずむずしてきた。五歳児が遊びたい! って手を挙げて主張してるものだから、欲望の赴くままに、うさぎのようにぴょこぴょこと両足で飛ぶように進んでみる。あっ、これ、楽しい! いやいや、危ないからちゃんと歩かないとダメでしょ。 バル様にもめってされるよ? 私今日もいい子だったもん、もっと遊ぶの! 心の中でちっちゃい桃子とおっきい桃子の言い合いが止まらない! 


「うにゃーっ!」


「………………はっ!! モモ猫様の愛くるしさに数秒呼吸を忘れていました」


「それ忘れたら命に関わる奴ですよ!? って言うか、モモ猫様ってなんです!?」


「猫の真似をしていらっしゃるモモ様以外になにがあると? 死因がモモ様ならば、たとえ心の臓が止まろうと私に悔いはないわ」


「止めて! オレとモモちゃんが悔いますから!」


 心のせめぎ合いに頭がボーンッとなって叫んだら、レリーナさんがとんでもないことを言い出した。で、でも、ジャックさんがちゃんと止めてくれてるし会話に繋がってるから結果オーライ? と思った所で落ち着いた。バル様が居ないから五歳児の桃子が寂しん坊になってるのかも。ストレス解消には運動だね! ちょっとお庭の中を走らせてもらおうかな。


「レリーナさん、お庭を走ってもいい? 身体がうずうずするの」


「体を動かしたいのですね。私達に見える範囲なら構いませんよ」


「はーい。じゃあ、行ってきまーす」


 よーい、ドン! 桃子はさっそく自室の前を横切るように広いお庭を走り出す。今日も待機してくれている護衛騎士のお兄さん達に手を振りながらとっとこ進む。ちょっと走っただけなのにはぁはぁ息が上がっていく。負けない! 短い足を頑張って動かしていくと、生垣の前のおしゃれなベンチに、ぐったりと横たわっている人を発見した。


 たぶん男の人だと思う。バル様に比べると小さいけど手ががしっとしてるもん。真っ白なよれよれ白衣と、寝グセなのかな? 乱れに乱れた紫髪。身体は仰向けで片手が地面に向かってぶらりと落ちてる。ひいっ、なんかホラーにしか見えない!? もしや、お城でサスペンス!? 愛憎渦巻いちゃう系の事件発生なの!? でも、具合が悪いだけかもしれないし……っ、怖がって逃げちゃ駄目だよね。こう言う時はまず安否確認をすべし!


「い、い、い、生きてますかーっ!?」


 桃子は泣きそうになりながら思い切りよく駆け寄って、ぶら下がっている手をぎゅぅっと掴む。体温、あり! 脈は…………ない!?


「お、お亡くなりですかぁ……っ?」


 うりゅっと目に涙が滲んでくる。どうしようどうしよう!! って、ぷちパニックになっていると突然がしっと手を握られた。


「ふぎゃあぁぁぁ────っ!?」


 まさかのホラー体験に、桃子は叫んだ。


「モモ様!?」


「どうした、モモちゃん!」


「加護者様!」


 自室の方向から、レリーナさんとジャックさん、護衛騎士のお兄さんが駆け付けてくれる。桃子はぷるぷる震えながら、がっしり掴まれた腕をぶんぶん振りまわしてなんとか振り払おうとした。


「ひやぁー! 成仏するのーっ!」


「う、るさ……あれ? 君、どこの子?」


「生きてた!?」


「いや、生きてますけど!?」


 思いっきり突っ込まれて桃子は、男の人のぱちぱち瞬く緑の瞳をまじまじと見つめてしまう。若草色の柔らかな色合いで、年齢がわかりにくい顔立ちだ。男の人にしてはわりと小柄で華奢な印象。童顔だからか、二十代にも三十代にも見える。駆け付けたレリーナさんが桃子の傍に立つ。


「加護者様からその手をお放しください!」


「わぉ、美人さんは怒っても綺麗だね。って、えっ、加護者? 君、加護者だったの? つまり君がバルクライ殿下の元にいるっていう──……」


 驚いたように起き上がったその人は、桃子から手を放しながら好奇心に柔らかな緑の瞳を煌めかせる。楽しそうに口角を上げている。悪意のない笑みに、桃子のぷちパニックも自然と治まっていく。これだけ元気だから間違いなく生きている人だ。レリーナさんが即座に桃子を後ろに庇うと、ジャックさんがそんなレリーナさんの前に立つ。腰の剣に手をかけている。


「レリーナさん、荒事ならオレの役割ですから、モモ様と後ろに下がっていてください!」


「護衛のお二方ご安心を! その方は魔法開発部の総責任者であられるパーカー様でございます。加護者様に危害を加えるような方ではございません」


 桃子の敬称を改めて警戒を露わにするジャックさんを、最後に追いついた護衛騎士のお兄さんが早口で止める。




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