23、モモ、緊張の対面を果たす~神様にもお茶目な一面があるんだって~前編
そのお屋敷は、外観こそ普通の白だが、それ以外が言葉を失うほどド派手であった。二階のバルコニーは金ぴかの柵がついているし、正面の玄関の扉は真っ赤で、執事に案内された先で出迎えてくれた男は貴族らしく赤い服を着ていた。
男は三十四、五くらいだろうか。少し暗い金髪で、赤い目をしていた。やっぱり派手だ。その目がバル様の腕にお邪魔している桃子を驚いたように一瞬見て、にっこりと笑顔になった。
「これはこれは! お子様と一緒とは真に喜ばしい!! ようこそお越し下さいました。バルクライ様、護衛殿。申し訳ない、私は貴方様がご結婚したとは聞き及ばず、祝の品が準備出来ておりません。至急ご用意させて頂き、後ほどお届けを」
「いや、気遣いは無用だ。この子はオレの子ではない。ミラに至急尋ねたいことがある」
「ご連絡をいただければ、こちらからお伺いいたしましたよ。バルクライ様のためならば、このダレジャ、どこにでも行きましょう!」
一回で覚えられる名前が来ました! ダレジャさん。鼻息も荒くそう言う男に、バル様の顔に苦笑らしきものが浮かぶ。そこに嫌悪の色はなく、ただ面映ゆそうな様子があった。ダレジャさんはこの通りに裏表のない熱血系の性格のようだ。
「健勝のようだな。オレは十分助けられている。オレよりも陛下と兄上の力になって差し上げてくれ。それで、ミラは在宅しているか?」
「はい、すぐにここに呼びましょう。お二人とも、どうぞお座り下さい。──ミラを賓客室に連れて来てくれ」
「かしこまりました、旦那様」
傍に控えていた執事が静かに頷いて室内を出て行く。賓客室のソファを勧められて、バル様とカイが一緒に腰を下ろす。貴族らしい貫禄があるのに、偉ぶらない様子は好感を覚える。このおじさん良い人そう!
廊下の方からパタパタと走る音がすぐに聞こえてきた。あれ? 音が軽い?
桃子が不思議に思っていると、両開きのドアが突撃されたようにバーンと開いた。そして女の子が飛び込んでくる。
ダレジャさんとそっくりな金髪と赤い瞳の幼い顔立ちの少女だ。年は桃子の世界で小学三年生くらいで、豪華な赤いドレスを身に着けていた。髪も赤いリボンで編み込んで結いあげている。おぉ、本物のお姫様だ! 初めてみるお姫様に密かにテンションが上がる。
「バルクライ様!」
少女は嬉しそうに笑顔をみせて、バル様に走り寄ってくる。しかし、バル様の腕の中に桃子がいるのを見つけるとその表情が凍り付く。え? どうしたの?
「酷いわ、バルクライ様……ミラに会いに来てくれたと言うから走ってきたのに、そんな子供を膝に乗せてるなんて! わたくしというものがありながら、どこの女と結婚したんですの!」
「結婚はしていない」
「止めなさい! バルクライ様はお前の結婚相手にはなれないと何度も説明したはずだぞ。殿下を困らせるんじゃない」
「お父様、わたくしはバルクライ様じゃなければ嫌! バルクライ様より格好いい男性なんていないもの」
「いい加減にしなさいっ! 後でお母様に叱ってもらうぞ」
「いーや! 絶対にバルクライ様と結婚する!」
あまりにも頑固に主張する娘にダレジャさんは頭が痛そうな顔で、太いため息をついた。それから申し訳なさそうにバル様に頭を下げる。
「見苦しいところをお見せして申し訳ない。どうか、子供の戯言とお聞き流し下さい」
「父親も大変だな」
「面目次第もございません」
「まだ幼いですからね、淑女としての気品を身につければ、社交界の男どもが群がるほど美しい女性になりますよ」
「だといいのだが……」
カイのフォローにもダレジャは困り顔だ。ミラのおてんば具合に随分と手を焼いているのだろう。この年齢の我儘なら、可愛いものだと思うけどなぁ。
桃子自身は幼少期から両親に我儘を言えるような状況にはなかったので、素直に甘えを見せているミラを少し羨ましく思った。
一歳児が寂しがったのか、親指をしゃぶりたくなる。それを我慢して、お腹に回ったバル様の手に両手で触ってみる。あったかい。
「モモ?」
「にゃーでみょにゃいにょ」(なんでもないの)
「バルクライ様っ! そんな赤ちゃんよりもわたくしの話を聞いて下さいませ!」
怒ったミラがバル様に訴えるように近づいてくる。それをカイが阻んだ。
「お嬢様、興奮しすぎですよ。彼女は赤ん坊です。あなたの方がお姉さんだ。幼い子供には優しくしてあげなければ、モモが泣いてしまいますよ?」
「わたくしはただ……っ」
「バルクライ様にお会いしたかったんですよね? ですが、バルクライ様は普段は師団長を務めているお方なので、とても忙しい。賢いお嬢様なら、それをわかっておいでのはずだ。今回は、お嬢様に大事な用事があって来たのです」
「えぇ……」
「お嬢様の力が必要なんです。あなたなら、バルクライ様の力になってくれますよね?」
「それは、もちろんよ!」
「それじゃあ、お嬢様はお父上の隣に座ってください。オレ達と一緒にバルクライ様の話を聞きましょう」
「うん」
あれだけ興奮していたミラを、カイはあっという間に落ち着かせてしまった。子供の扱いがとても上手い。ううん、この場合は女の子の扱いが上手い、の方が正しい? やっぱりホスト属性なだけあるね!