227、カイ、その結束に感じ入る 中編その二
捕らえた男を引っ立てて混戦から抜けると、バルクライとギャルタスも刺客の男達を連れてくる。その後ろから、ルイスと彼の命を助けた男も脱出しているようだ。
バルクライ達と合流したカイは、男達を馬から引きずり下ろした。どの男も三十代後半くらいで冴えない面構えをしていた。小物臭漂う男達に、団員が刺客自身の服を使って腕を後ろで拘束していく。バルクライが跪く3人の刺客を威圧的に見下ろす。冷えた無表情を前に抵抗する気力もないのか、男達は冷や汗をかきながら俯く。団長の怒りを一身に浴びて、さぞ肝が冷えていることだろう。だが、尋問はここからだ。
「カイ、刺客はこれで全員か?」
「オレが気付いた限りはこいつ等だけでした」
「そうか。本部に送る前に身元を検める。ギャルタス、この男達は請負人に間違いないか?」
「あぁ。請負人の中でも犯罪すれすれに手を出してる奴等だ。しかしまぁ、腕はそこそこあるんでね、オレの目の前でおかしなことはすまいと思って討伐部隊に入れたんだが……ゴーク、ワルドワフ、ザオ、お前等、誰に雇われた?」
「そ、そりゃあ言えねぇよ、頭目さん。オレ達の首が飛んじまう」
「はっはっはっ、面白い冗談だなぁ。この場にいない雇い主を恐れるより、オレに殺されないか心配した方がいいんじゃないか? なにしろ、今のオレは腸が煮えくりかえっている。お前等みたいな馬鹿野郎共のせいでオレは危うく友を失い、同盟相手の信頼まで損ねる事態に陥るところだったんだからなぁ。……この落し前はつけてもらうぞ! いいから吐け! 吐かねぇなら泥土竜と穴に埋めて燻製になるまで燻すぞ!!」
「ぐえええっ!?」
「ひぃっ!」
「は、は、吐く! 全部吐くから!」
爽やかな笑顔から一転、襟首を掴みあげてドスの効いた声で恫喝した請負屋頭目に、刺客達は竦み上がる。眼光鋭く、荒い口調で凄む様子は、新人団員でも震えあがりそうな迫力があった。うちの団長の無言の怒りも恐ろしいものがあるけど、こっちもなかなかだ。
激怒するのも当然だろう。カイも内心冷や汗を拭う思いでいた。あの時、もし神殿内で三分する組織の一角を担うルイスを失っていれば、カイ達ルーガ騎士団もなにかしらの責任を取らされていたはずだ。こちらが同行を頼み、代わりに神官達の身を守ると約束したのだから、それを守れなかったとなれば、神殿の古株の神官が黙ってはいないだろう。
そして、その実行犯が請負人となれば、請負屋の立場も危うくなったはずだ。下手をすればせっかく繋いだ同盟を壊されていたかもしれない。もしここまで計算してこんな刺客を送り込んで来たとするのならば、敵は相当頭の切れる相手だ。
「ここで嘘をつけばどうなるか、わかってるよな?」
「つかねぇよ! オレ達は誰に雇われたかなんて知らねぇんだ! 害獣討伐部隊の振り分けが行われた後に家の扉の隙間から手紙が置かれてたんだ。そこに、深夜に裏の酒場に来いって書かれてて、そこに行ったら顔を隠した男が来て、神官のルクティスを殺してほしいって頼まれただけなんだ!」
「オ、オレも同じように呼び出されて、そいつに前金で金貨10枚もらった。それで、成功したら報酬で金貨20枚もくれるって言うから飛びついたんだ。こいつ等が仲間なのもその時初めて知らされた」
「三人共賭けに負けたり女に貢いだりで借金があったし、報酬がデカいから思わず目が眩んで……それに、誰かにこのことを言えば殺すと脅されて断れなかったんだよ」
焦燥の滲んだ顔で罪を少しでも軽くしようと我先に口を開く男達は、本気でギャルタスを恐れている様子だ。その言い訳半分の説明に耳を傾けていたバルクライがふいに口を開く。
「手紙はどうした?」
「えっ!? あ、も、燃やせって指示があったからその通りにしましたっ!」
「オレもです!」
「すんません!」
年もだいぶ上の男達がバルクライを相手に背筋を伸ばして声を裏返しそうになりながら答えている様子は、情けないと言うほかない。しかし、年下であろうとルーガ騎士団師団長だ。実力は誰もが知るところだ。そんな相手に下手な虚勢が通じるはずもないと本能的に悟ったのかもしれない。
再び口を噤むバルクライの後を取るように、ルイスがため息をつきながら疲れたように首を振る。
「やれやれ、随分と頭のまわる相手に命を狙われてるみたいだな。お前さん達はここで捕まってよかったかもしれないぞ。オレを殺した所で無事にすんだとも思えん」
「そりゃあ、どういうこった!?」
「口封じに殺されていたはず、とおっしゃりたいのでしょう? ルクティス様をお守りした楯には液体状の付着物があります。あのナイフには毒が塗られていたのではないですか?」
ルイスを助けた男が楯を抱えて見せる。そこにはドロリと何かが付着していた。医療部隊に検査してもらう必要がありそうだ。




