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223、モモ、気になる~素直じゃない人の本音は探して見つけてあげたいなぁ~中編その二

 角を曲がってきたトーマと目が合う。しかし、その視線はすぐに逸らされて、横を通り過ぎてしまう。桃子は咄嗟にその後を追いかけていた。


「どうなさるのですか、モモ様?」


「わかんない。けど、同じ団員なのに喧嘩したままはよくないよねぇ。トーマのことが気になるから、ちょっとだけ寄り道させて?」


「そりゃいいけど、見た感じ素直に話してくれるとは思えないぞ」


「うん。だから捕まえるの!」


 護衛してくれている二人を振りまわしちゃうのは申し訳ないけど、桃子はあの一瞬の表情がどうしても引っかかってしまったのだ。スタスタと足早に進んでいくトーマの後ろをとっとっとっと軽い足音が追う。廊下ですれ違う団員さん達の視線を受けながら、必死に付いて行くと、トーマの速度が上がった。


 きっと後を付いて来てることに気づいて、振り切ろうとしてるのだ。その様子が桃子の心に火を点けた。──さぁ、開催されました! 競歩選手権! 桃子選手、前方のトーマ選手を必死に追いかけます。負けじという思いからか、その口元にはぐぐっと力が入っているようです! おぉっと、ここで桃子選手の足がもつれたぁ!?


「モモ様!」


「ここでか、モモちゃん!?」


「あっ……うぶしっ!?」


 桃子はべしゃりと顔から廊下に突っ込んだ。打ちつけた顔も体も痛い。シーンと廊下の空気も凍りついてる。誰か、電子レンジで解凍して! また転んじゃったよぅ。は、恥ずかしい……っ! 痛む全身を庇うようにのそのそと起き上がっていく。


 うぅぅ、お子様になってから転ぶことが増えてる。やっぱり足が短いから? なにか物に引っかかるならまだ諦められるけど、自分の足に引っかかるって、運動神経の鈍さを披露してるみたいで悲しくなる。おかしいなぁ、そんなに悪くなかったはずなんだけど。頭の上でレリーナさんとジャックさんが慌てている。よく転がる子ですみません……。 


「オレを追いかけて転ぶって、馬鹿なの、お前?」


 呆れた声が降って来て、ひょいっと抱え上げられる。てっきり先に行っちゃったと思っていたトーマが戻ってきてくれたのだ。桃子は涙目になりながらも、ひしっと団服の袖を掴む。転んじゃったけど、おかげで捕まえられた!


「ぷっ、額と鼻の頭が真っ赤。まぬけ面」


「うぐぐっ、笑わないでよぅ。たしかに間抜けかもしれないけど!」


「認めるのかよ。泣かないのか、お子様?」


「泣かないもん。トーマとお話ししたい」


 滲んだ涙を拭ってトーマを見上げれば、わざとらしいため息をつかれた。そんな態度くらいじゃ引き下がらないかんね! って気持ちでじっと見つめ続けると、口元がほんの少し上がった気がした。


「ここで断っても諦めそうにないし、お前とだけならしてやるよ。先に言っとくけど、オレがなんでも答えると思うなよ」


「うん。わかった」


「それなら、話してやってもいい。──あんた達は来るなよ。こいつは後で返すから」


「レリーナさん、ジャックさん、トーマの言う通りにしてもらっていいかな? 少し離れた場所で見ててくれる?」


「えぇ、わかりました。モモ様のご意志に従います」


「書類はオレが預かるな。ついでに他の人が来ないようにしとくよ」 


「ありがとう!」


 話が決まったところでトーマが動き出した。前向きの真っすぐな姿勢で抱えられたまま、桃子は移動することになる。まるで空中浮遊してるみたいで、ちょっと楽しい。トーマは桃子の来た道を戻るように廊下を進み、途中で両開きの扉を開いた。すると、庭らしき場所に出る。木製のベンチが何個かあって、読書しているお姉さんがいたり、木陰で仲良く休んでいるお兄さん達の姿もあった。


 木々が程よく生い茂っていて緑の豊かな落ち着いた場所だ。日当たりもいいし、憩いの場って雰囲気がしてる。トーマは出入り口から距離を取り、人気のない木々の中まで足を進めると桃子を地面に下ろしてくれる。距離を取って護衛の2人が木々の間に消えるのを確認して、トーマが口を開いた。


「なにが聞きたいんだ?」


「どうして庇ってくれたお友達に嘘をついたの?」


「嘘なんてついてない。聞いてたならわかるだろ? あれがオレにとっての事実だ」


「また嘘。だって、トーマが苦しそうな顔をしたのを私見たもん。あの言葉が心から出た言葉なら、あんな顔はしなかったはずだよ。トーマはファングルさんが2番隊のもめ事に巻き込まれないようにそう言ったんじゃない?」


「ガキには世の中のすべてが明るく見えてるみたいだな。オレがそんなお人好しなわけないだろ。あいつのことが邪魔だと思ったからそう言ったまでだ」




 

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