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222、モモ、気になる~素直じゃない人の本音は探して見つけてあげたいなぁ~中編

「レリーナさんはバル様にそう思ったことない?」


「男性の方をそのように思ったことはありませんね。それに、バルクライ様は高名な芸術家がお作りになられたように整ったお顔立ちをなされていますし、女性を引き付ける魅力的なお方ですが、どの女性もあの方を可愛いとは思われないかと」


「そうかなぁ?」


「モモ様は感性が豊かでいらっしゃるのでしょう。ですが、男性の方に可愛いという言葉はどう思うのでしょうね。ジャックはどうかしら?」


「嫌ってわけじゃないですけど、男としては複雑な気分になりますね。たぶん男ってのは、自分が言われるより好きな相手に言いたい側なんですよ。けど、その、もしレリーナさんがそう言ってくれるなら、オレは喜んで受け入れようかと!」


「言わないわ」


 ほんのり顔を赤くして勇気を出した様子のジャックさんに、レリーナさんが冷静にお断りした。しょんぼりしちゃったジャックさんがちょっぴり気の毒だけど、勇気を出す方向が少ーし違う気がするの。足をぽんぽんしてあげると、下がり眉のジャックさんの目がこっちに向けられた。大丈夫だよ、任せて!


「まだ知り合ってそんなに経ってないもんねぇ。これからたくさんいいところを知っていくんだよ。それに男の人は可愛いより格好いい方がいいんでしょ? だったら格好いいとこをこれから見せて!」


「……そうする。二人に格好いいって言ってもらえるように頑張るよ」


 情けない顔をして笑うジャックさんだけど、肩に力が戻ってる。やる気出た? クールなレリーナさんと心の距離を詰めるには、一気に高跳びするような手段じゃなくて地道に信頼を重ねていくのがいいと思う。階段を登るみたいにね。そうしたら、きっとレリーナさんも心を開いてくれるよ。


 お話ししながら歩いていたらちょうど曲がり角にやってきた。右に曲がりまーす! 心の中でそう言いながら進もうとした瞬間、男の人の大きな声がした。


「今回の害獣討伐にオレ達が外されたのはお前のせいだろ!」


 びっくぅっと心臓が飛びあがった。桃子はびたっと足を止めて、跳ねた心臓を慌てて両手で押し戻す。はぁぁっ、びっくり! 廊下で誰か喧嘩してるの? 両隣で律義に一緒に足を止めてくれた二人を見上げて顔を見合わせると、桃子はそぉーっと曲がり角から片目だけ覗かせてみた。廊下の窓際で数人のお兄さんが誰かを囲んでいるようだった。


「お前みたいなスカした奴に従う団員は2番隊にはいないぜ。トーマ、てめぇが自分から隊長を降りろよ」


「オレ達の隊長はファルスさんだ。オレ達は絶対にお前を隊長だなんて認めない。これは2番隊団員の総意だ」


「待って下さいよ、先輩方! そりゃあ、トーマは口が悪くて素直じゃないですけど、性根まで腐った奴じゃないんです! それは、親友のこのオレが保証します!」


「うるせぇっ、他の隊の奴は黙ってろ!」


「もともといけ好かなかったんだよ。昨年の害獣討伐で隊長と団員を助けたからって、なんでお前みたいな奴が次の隊長なんだよ! 剣の腕がそこそこ良いってだけじゃねぇか」


 責められているのはトーマみたい。五人のお兄さんが怖い顔でトーマを取り囲んでいる。そこに一緒に囲まれちゃってる味方らしいお兄さんもいて、必死に騒ぎを収めようとしてるみたい。あの味方のお兄さんは知ってる人だねぇ。廊下で私のこと放り投げちゃって、ナイスキャッチしてくれたカイに怒られてた人! 親友って言ってたからよっぽど仲がいいんだね。と、思っていたら、黙って聞いてた様子のトーマが小馬鹿にしたように鼻で笑った。


「あんた等さぁ、ほんと馬鹿じゃねぇか? 隊長職がそこそこの腕でなれる程度のものなら、ルーガ騎士団は害獣か他国の侵略でとっくに壊滅してるよ。そんなにオレに降りてほしいなら実力で奪ってみれば? あぁ、でも、出来ないよなぁ? だって、あんた等、オレが団員の時でさえ一度も勝てたためしがないもんなぁ? 勝負しても負けるのが目に見えてるから、自分から隊長を降りろなんて馬鹿をほざくしか出来ねぇんだよなぁ?」


 うわぁ。「なぁ?」の上がり方が増えるごとに馬鹿にしてる感も増量してるぅ! お兄さん達が歯をむき出してイライラを我慢してる。5人共、お顔が夜叉になってるの! うえぇっ、こあいよぅ。


「こんの野郎……っ」


「トーマ、喧嘩売るのは止めようぜ、な? ほら、相手は元先輩だし、今はトーマの部下でもあるんだからさ」


 味方さんはトーマと先輩団員さんの仲を取り持とうとしてるみたい。だけど、トーマはそんな良い友達にも冷めた顔を向けた。


「ファングル、お前もさ、親友とか名乗るの止めてくれるか? オレ達はただの同期だろ」


「トーマ……」


「オレのことより、平団員でしかない自分の立場をもっと心配しろよ」


「はっ、とんだ親友様だな。心配してくれるダチさえそういう扱いか。やっぱどう考えても許せねぇわ。ダチも大事に出来ねぇ奴が 隊長なんてやってんな!」


「なんとでも言えば? 実力がない奴が何言っても無駄だから。オレを引きずり降ろしたいならオレより強くなってくださいよ、先輩」


 嘲笑うように口端を上げて、トーマは先輩達の囲いを抜け出してこっちに向かってくる。でも、6人を背後にした瞬間、その表情が苦しそうに変化したのを桃子は見逃さなかった。






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